2011.07.18 Monday
俺はよろめきながらも立ち上がると、
口元を抑えながら、ふらふらと部屋を出る。
なんとかトイレに辿りつくと、
急いで便座を上げ、そして襲い狂う吐き気を開放した。
濁流のように吐き出される吐しゃ物。
便座にすがりつきながら、胃の中を空っぽにすると、
そのままトイレの中でうずくまり、
そして子供のように泣きじゃくった。
口元を抑えながら、ふらふらと部屋を出る。
なんとかトイレに辿りつくと、
急いで便座を上げ、そして襲い狂う吐き気を開放した。
濁流のように吐き出される吐しゃ物。
便座にすがりつきながら、胃の中を空っぽにすると、
そのままトイレの中でうずくまり、
そして子供のように泣きじゃくった。
全てただの過去の話。
そうわかっているのに、
自分の矮小さに腹が立ち、
その悔しさで更に涙を流す。
「枝里子……枝里子……」
そううわ言のように、呟くことしか出来なかった。
どれだけそうしていたんだろうか。
まるで熱病に冒されたかのような身体をなんとか立ち上がらせ、
そして後片付けをしてトイレを出る。
リビングからは、薄っすらとTVの音が聞こえてきた。
扉を開けると、枝里子の後ろ姿が見える。
その音に反応して、枝里子が振り返った。
「あ、終わった?お疲れさ……?」
枝里子は俺の方を見るやいなや、
「どうしたの?顔色悪いよ?」
と身重の身体で急いで立ち上がり、
そして駆け寄ってきた。
そして俺の額に手をやり
「熱は……無いね。どうしたの?具合悪い?」
俺は黙って首を振る。
枝里子の心配そうな表情が、
俺の涙腺を再び刺激した。
俺は涙を流しながら、枝里子を抱きしめる。
「ちょ、え?せんぱ……あなた?どしたの?ねぇ?」
俺は嗚咽を漏らしながら
「……何でもない……もう少しだけ、いいか?」
と声を絞り出した。
枝里子はそんな俺を無言で抱きしめ返してきて、
そして優しく背中や頭を撫でてくれた。
「枝里子……愛してる……」
「うん、あたしも。あなた。愛してるよ」
落ち着きを取り戻した俺は、すっと枝里子から離れる。
枝里子は、困ったように微笑みを浮かべ、
しかしその目には薄っすらと涙が溜まっていた。
「ごめんね?何か辛いことあったんだよね?
気づいてあげれなかった。ごめんね」
「違うんだ……その、ちょっとな」
俺は被りを振りながら、そう答えた。
気まずい沈黙が流れる。
「その、急に悪かったな。それじゃ……まだ仕事残ってるから」
その場から逃げ出すように、踵を返した。
しかしその刹那、俺の腰には、
華奢で、暖かい腕が回された。
背中には、額がぽん、と置かれる感触。
「ねぇ……あなた?」
俺が返事を出来ずにいると、
その声の主は、言葉を紡いだ。
「仕事……辛かったら辞めても良いんだよ?
貯金いっぱいあるし、この子産んだら、
あたしが働けば良いんだし。
だから、無理しないで。
一人で溜め込まないで。
お願い。
あたし、あなたがこの子と同じくらい大切だから」
俺は、腰に回されたその手に、自分の手をそっと重ねる。
「ありがとう」
腰からは、返事代わりにノックをするような振動が伝わってくる。
お腹の子にまで心配させるなんて、父親失格だ。
俺はくるりと振り返り、枝里子の頭を撫でた。
「大丈夫。本当そんなんじゃないから。
ちょっと疲れただけさ」
そう言うと、顔を素早く枝里子の唇に寄せる。
顔を離すと、ぽーっとした枝里子と見詰め合う。
なんだか照れくさくなって、また踵を返す。
「あ、じゃ、じゃあまた寝室戻るから」
しかし今度は直接手を握られ、
再度引き留められる。
枝里子の腕が今度は首に回った。
彼女は目を瞑りながら
「もう一回」
とキスを要求してきた。
寝室のドアを開ける。
結局枝里子の「もう一回」は十回以上続いた。
俺はPCに開かれたままの、
先程までページを確認する。
そこには、第五話が投稿されていた。
しかも、10分前に。
俺は
1.『もう過去の事など気にしていられない。そっとPCの電源を切った』
2.『枝里子にどんな過去があろうと、全て受け入れる。そのページをクリックした』
「あなたー。ご飯よー」
ダイニングから聞こえてくる枝里子の声に反応して顔を上げる。
「わかったー。すぐ行くー」
視線を元に戻すと、すやすやと気持ち良さそうな寝息を立てる赤ん坊。
俺は名残惜しく感じるが、その小さな額にそっとキスをして、その場を離れる。
食卓には、既に料理が並んでおり、そしてそこに用意されている幼児用の椅子には、
うつらうつらと舵を漕ぐ猛の姿があった。
「なんだ、武のやつ随分と眠そうじゃないか」
「さっきまでお昼寝していたから」
そう言うと、苦笑いを浮かべながら、枝里子が武の頭を撫でて
「ねー?おねむだよねー?」
と優しく囁きながら、自分も席につく。
あれから二年半ほどが経った。
あの時お腹に居た武も、もうぽつぽつと喋りだすくらいに成長した。
枝里子に懐いてばっかりで、未だに「パパ」と言ってもらえないのが寂しいが、
それも男親の宿命だと、日々肩を落としながらも子育てを奮闘中だ。
武。
男らしく、力強い子になってほしいと二人で決めた名前。
そして年子で産まれた、先程まで見ていた赤子。
そして、更には今枝里子のお腹には、三人目が居る。
当初の予定では二人まで作ろうと思っていて、
実際二人目が生まれた時点で気をつけてはいたのだが、
はりきりすぎてしまったという事もあって、
どうも避妊に失敗してしまったらしく、
結局三年連続で、枝里子は懐妊してしまった。
しかし体型なども変わる様子はなく、
ますます女として魅力が増していく枝里子には、
夫しても、日々想いを募らせていくばかりだ。
枝里子と一緒に、猛の頭をそっと撫でていると、
ふと枝里子と目が合う。
どちらからともなく、クス、と照れ笑いを浮かべ、
そしてお互いがそっと首を伸ばし、唇を重ねた。
「係長さん。お仕事大変だろうけど、無理しないでね?」
エリコのそんな微笑に、涙が出そうになる。
これからもよろしく。
愛してる。枝里子。
Happy End
第五話
話は一年程前に遡る。
この話の第一話。
エリコと主任が結婚をして一年目。
丁度主任が新築の家を建てたころの話だ。
外回り中の僕が、たまたまエリコを街中で見掛けた。
退屈な仕事によほど嫌気が差していたのか、
それともうだるような暑さに頭が茹で上がっていたのか、
僕は見失ってしまったエリコの後姿を、
夢遊病患者のようにふらふらと追い出した。
よしんば再会を果たせたとしても、
一体何がどうなるというのか。
僕も彼女も、お互いに未練など何一つ無いはずだ。
ちょっかいを出せば、また手痛い平手打ちを喰らうのは目に見えている。
僕の何の確信も持たないまま、
彼女が歩いていった方角だけを頼りに足を進めた。
俗にいう第六感だとでもいうのだろうか。
その偶然の再会に、僕は意味を求めずにはいられなかった。
徐々に少なくなっていく人通り。
路地は狭く、そして裏ぶれたものになっていく。
ちらほらと見えてくる風俗店の看板。
そしてラブホテルの簾。
そんな退廃的に風景に似合わない、
背筋の伸びた、上品な服装の女。
その女性は、数多く並ぶラブホテルの一つの前で、
まるで取引先と待ち合わせでもしているかのように、
緊張の面持ちと姿勢を見せていた。
その目と唇は慙愧の念に捉われ、
とても悲しげにすら見える。
やがてその女性に近づく、
白いワイシャツを捲り上げた、
スーツ姿の熊のような男。
男は女性に向かって片手を上げて挨拶をすると、
その肩を抱き、そしてそのままラブホテルに入っていった。
僕はしばらくそこで立ち尽くしていた。
目の前の光景がとても奇妙なものだったから、
それが熱せられたコンクリートから出た、
蜃気楼が見せた幻かと我が目を疑った。
僕は、やはり夢遊病患者のような足取りで会社に戻る。
丁度そこへ、主任の姿。
いつも通りの、人の良さそうな笑顔と穏やかな物腰で、
「お疲れ。外は暑かっただろう?熱中症には気をつけろよ」
と声を掛けてくれた。
僕は尋ねた。
「あの、主任。林は?」
「ん、ああ。今外回り中だと思うぞ?何か用か?」
「いえ……」
『奥さんは?』
とは、聞けなかった。
二時間後、林が何食わぬ顔で戻ってくる。
僕はその背中に声を掛け、非常口の螺旋階段へ彼を呼び出した。
「なんだよ?」
僕は単刀直入に問いただす」
「お前さっきまでどこにいた?」
「あ?営業だよ営業」
「ラブホテルでか?」
林の顔色が変わる。
彼は一度周りを確認すると、声を抑えてこう言った。
「……見てたのか?」
僕は黙って頷く。
「お前だけか?」
もう一度。
林は額に手をやると、大袈裟な溜息をついた。
しかしその表情には、笑みが零れていた。
「あーあ。やっぱ危ないか。でも平日の昼間くらいしかねーんだもんな。
しっかし、まぁ不幸中の幸いだったな」
「いつからだ?」
僕は間髪入れず林を問い詰めた。
「いつからって、まぁ最近っちゃ最近だよ」
「お前、やってることわかってんのか?」
林は顔をしかめる。
「なんだよ、お前だって島崎で遊んでたじゃねえか」
「それは僕の女だったからだ。
今は主任と結婚してるんだぞ?」
つい声を荒げてしまう。
林は「馬鹿!声でけえよ」と眉をしかめた。
「とにかく、もうやめとけよ」
僕はそれだけ言い残し、その場を去ろうとした。
しかし
「そうは言ってもなぁ……」
そんな林の言葉に、もう一度身体を反転させる。
「お前な」
僕のそんな呆れた声を意に介さず、
林は笑顔を浮かべてこう言った。
「なぁ、お前今晩時間あるか?」
「……なんだよ?」
「俺の部屋で飲もうぜ。ちょっと話あるしさ」
話など、ろくなことではあるまい。
そんな事はわかりつつも、その晩、
僕はその誘いに乗って林の部屋へ行った。
どこか責任を感じていた部分もあったのかもしれない。
林は僕を部屋に招き入れると、
ゴミが散乱した床から、何かを探すように手でまさぐっていた。
僕は自分が座れるだけのスペースを確保し、
胡坐をかくと林に尋ねた。
「今まで何回会ってるんだ?」
「結婚してからは2回だよ」
「してからは?」
「ちっ、うっせえなお前は」
「する前もか?」
「一回だけな。結婚する直前だよ」
「それで最近また会うようなったっていうのか?
もう結婚して1年近くだろ?」
「まぁ待てよ、ああ有った」
林はゴミの山から、一枚のDVDを探り当てると、
それをデッキに入れた。
映像は、見た事のある部屋が映る。
厳密には、今見ている光景だ。
散らかった床の、狭い部屋。
林の部屋だ。
以前に観た、エリコと付き合っている頃の部屋とは、
同じ部屋とは思えないほどに汚く散らかっている。
そこに、エリコがちょこんと座っている。
『早く渡してよ』
画面内のエリコは、余裕の無い表情で、
狼狽するかのように林に何かを懇願していた。
『まぁ待てよ。久しぶりなんだから、ゆっくりしてけよ』
林がエリコの肩に手を伸ばす。
しかしその手は、素早くエリコの手で叩き落される。
ぴしゃり、と乾いた音が響いた。
『……この後用事があるの』
叩かれた手を撫でながら、林が下卑た笑いを浮かべる。
『主任とか?』
『な、なんで?』
林のその言葉に動揺を隠せないエリコ。
『なんでもクソも、お前と主任が付き合ってるのなんて、
部署の皆気づいてると思うぜ?
お前はともかく、主任わかりやすいからな』
林のその言葉に、エリコは一瞬恥ずかしそうに顔を伏せるが、
すぐに目尻を上げ、きっ、と林を睨む。
主任を馬鹿にされたと思ったのだろう。
『で?やっぱデートか?』
『……そうよ』
「ああ、わかってると思うけど、これ島崎が結婚する前のな」
ビールを片手に隣に腰を下ろした林が、
補足説明するように、そう言った。
僕は彼を一瞥すると、映像に視線を戻した。
『結構長く続いてるんだな。俺の時と違って。
笹島とも一年くらいだっけか?」
『もう関係ないでしょ』
『なんだよ連れないな。
昔あんだけ愛し合ってたのによ』
エリコは林のその言葉に、舌唇をきゅっと噛むと、
すっと立ち上がり、
『もういい。帰る』とだけ言い残し、
林に背を向けた。
しかし林は慌てる様子も無く、
『これ、いいのか?』と、何かトランプのようなものを、
数枚指で挟んでヒラヒラと振った。
エリコは振り向くと、悔しそうに顔を歪め、
『……最っ低』と声を振り絞った。
「ああちなみにアレはこういうやつな」
不意にかけられた声に反応して、
画面から目を離すと、
林がまたごそごそとゴミの山から何かを掴み取る。
それはどれも薄っすら汗ばんだ全裸のエリコのお腹や胸に、
白い液体が飛び散ったものばかりだった。
画面に目を戻すと、エリコは歯を食いしばり、
両拳をぎりぎりと握り締めていた。
『主任何て思うかな。愛しの島崎が後輩とこんな仲だって知ったら』
画面上の林は、片眉を吊り上げて、愉快そうにそう言った。
僕は呆れた表情で隣を見る。
現実の林は、バツが悪そうに、
「な、なんだよ。仕方ねえだろ。
そりゃ主任には悪いって思ったけどよ……。
ほら、お前もわかるだろ?
飽きたけど他の奴のもんになるとさ、ついついな」
と言葉を濁した。
『そ、そんなの昔の話じゃない!
それにそんなの、いつ撮ったのよ!?」
『お前ってほら、イカし続けたら失神寸前までイクだろ?
そん時に、な』
林のそう言い終わるや否や、エリコの平手が林を襲った。
しかし流石は武芸経験者。
いとも簡単にその手を捉えると、
逆にエリコを胸元へ引き寄せた。
『別に別れさせようなんて思ってねえよ。
ただ、な?一回だけやらせろよ』
エリコは見上げるように林を睨みつけると、
瞳から一筋の涙が零れた。
『なんで……あんたなんか……』
その反応に、林は少し顔をしかめるが、
それでも交渉を続ける。
『な、なんだよ泣くなよ。
昔あれだけヤリまくってた仲だろが。
いいだろ?な?』
『……絶対全部捨てる?』
『おおよ』
『……絶対一回だけ?』
『俺が約束破ったことあるか?』
『……あるじゃない』
『何をだよ?』
『別に良い。今更そんなの』
エリコが涙を拭うと
『早くして……用事あるんだから』
と投げやりに言った。
林は無言で彼女の顎を掴み、そして引き寄せる。
しかしエリコは、首を振って拒否した。
『キスは嫌。絶対』
林は鼻を鳴らして、エリコのスーツを乱暴に剥ぎ取っていく。
エリコなりの抵抗だったのだろうか。
彼女は人形のように、微動だにせずに、
ただ林の為すがままだった。
しかし、林はエリコが悦ぶことを全て知っていたし、
そしてエリコの身体も、また林に与えられる快感を憶えていた。
『んっ……やっ』
林が彼女の乳首を乱暴に舐めたり、
陰部をまさぐったりするほどに、
徐々にエリコの呼吸音は荒くなり、
時折身をよじったり、腰を浮かせたりした。
そして林が、エリコの下腹部を撫でていた手の平を、
彼女に見せびらかすように、閉じたり開いたりすると、
そこには、ねばねばと、指の間にまとわりつく粘液があった。
『いっ、いやっ……』
それを見せつけられて、エリコは反射的に目を逸らす。
その反応を楽しみながら、林は自ら衣服を脱いでいく。
一気にズボンとパンツを脱ぎとると、
その反動で既にいきり立ったモノがぶらんと揺れた。
エリコは、横目でその様子を伺っており、
それを目にした瞬間、無意識だろうが、
自身の唇を、舌で舐めた。
『おい、久しぶりに頼むぜ』
『……やだ』
『わがまま言える立場かよ?』
彼女はゆっくりと上半身を起こすと、
大きく溜息をつき、
そして、林の勃起した性器の先を、
舌の腹でゆっくりと舐め上げると、
唇をすぼめ、キスするかのように亀頭だけを咥え、
そしてゆっくりと、ゆっくりと奥の方まで咥え込む。
林は彼女の頭に手を置き、
『ちゃんとやり方憶えてんじゃねえか。
そうそう。手ぇ使わずに口だけでねっとりとな。
主任にもそうやってあげてんのか?』
その言葉を聞いて、エリコは苦々しく目を閉じ、
そして頭の手を払いのけた。
『もういいぜ』
林はそう言うと身を屈め、
エリコの腰に手を回す。
その刹那、
『ひゃうっ!』とエリコの身体が揺れる。
林の中指が、根元までエリコのアナルに刺さっている。
『主任にも、ここ許したのか?』
『あっ…うぁ……』
『なぁおい?』
『ひっ……して、ない』
その返事を聞いて、林の口元がいやらしく歪む。
『久しぶりに可愛がってやるからな。
ほら、立て。シャワー行くぞ。
綺麗にしないとな』
そう促され、エリコはよたよたと頼り気ない足取りで立ち上がり、
そして中指を入れられたまま、
林と一緒に浴室へと消えていった。
何分後かには、いつか観た盗み撮りのように、
浴室から、バンバンバン!と肉と肉がぶつかる音が聞こえてきた。
ただあの時と違ったのは、エリコの喘ぎ声が無かったという事。
「生意気にも、口に手を当ててずっと声我慢しやがってよ」
隣で林が、楽しそうにそう言った。
しばらくすると、浴室から二人が出てくる。
エリコの腰は、既にガクガクと揺れており、
その表情もどこか上擦ったものだった。
林がエリコの身体をさっと拭くと、
そのままベッドの上に押し倒し、
そして四つん這いにさせ、
そのまま、ギンギンと上を向いた自身の亀頭を、
エリコの後ろの穴へ当てがい、腰を突き出した。
林の太いそれは、驚くほどスムーズにエリコの中へ全て収まった。
「付き合ってる頃は、やりすぎて少しゆるゆるなくらいだったんだけどな。
久しぶりだったから流石にきっつかったぜ」
林のそんな声を無視して、画面を見入る。
『ひっ、ひっ、ひぅっ、はっ、あっ、あっ』
四つん這いで、腰だけを突き出したエリコを、
容赦なく林が突き立てる。
エリコのか細い腰をしっかりと鷲掴みし、
ただただ無言で、しかし笑みを浮かべ、
彼女の背中を見下ろしながら、
猛然と腰を振り続けた。
ずぷっずぷっずぷっ、という異様な音が鳴り響いていた。
よく見ると、林が抜き差しする度に、
それに釣られ、彼女のアナル周辺の肉が、
林の性器にまとわりつくようにめくられ、引っ張られていた。
エリコは、ただシーツを噛み、食いしばることしか出来ない。
『んっ、あっ、やっ、やめっ、お尻っ、熱っ、熱いっ!』
『どうだ?久しぶりのケツ穴は?』
『ひぁっ!あっ!あっ!……や、やめ……んくっ!あっ!あうっ!
熱いっ!!熱いのっ!………やだっ!やだやだっ!』
彼女がそう口にすると、林はピストンを止めた。
しかし高く突き上げた彼女の腰は、
電流を流されたかのように、
一人でにぶるぶると震えだす。
『ははっ。ちゃんとこっちでもイケるよう、
開発してやったんだからな。
もっと楽しめよ』
そう言いながら少し腰を動かす。
『あうっ!』
身体全体で痙攣するエリコ。
『や、やめて……まだ……だめ』
林は鼻で笑うと、
『あんまイカされると、また失神しちゃうもんな?
これから大事なデートだもんな?』
ともう一度エリコの腰に、自らの腰を打ちつけた。
『いっ!……あぁぁ』
『もう止めて欲しかったら、ちゃんとおねだりしろよ……っと』
『ひぅっ!……や、やだぁ』
『デート行けなくなっても知らないぞ……っと』
『んくぅっ!……や、やめて……イってるから、止めて』
泣きそうな表情と口調のエリコに、
林がそっと耳打ちをする。
それを聞いた彼女の喉が、くっと鳴った。
エリコは額をベッドに押し付け、そして両手でシーツをぎゅっと掴む。
その肩は、絶頂の余韻か、それとも悔しさからか、
小さく小刻みに震えていた。
『林……君のおちんちんで……お尻の穴……イカされました……』
林はその様子を、ニヤニヤと眺めていた。
そしてピストンを再開する。
『ちゃんと言えたから、さっさとイってやるよ』
激しいピストン。
エリコも、もう声を我慢する余裕など無い。
『あっあっあっあっあっ!……だめ!そこ!あんっあっ!だめ!』
『ああ、島崎のケツ穴すげえ。すげえ締まるぜ』
『いっあっあ!……あん!あんっ!あっ!あああっ!』
『いくぜ!?な!?おい!……ああああ、やべ!』
『あんっ!あっ!!…………あああ!!あっあっあああああ!!!』
最後のピストンが、より一層大きな『バシンっ!』という音で終わる。
それと同時に、林の身体が小さく痙攣する。
『うっ……すげ……絞られる』
『あ……あぁ……や……やだぁ……』
引こうとするエリコの腰を、林が両手でつなぎ止める。
林の射精は、長い間続き、
その間二人は、動物のようにつながったままだった。
ようやく林が離れると、エリコはうつ伏せで突っ伏して、
林はベッドの淵に座り、そして時折彼女の背中を撫でた。
一分ほどして、エリコはシーツを纏いながら、
よろよろ立ち上がると、
『写真……全部』
とおぼつか無いろれつでそう言い、手を出した。
『慌てんなよ、ほら、キスしてくれたらな』
林はそう言い目を瞑った。
エリコは、一瞬逡巡し、そして、
拳を握りしめ、大きく振りかぶった。
その拳は、林の顔面を真正面から捉えた。
鈍い音がしたのだが、林は意に介している様子は無く、
目に涙を浮かべるエリコを、呆然と見ていた。
『……馬鹿にしないで……』
林は小さく舌打ちをすると、
ごそごそとSDカードを探し当て、
そしてそれをエリコに渡した。
「あれ結構痛かったんだよな」
苦笑いを浮かべて、林がそう言う。
「わりとフェミニストだったんだな」
皮肉のつもりでそう返した。
「つうかイった直後だったからよ、
罪悪感も結構あったんだよな。
主任がわりと好きな先輩ってのも本当だし、
島崎も嫌いなわけじゃないしな。
こんな脅迫紛いみたいなことして悪かったなって、
急に思っちゃってよ」
「紛いというか、完全に脅迫だろ」
林のこの行動は、完全に僕の哲学からは離れていた。
僕も女性関係では、それなりに下等な人間だと自認しているが、
それでも他人の女に手を出したことは無かった。
その行為に、嫌悪感すら抱いた。
そう思いながらも、以前エリコに平手打ちをされた事を思い出し、
あんまり他人の事は言えないなと考え直す。
エリコは素早く服を着て、そして乱暴に扉を閉め、部屋を出て行った。
本来なら、もっと部屋を詳細に調べるべきだろうし、
彼女もそれがわかっていたんだろうが、
一刻も早く、その場を離れたかったのだろう。
「この日ってさ」
「え?」
DVDが終わり、画面にはトップメニューが映し出された。
それを見ながら、林は言葉を続ける。
「この後がさ、主任が島崎にプロポーズした夜なんだってよ。
翌日主任から聞かされてさ。
付き合ってることもその時聞かされて。
まぁそれは初めから知ってたけど。
それで結婚するんだって報告してくれたんだけどさ。
泣いて喜んでたんだって。
島崎のやつ。
蹲って。
でも多分それってよ、指輪渡された時によ、
ケツ穴から俺の精子垂れてきたんだろうな」
林は無表情でそう言いながら、DVDを取り出した。
「それで、この後は?」
「いやだから本当俺もこんな脅迫みたいな事したくなかったからよ、
これで終わりにしようと思ってたんだって。
本当のところ、初めは半分冗談みたいなノリでやるつもりだったんだぜ?
でもついついな」
「でも実際終わってないんだろ?」
「まぁ、そういうことになるな」
林は煙草に火をつけながらそう言った。
「それから?」
「そっからはあいつも会社辞めただろ?
だから長い間顔も見てなかったんだよ。
そんな時にさ、ほらこないだ主任が家建てただろ?
そのお祝いに家に皆を呼んだんだって。
お前は来なかったけどな。
そん時にさ、ついついな」
「何だよついついって。
お前さっきからついついついついって……」
「しょうがねえだろ。若い男なんだから。
あいつその時俺の事知らん振りしてきやがってさ、
で、ちょっとむかついたから、
メシ喰ってる間テーブルの下で、
足の指であそこ弄ってやったんだよ。
そん時の島崎の顔ったら傑作だったぜ。
一瞬で顔真っ赤にしてな?
それで目尻下げた困った顔で一応主任を見たんだよ。
でも主任は素知らぬ顔だ。そりゃそうだろうよ。
そしたら今度はいきなり目を吊り上げてな、
俺の方をきっ、と睨んでくるんだよ。
初めから犯人わかってたんだろうな」
「小学生かよ」
「へっ。うるせえよ。
そんでその後もずっと足の指で愛撫し続けてやったぜ。
テーブルの上じゃ皆や主任と談笑してるのにな。
まぁ俺の調教の成果だな。
しばらくするとジーンズ越しに濡れてきたんだぜ」
「エリコは抵抗しなかったのか?」
「最初の一回は足つねられたな。
その後はもう為すがままだったぜ。
まぁあんまりゴチャゴチャしてバレるのも嫌だったんだろ」
林はそれだけ言うと、煙を大きく吐いた。
白く濁った煙が部屋を満たしていく。
ますます不快な気分にさせられる。
「……それで?」
「こっそりとタイミングを見計らってな、
連絡先書いたメモ帳をエプロンのポケットに無理矢理突っ込んだ」
「他には?」
「あ?その日はそれで終わりだよ。
メモ帳も連絡先しか書かなかったからな。
それで翌週には連絡が来たってわけ」
「は?エリコからか?」
「そうだよ。
まぁ何も書いてないから、逆に不気味に思ったんじゃね?
放置しておいて、またちょっかい出されたら嫌だし、
とりあえず話だけでも聞いといてやるかって感じだったんだろ」
林はそう言いながら、別のDVDをデッキに入れた。
32型のいまだにブラウン管のディスプレイに、
見覚えのない、小奇麗な部屋が映る。
シックなデザインのソファや絨毯。
「これ主任の新築の家な。良い家だったぜ。いやマジで。
あの二人らしいシンプルなセンスというかな。
ああカメラはいつも通り鞄の中な」
事も無げにそう言葉にして、
林は二本目の煙草に火をつけた。
やがて映像に、エプロン姿のエリコと、
スーツ姿の林が映る。
林はソファに座り、そしてエリコは少し離れて立っていた。
『……で、何の用よ?……』
怪訝な表情でそう尋ねるエリコに対し、
鼻で笑い応える林。
『はっ。何の用もなにも、連絡してきたのお前じゃん』
その言葉に、より一層眉間に皺を寄せるエリコ。
『そっ、それはあんたが……』
『実は結構期待してたんじゃねえの?』
そう言いながら、エリコの腰を撫でる林。
『なっ!ばっ、馬鹿じゃないのっ!?』
その手を払いのけるエリコ。。
『心配すんなよ。別に前みたいに脅そうなんて気は無えよ。
つうかマジで悪かったな。
こう見えて結構本気で申し訳ないなって思ってたんだぜ?
一回マジで謝りたくってな』
隣の林を横目でちらりと見やると、
「これは本気だぜ?」
と煙を燻らせながら、目を瞑ってそう呟いた。
『……な、何よそれ』
『だから、悪かったって言ってんの。前のアレ。
そんなつもりなかったんだよ。
まぁ久しぶりにお前としたかったってのは本当だったけど、
あんな感じでするつもりじゃなかったんだよ。
悪かったな』
ふてぶてしくも、バツが悪そうに外を見ながら、林はそう謝罪した。
エリコは、そんな林を見下ろしている。
その表情は、画面からは窺い知れない。
腕を組み、仁王立ちで林をじっと見下ろすエリコが、やがて口を開く。
『……とりあえず、殴って良い?』
『それは困るな。これから会社戻らねえといけねえし』
『それで?それをわざわざ言いに来たの?』
『ま、それもある。ちゃんと言っとかないと気持ち悪いしな』
『……じゃあこの間のアレは何なのよ?』
『アレ?』
『あ、足で……』
『ああ、あれはただの悪戯……』
林が言い終わるや否や、エリコの拳が林の肩に突き刺さる。
『時と場合考えなさいよっ!』
肩を押さえた林は、顔をにやつかせながら
『時と場合考えたら良いのかよ?』
『良いわけ、ないでしょ!』
エリコは握った拳を、木槌のように、
軽く林の脳天へ叩きつける。
そして大きく溜息をつくと、
『……もういいわよ。わかったから帰ってよ』
と踵を返して林に背中を向ける。
林はすっと立ち上がると、その背中を抱きしめた。
『ひゃっ!』
驚きからか、一瞬エリコは爪先立ちで背筋を伸ばす。
『島崎』
『な、な、な、何なの?だめっ!離してっ!』
エリコはしばらく林の腕の中で暴れる。
しかしそれが無意味と悟ったのか、
やがて大人しくなった。
『俺、やっぱお前が好きだ』
『っ…………!』
『悪かった。一方的に別れて』
『…………あ……』
『あ?』
『あたし……もう結婚してる……し』
エリコは顔を林の腕に埋め、
そしてその声は、弱々しくか細いものだった。
『わかってるよ』
『じゃ、じゃあ……離し……てよ』
『頼む。最後に、一回』
『…………ダメ……』
『絶対、最後だから。絶対』
『…………』
林は腕を離す。
エリコは数秒その場に立ち尽くし、
ゆっくりと林の方へ向き直った。
二人の背丈はそう変わらない。
林が両手を、エリコの肩に乗せて、そして顔を近づける。
エリコも目を瞑った。
しかし二人の唇が重なる直前、
エリコの腕が林の胸を押す。
『やっ!…………やっぱり……だめ』
しかし林は無言で再度近づき、
そして今度は、問答無用といった様相で、
エリコの後頭部に手を置き、
そして力づくでその唇を奪った。
エリコの方も、それほど抵抗は無かったように思える。
長いキスだった。
舌を絡めるわけでもなし、
唇を動かすわけでもなし、
ただ単純に、唇を重ね合わす行為を、
数十秒ほど続けた。
まるで何年か振りの再開を堪能する恋人同士のように。
ようやく二人の唇が離れると、
エリコは俯き、
『いまさら……酷くない?』
『だから悪かったって言ってんだろ』
そして訪れる沈黙。
それを破ったのは、
『……ここじゃ嫌』
というエリコの呟きだった。
映像が切り替わる。
薄暗い照明の洋室が映る。
どこかのラブホテルだろう。
ベッドの上で、林が後ろからエリコが抱きしめながら座っている。
林は既に全裸で、エリコはまだ服を着ていた。
林は彼女の服を脱がしながら、言葉をかけていく。
『こういうとこ、主任と来んのか?』
『……来ない』
『ふーん。夜の生活は順調なのかよ?』
『か、関係ないでしょ』
『教えろよ』
林が首筋にキスをすると、
エリコの上半身が仰け反る。
『んっ……べ、別に……普通』
『満足してんのか?』
『う、うるさい』
『俺の事忘れられないだろ?』
『ば、馬鹿じゃないの?』
『俺はお前の事忘れたことないぜ』
『…………そんなの……ずるい……』
そんな会話のなか、下着姿になっていくエリコ。
林は残った下着を剥ぎ取ると、そのまま押し倒した。
エリコは自身の陰部の押し当てられる、
林のいきり立ったそれを一瞬見ては、
そしてぷいっと視線を逸らした。
『旦那とどっちがでかい?』
即答するように『先輩』と返すエリコ。
鼻で笑い、そして一気に腰を押し出した。
『あっ……あぁっ!』
エリコの上半身が仰け反る。
『うわ、ぎっちぎちじゃねえか。
もしかしてご無沙汰だったとか?』
『ち、違っ……あっ!あっ!』
ゆっくりと林の腰が動き出す。
『はぁっ…あん……や、やだ…………あんっ!あんっ!』
エリコの美しいお椀型の乳房がリズムカルに揺れだす。
『あっ!あっ!あんっ!あっ!……だめ!……あっあんっ!』
そのピストンと共に、林の指が、
その乳房に乗る桃色の乳首を優しく撫でる。
エリコは林の手を取り、その愛撫を止めさせようとするが、
その手には明らかに力が入っていない。
『はぁぁ……あっ!ああっ!それ、やだ……やだぁっ。
……あっあっあっ!……や、やだ……なんで?なんで?
…………くる!きちゃうっ!……あっ!あんっ!……っくぅ!』
エリコの身体が大きく震えた。
林はピストンを止めると、小さく痙攣を続けるエリコを、
笑みを浮かべて、その身体を撫で回しながら見下ろす。
『なぁ?主任とどっちがデカイ?』
手の甲を額に乗せ、なんとか呼吸を整えるエリコには、
その低俗な質問に答える余裕はなさそうだった。
しかし林は、そんな彼女の様子など意に介さず、
顔を近づけて再度質問する。
『なぁ?』
エリコは、首を横に曲げて、
『……あんたが……おっきすぎるの』
と不貞腐れたように呟く。
林がエリコの首筋を舐め上げながら、
ピストンをゆっくり再開する。
『大きいのが好きなんだもんな?な?島崎?』
『あ……あぁ……んっ……はっ……』
『な?』
『んっ…やっ……あっ…そこ……だめ…』
エリコは甘い声を出しながら、
林の首に腕を回す。
それを契機に、林の腰が大きく、そして速く動き出す。
『……あっ……あっあっあっんっあっ!……あっんっ』
エリコの表情と声には、既に余裕などなかった。
目を瞑り、口はだらしなく開いて、
頬は真っ赤に染め上がり、肌はうっすら汗ばんでいる。
『だめっ!ああっ!んっ!あっ!……んっんっ!あっ!んっ!』
目を閉じたエリコは、目の前まで迫っている、林の唇に気づけない。
激しいピストンとは対照的に、
ちゅ、と優しく二人の唇が重なり合う。
『あっ!だめ!……キスは……あっ!あっ!あんっ!……だめ!』
瞼を開けて、そう抗議するエリコなどお構いなしに、
林は何度も何度も軽いキスを重ねていく。
やがてエリコは、諦めたかのように、ゆっくりとまた目を閉じた。
二人の舌が絡み合っていく。
口を離し、林が上から唾液を垂らすと、
エリコはそれを蕩けた表情で咀嚼して、そして喉を鳴らした。
それを見届けた林が
『島崎』
と一言言うと、今度はエリコから林の首を引き寄せ、
そして口をもごもごとさせると、林に舌伝いで唾液を渡す。
『あんっ!あんっ!あんっ!……やだっ!はぅっ!んっ……あっ!』
『良いのか?』
エリコは、下唇を噛み締め、何度か首を縦に振った。
『イクぞ?』
同様に、首を振る。
林が自身をエリコから引き抜くと、
ゴムを取り、そして射精した。
それはエリコの下腹部から、そして顔まで飛び散った。
エリコはそれを甘受した。
その様子を見届けるエリコの表情は、
まるで愛おしそうにさえ見えた。
射精が終わった林は、何かを期待するかのように、
そのまま膝立ちの体勢を保っている。
エリコは、
『……やだ』
とだけ言うと、そのままシーツを被った。
林は鼻を鳴らすと、そのシーツを剥ぎ取った。
エリコの指は、いつかの映像と同じように、
自分の身体に付着した精子を掬い取ろうとしていた。
悪戯が見つかった子供のように、
その手をさっと隠そうとするエリコ。
林は無言で、まだ半立ち状態のそれをエリコの眼前に突き付けた。
エリコのその目には涙が留まっている。
しかしその表情は、どうしようもないほどに惚けてもいた。
エリコは上半身をゆっくりと立ち上がらせると、
ふらふらと、熱病に冒されたかのように、
唇を林のペニスに近づけた。
エリコの舌と唇は、林を堪能するかのように、
ねっとりと舐め上げ、そして咥え込んだ。
林は彼女の頭に手の平を置き、
『おいしいか?』と尋ねる。
エリコの返事は無い。
彼女は恍惚の表情を浮かべ、
ただひたすらと舌を亀頭に絡ませていた。
尿道に残った精液だろうか。
林を咥え込んだまま、時折彼女の喉が、くぴくぴと鳴っていた。
『昔思い出すな?
毎晩のように飲んでたもんな?』
相変わらずエリコの返事は無い。
林は彼女の頭に置いた手に少し力を入れて、
エリコを自身から引き離す。
『な?』
エリコは切なそうな表情で林を見上げ、
『……う、うん』
と弱々しく返事をした。
林は満足そうに口端を浮かべると、手を離す。
すると自分から口を林の下腹部に近づけるエリコ。
しかし林の手がそれを制止する。
『あ、もういいわ。流石にそろそろ戻んねえとまずいしな』
林が枕元にあるデジタル時計を見ながらそう言った。
ベッドから降りる林を、指で唇をなぞりながら、エリコが黙って見ていた。
『……こ、これで最後だからね』
『わあってるよ』
鬱陶しそうに、エリコに背を向けながら、林がそう答える。
映像が途切れ、そしてDVDを取り出す林。
僕は黙ったまま、その行動を見守る。
林は別のDVDを手に取ると、
「これ、今日出来立てほやほやのやつ」
とだけ言うと、それをデッキに入れた。
またしても薄暗い証明の部屋。
見覚えのある、白いブラウスにスカートという出で立ちのエリコ。
「駄目元でメール送ってみたんだよ。
『会えないか?』って」
「それで?」
「向こうから場所と日時聞いてきて、それでこの通り」
しかし画面内のエリコは、あくまで機嫌が悪そう。
腕を組んだ仁王立ちで、眉をしかめている。
『何の用?』
『何の用もへったくれもないだろうが』
『……最後って言ったじゃん』
『嫌だったら断るなり無視すりゃいいだろうが』
『……そ、そうしたらまた変なちょっかい出すんでしょ?』
『もうそんな事しねえよ。嫌だったら帰れば良いさ』
林の口調は、あくまで抑揚の抑えたものだった。
『じゃ、じゃあ帰るからね。
…………もう連絡もしないで!』
ベッドに腰かける林に背を向けて、
荒々しい足音と共に、エリコが画面から消えていく。
しかし林は微動だにしない。
エリコを引き留めることも、悪態をつくこともなく、
ただその場に居座り続け、前を見据えていた。
そして一分後。
先程とは打って変わった、弱々しい足音と共に、エリコが戻ってくる。
彼女は林の目の前まで近寄ると、
若干の間を空けて、口を開いた。
『……一つだけ教えて。何で今更?』
『今更っていうか、ずっとお前のことは気にしてたからな』
エリコは唇を噛み、眉間に皺を寄せる。
『じゃあ……何で?』
『何で?』
『何で……一緒に居てくれなかったの?』
『悪かったよ。ま、色々とな、あったからな。あの時は』
「別に何もねえけどな」
その林の言葉通り、エリコを捨てたのに理由は無く、
そして都合良く再び近づいたのにも、理由は無いのだろう。
『あたし……』
『悪かったって言ってんだろ?
……まぁ正直、結婚とか意識させられたのはちと重かったけどな』
『そ、それは、将来の話しただけじゃん』
『わかったわかった。そう怒んなって。
要はこれからの事考えようぜ。
お互いこんな立場だけどさ、
俺はまたお前を愛したいんだって』
『……都合良過ぎるよ』
『だな。それでも、やっぱりお前しか居ないんだわ』
『嘘』
『本当だって』
『嘘。
だって、昔も、一生愛してくれるって言ってたじゃん。
これからも、ずっと一緒だって言ってくれてたじゃん。
あたし、本当に嬉しくて、だから、ずっと、あなたと、一緒に居たいって……』
エリコの言葉は、途中から嗚咽と混じり、声にならない声になっていった。
目の前でぽろぽろと涙を流し続けるエリコを、
林は立ち上がって、抱き寄せる。
『悪かった。
今度は、もう離さない。
愛し続ける』
「なんか改めて見せられると照れるな。へへっ。
まぁぶっちゃけこんなもん勢いとその場のノリだけどな。
馬鹿馬鹿しいったらありゃしないぜ。
月九かよ」
そんな林の言葉に一瞬憤りを覚えるも、
同じ男としてその感覚は充分すぎる程に理解できる。
男が囁く愛の言葉など、半分以上が肉欲に支配されただけの、
勢いと若さに任せた、いわば社交辞令に過ぎない。
少し泣き止んだエリコは、鼻を啜り、目元を拭いながら、
『……馬鹿。
あたし結婚しちゃったじゃない……』
と、呆れたように、でもどこか優しげな口調でそう言った。
林の腕の中で、その顔を見上げるエリコ。
少し首を伸ばし、そして口付けを交わす。
『でも……嬉しい。
馬鹿だあたし……
……本当馬鹿』
『島崎……愛してる』
『猛……』
『懐かしいな、その呼び方』
「なんか本当にメロドラマみたいだな。
やば。何かマジで照れてきた」
隣で林が、柿の種を頬張りながらそう口にした。
僕の目頭を押さえ、しばらく思案に耽る。
芽生えるのは、少しばかりの先輩への罪悪感。
僕がこの事態を防ぐべきだった、
なんて事は微塵も思わない。
しかし、こんな事を望んでいたわけじゃない。
ふと顔を上げると、そこには既に全裸で愛し合っている二人の姿。
ごくごく普通の正常位。
愛しあう二人が、自然に求め合う形。
林の強靭な胸板と腕に組み敷かれ、
エリコの細く白い手足は、
二度と離したくない大事なもののように、
林の背中を抱きしめている。
『あっ!あっ!あんっ!あっ!……猛!猛!……んっ!あっ!はぁっ!あんっ!』
『島崎!愛してる!島崎』
『あ、あたしも…あっ!あっ!んっ!あっ!……そこ!そこいい!』
『気持ちいいか?』
『……いい!すごい!猛!……あたしやっぱり……あんっ!あんっ!あっ!』
『あ?』
『あたし……猛が一番良い……あっ!あっ!んっ!はぁっ!』
『俺のこと忘れられなかっただろ?』
『うん……うん……猛!あっ!あっ!あああっ!だめ激しい!』
『激しいの好きだろ?』
『やだぁ!……んっ!んっ!あっ!……わかんない……あっ!』
『好きだろ?』
『ああっそこ!やだすごい!…………ん……うん、好き!』
『俺のちんこ好きだもんな?』
『うん…あっ!あっ!あんっ!……猛のおちんちん好き……猛が……好き…』
『主任のじゃ駄目なんじゃねえか?』
『そんな……言わないで……あっ!あっ!んっ!あっ!はっ!
ね?あたし……もうだめ……きちゃう』
『いいぜ。俺もやばいかも』
『ほんと?あっ!あっ!きて!猛!イって!……あっ!ああっ!……はぁっ!
イク……イっちゃう……あっだめ!……ああああああっ!!!』
林がエリコの上半身に射精していく。
エリコは身体を震えさせながらも、
なんとかゆっくりと上半身を起こしていった。
そして口を開けながら、精子が噴出している入り口に近づいていく。
まるで砂漠の遭難者が、雨に遭遇したかのように。
勢いよく飛び散る精子は、エリコの口だけの留まらず、
その顔面を白く染めていった。
射精がひと段落着くと、エリコは躊躇なく亀頭をくわえ込む。
咥えながらも、時折首を小さく左右に振って、
口腔内でその味と感触をふんだんに味わっているようだ。
しかし一度口を離す。
そして林を見上げ、甘く蕩けきった声で、
『猛……』と囁いた。
林はその頭を撫でながら、
『愛してるぜ』と言い切った。
その言葉にエリコは悲しそうに顔をしかめ、目に涙を浮かべた。
そしてまた巨大な亀頭に口付けをし、そして咥えた。
やがてエリコの目元から、大きな涙が流れる。
その涙は、一体誰を想ってのものなのか。
「ま、こんな感じだな」
「これからどうすんだ?」
「流石にやばいからな。まぁあんまり大胆なことは出来ねえだろ」
「というか止めとけよ」
「はっ。お前には関係ねえだろ」
「関係無くはないだろ」
「ふんっ。まぁ主任には悪いからよ。そこそこで止めとくさ」
林の部屋を出た後、僕は晴れ渡った夜空を見上げながら自宅へ帰った。
初めてエリコを抱いた夜も、こんな夜空だった気がする。
もうあれから何年も経った。
エリコは昔の自分を子供だと言っていた。
彼女は大人になれたんだろうか。
少なくとも、僕はずっと子供のままだ。
それから半年後。
僕は林から距離を置いていた。
これ以上エリコとの話を聞きたくなかったからだ。
そんなある日。
いつも通り億劫な気分で出勤すると、
居室から盛大な拍手が聞こえてくる。
その輪の中心には、主任が居た。
僕は近くの女性社員に尋ねる。
「何かあったの?」
「ああ、主任の奥さんが妊娠されたんですって。
昔ここで一緒に働いてた人ですよね?
あたしも何度か見かけたけど、綺麗で格好良い人だったなぁ。
笹島さんは同期でしたっけ?」
「あ、ああ」
生返事を返すと、もう一度その拍手の輪の中心に目を向ける。
主任の肩に手を回し、誰よりも満面の笑顔で祝福している林の姿があった。
僕は昼休みに、林を呼び出した。
林は心底面倒臭そうな口調で、
「なんだよ?」と吐き捨てる。
「お前……まさか」
「……なんだよ?」
きょとんとした表情を浮かべる林。
「エリコ、妊娠したって」
「ああ。らしいな。目出度いことじゃねえか。
お前こんな時くらいちゃんとお祝いしろよ」
そのなんのてらいもない態度に、少々肩透かしを感じる。
「お前、関係ないのか?」
「はぁ?」
「だから、主任の子なんだろうな?」
僕のその言葉に、林は眉間を指で押さえ、
「あのなぁ……当たり前だろが。
いくらなんでもそんな事すっかよ。
大体もう最近は会ってねえよ馬鹿」
まるで心外だというその態度。
僕はほっと胸を撫で下ろす。
「で?お祝いどうすんだよ?」
「……わかってるよ。金でもなんでも出すよ」
「ま、産まれてからでいいか」
「ああ」
林はそう口にすると、踵を返して去っていった。
「そうか。良かった。エリコ。おめでとう」
一人残された螺旋階段で、そう呟いた。
そして現在に至り、話は一昨日に遡る。
「笹島君。今日の歓迎会くらいは来るんだろうね?」
「……善処します」
目の前の油ぎった課長から目を逸らし、そう答える。
そんなもの行きたいわけがない。
ただでさえサイトの更新が滞っているのだ。
心の中でそう悪態をつきながら、自分の席に戻る。
そこへ林がへらへらと近寄ってきた。
「なんだぁ?お前が課長から小言たぁ珍しいじゃねえか」
「新人の歓迎会に来いって言われただけだ」
「なんだ、つまんねえな。で?来んのか?」
「いや、HPの更新……」
そこまで口が滑り、慌てて口を閉じる。
「HP?」
「……なんでもない」
「なんだよお前そんなの持ってんのかよ?
あれか?今まで喰った女のハメ撮りとかか?」
林が目を爛々と輝かせながら、そう問い詰めてくる。
彼の中では、ネット=いかがわしいものなのだろう。
「違うよ馬鹿。あと声でかい」
「なんだよ教えろよ」
あまりにしつこく、そして声がでかいので、
僕は渋々検索キーワードを教えることにした。
どうせ林はPCスキルが皆無なので、
この隠しページには到達できないだろう。
万が一見られても、当人なんだから問題あるまい。
そしてその日の昼過ぎ。
僕は歓迎会からどういった口実で逃げようか思案していると、
主任から声を掛けられる。
「なぁ笹島。林知らないか?」
「え?さぁ。外回りじゃないですか?」
「そうか。すまんな」
そう言うと、主任は電話を取り出した。
「もしもし。俺だ。今どこだ?……ああそうか。
こないだの会議の議事録ってどこにしまった?
……ああ、わかった。鈴木さんだな。何時ぐらいに帰れそうだ?
……そうか。まぁ気をつけてな」
そして3時頃、林が帰ってくると、
「これ、お返しに見せてやるよ。へへ。
最近セフレで撮った盗撮」
とDVDを、僕の机に置いていった。
「いやだから、僕のサイトはそういうんじゃないって……」
林はそんな僕の言葉をろくに聞かず、
背中を向けて去っていった。
数十分後、
「お前これ全然エロくねえじゃん!」
と怒ってくる林の姿があったが、無視した。
やがて定時になり、殆どの人間は歓迎会の会場へ向かっていった。
僕は机の前で、仕事が残っている振りをしてようかと考えていると、
林が置いてあったDVDが目に映った。
周りと見渡すと、いつの間にか僕と課長だけになっていた。
その課長も、腰を上げると、
「笹島君。私はもう行くからな。
君も来るんだぞ?いいな?
戸締りは頼んだぞ」
と言い残し、タイムカードを押して出て行った。
僕は、そのDVDをPCに入れた。
『ああっ!あっ!やだっ!あっ!あっ!あっ!んっ!』
見覚えの無い薄暗い部屋。
しかしラブホテルではないのは明白。
清潔感に溢れ、穏やかなセンスで纏められたその部屋は、
どこか生活感が溢れている空間だった。
全裸の男が、同じく全裸の女性の上で腰を振っている。
その動きは激しいものではなく、
相手の身体をいたわる、
ゆっくりとした、しかしねちっこい動きだった。
男はどう見ても林だった。
女性のお腹はぽっこりと膨らんでおり、
男性に揉まれている胸からは、
時折白い液体が、ぴゅっぴゅと漏れだしていて、
そして林の舌はそれを味わうように何度も舐め上げていた。
林は依然ゆっくりと、しかしあまり深くまで押し付けないように、
その腰を動かし続け、そしてその両手で、
女性のお腹をさすりながら、
『ほーら。パパだぜ』
と口端を吊り上げて言った。
『あ、あんまり……激しくしたら駄目だよ?』
『わーってるよ。大事な俺の子供だしな』
『あんっ……ね…ねぇ猛?』
『なんだよ?』
『す……好き……んっ…あんっ』
『ああ、俺もだぜ』
二人の唇が重なる。
『なぁ?』
『んっ……あっ……なに?』
『子供何人作る予定とかあんのかよ?』
『一応…二人欲しいね…って……あっ…はぁっ……』
『そうか。こいつ産まれたらすぐに仕込もうぜ』
『え?あ、でも……』
『あ?』
『一人くらいは……その……あの人の……』
林はその言葉を聞いて、性器を引き抜く。
『あ……ふぁ……』
女性の切なそうな声が小さく上がった。
林はベッドから降りて、仁王立ちで女性を見下ろした。
『誰の子産むって?』
女性は身重の身体をゆっくりと立ち上げて、
叱られた子供のように、しゅんとうな垂れた。
『なぁ?』
林の責め立てるような問い詰めに、女性は返事が出来ず黙ったまま。
『旦那に悪くて言葉に出来ないなら、行動で示せよ。
じゃないと俺もう来ないぞ』
その言葉に、女性は、のそのそと林の前にひざまつき、
そして林の睾丸に、口付けをすると、
そのまま舌で転がし、咥え込んだ。
林はその頭を撫でながら、
ふと視線を横にやると、
そこには写真立てがあり、
『これ、いつのだ?』
と尋ねると、
『……新婚旅行』
と女性が答える。
すると見計らったかのように、林の携帯が鳴った。
林は発信先を確認すると、頭を掻いて、
女性に睾丸を愛撫されながら、そのまま電話に出た。
『はい、今外回り中です。
……議事録ですか?鈴木さんが知ってると思いますよ。
……それが事故でもあったみたいで、もう少しかかりそうです。
……はい、まぁゆっくり帰ります』
と答えていた。
電話を切ると、写真立てを伏せ、
そして小さく、
『すんません』と呟いた。
女性は不思議そうに見上げ、
『ん……ちゅっ……会社ぁ?』と尋ねる。
『ああ……おいしゃぶれよ』
『ん……はい』
女性が音を出して、林の男性器を口で奉仕しだす。
林はすぐに射精をした。
その精子は、女性の口から零れ、
それは膨らんだお腹まで垂れていった。
気持ち良さそうに息を吐く林は、女性の頭を撫でながら、
『風呂入れておいたか?』と尋ねる。
『あ、うん』
『じゃあ親子三人で入るか』
『ええ?ちょっと狭いかも』
『いいだろ。家族水入らずで。あんまこういう機会無いんだから。
一緒に風呂入って、そんでこいつの名前考えようぜ。
な?パパと一緒に入りたいよな?』
とお腹を撫でながら言った。
『う、うん』
『じゃあ先行ってるからな。早く来いよエリコ』
そう言うと、扉の閉まる音。
女性は、自分のお腹を見下ろし、さすりながら、
『エリコだって……パパに初めて名前呼んでもらっちゃった』
と穏やかな笑みを浮かべた。
そして部屋の外から
『おーいエリコー!早くしろ』
と大きな声。
それに反応し、腰を上げる女性。
『あ、はーい!』
映像はそこで途切れていた。
僕はタイムカードを押すと、小走りで歓迎会の会場へ向かう。
丁度駐車場で、煙草を吸う林を見つける。
「おお笹島ぁ。なんだ結局来たんか」
僕は林の胸倉を掴む。
「お前、話が違うじゃないか!」
「ああ?……ああ、そりゃまぁ、な。
流石にやばいって思ったから誤魔化したけどよ、
こうなったらお前も共犯者だってことでな。
ま、どっちにしろガキが大きくなってまったらわかるだろうしな」
胸倉を掴む手を強める。
しかし林が浮かべる表情には、一欠けらの苦痛もなかった。
逆に手首を掴まれる。
技なんて上等なものじゃない。
ただの腕力。
エリコを屈服させる、男らしい力強さ。
僕はそれに膝をついてしまった。
林の背中が遠ざかっていく。
僕はそれを追いかけるように、中に入った。
遠くで、主任が新人達を相手に何か話をしている。
耳を済ませると、エリコのことを、ノロケているようだった。
僕はいたたまれなくなって、トイレに逃げ込む。
湧き上がる吐き気。
しばらく個室でうずくまる。
もう帰ろう。
そう思い、外に出ると、丁度主任と顔を合わせる。
「……ども」
「珍しいな」
「……まぁ、新入社員の歓迎会くらいは……」
主任とまともに目が合わせられないまま、
僕は逃げるようにその場を後にした。
今更僕に、何が出来るというのか。
そして今日。
昼休み。
休憩所に林と主任を見かける。
僕は林を呼び出した。
いつもの螺旋階段。
「よく平気な顔して一緒に居られるな?」
「うっせえな。仕方ねえだろ」
「今日も行くのか?」
「ま、外回りがある日は大体な……っと」
そう言いながら、林は先ほどからメールをしていた。
「エリコとか?」
「ん、まぁな」
そう言うと、メールの内容を見せ付けてきた。
『ねえパパ?今日も来るの?』
『当たり前だろ。また風呂沸かせておけよ。
三人で入ろうぜ』
『はいはい。あんまりサボっちゃ駄目よ?』
『主任からちょっとくらいサボっても良いってお墨付き貰ったからな』
『本当に?ふーん。そういえば、昨日女の子紹介してくれって頼んだらしいね?』
『冗談だよ冗談』
『今日はお仕置きね』
『なんだよ?また搾り取られんのかよ』
『馬鹿』
『そういやさ、前から思ってたんだけど、
エリコってずっと髪長いよな?
たまには切れば?』
『いきなり言われても無理だよ。
予約取れないし』
携帯を畳むと、林は僕の肩を叩き、
「じゃ、俺家族サービスがあるから」と言って会社を出て行った。
再度休憩室を覗くと、主任が携帯を見ながら、
何か物思いに耽っている。
待ち受け画面は、きっとエリコなんだろう。
そして一時間後、僕の携帯に、林から着信がある。
それを取ると、
『あん!あんっ!あんっ!あっ!』
と激しい嬌声が漏れてくる。
僕は慌てて周りを見渡し、そして外に出た。
『あっ!あっ!あっ!……パパだめ!ちょっと……激しいよ』
『エリコ!愛してるぞ!』
『あ、あたしも……あんっ!あんっ!パパ!愛してる!』
『エリコ!』
『パパ!あっ!あんっ!あっ!んっ!……ね、ねえ?』
『あ?なんだよ?』
『パパは……何人子供欲しいの?』
『エリコは?』
『パパが……欲しいだけ』
『へっ、わかったよ。こいつ産まれたら、どんどん産めよ?』
『あっそこ……うん、パパの……いっぱい産むから……』
『じゃあよ、さっきのもう一回言ってくれよ』
『え、ええ……恥ずかしいよ……あんっ!あんっ!あんっ!』
『いいだろ?な?』
『あっ!…もう……パパの、逞しいおちんちんで、また孕ませてね
やだもう恥ずかしい……あっ!あっ!んっ!あっ!』
『なぁエリコ、その髪型可愛いぜ。ずっとそれでいろよ』
『本当?やだ嬉しい。うんそうする。パパ……大好き……
あっ!あっ!あんっ!んっ!あっ!』
『そういやさ、名前の事言ったか?』
『ああ、うん……まだ……んっ、はぁ……』
『早いとこ言っとけよ』
『……うん』
『そろそろ出すぞ?エリコ?良いか?』
『う、うん!いいよ!ちょうだい!パパのちょうだい!』
僕はそこで携帯を切った。
自分の机に戻ると、そこから主任の席を眺めた。
時折主任は、机に飾ってあるエリコの写真を眺めては、溜息をついている。
僕は顔を伏せて、もう彼の顔を見ないようにした。
===================================================================
液晶画面には、俺の精子が飛び散っていた。
手に握られた俺の性器は、何度射精しても萎えることは無かった。
何度も射精を繰り返す漲った亀頭を慰めるように、
熱い透明な雫が、俺の顎を伝い、ぽたぽたと降り注いでいく。
大粒の涙と、亀頭に残った精子が交じり合い、
そして春先に残った雪のように溶けていく。
誰かが階段を昇る足音が聞こえてくる。
聞きなれた、可愛らしいスリッパの音。
その音の主は、寝室のドアを優しくノックする。
新婚旅行の二人の写真が飾られた、俺と枝里子の寝室のドア。
そのドア越しに、声を掛けられる。
「あなた?もうお仕事終わった?もうこんな時間だよ?」
いつも通りの、穏やかな、枝里子の声。
優しくて、凛とした、綺麗で、少し口喧しくて、
でもいつも俺のことを気遣ってくれる、しっかり者の嫁。
俺だけの、枝里子。
俺の、枝里子の声。
「あのね、ちょっと話があるんだけど。
この子の名前のことなんだけどね」
true end
3作目です。そして人妻3連続の第一弾です。
色んな意味で実験作でした。
次からはもっとあっさりした感じにしていきたいです。
テーマとしては、好きな人や彼女。そしていつか結婚する女性も、
過去に他の男性に染められてたんだな、と考えると興奮する性質なので、
その妄想を具現化してみました。
なので個人的には、結婚してからは本当にもう過去の男と会っていない、
という展開の方が、過去が際立って好きなんですが、
それだと普遍的な寝取られ趣味とは遠すぎるのかな、と思いましてこんな結果になりました。
次は一作目くらいの、サクサク読めるのを書きたいです。
Comments
ここのコメント見てるなら、次はこの点をどうにかして欲しい、割とマジで
エロも大事だが寝取られは、ヒロインの魅力、寝取られるまでの過程も大事なのに・・・
それともわざとビッチを書いてるのか?それなら仕方ないが
林の場合失職、慰謝料、裁判費用を踏まえたうえで執着してるようには見えない。笹島君はその辺大人だったね。
欠点は上でも言われているとおり動機や心理描写が乏しいから寝取り作品として読めないことが残念
「ねー」
とりあえず俺は1ルートの将来を妄想します
それにしても自分の妻が自分以外の男に「パパ」って呼ぶのいいな
いい興奮材料だ
作者さんに参考となるか分からないが、とある海外エロ小説翻訳サイトである「妻のみだらな秘密」というタイトル、海外だと大量にNTR系小説というべき物が多いが大体は、ウィップ物(M系NTR海外では弱虫夫)になってしまう中でちゃんとパートナー同士のエロ行為もしっかりエロくこうなった原因も書かれており愛があると私は、感じたので一読を薦める!
そこの翻訳サイトは、これ以外にも大量にNTR系小説が在るので自分で読み消化してから書くのも良いだろうと思う。
しかしまぁ上でも言ってるけどリスクとか考えてないように思える
これはいかんよな
クズ男とまじかるチンポのステロタイプな展開はあるけど、十分読ませるとは思うなぁ
個人的にはこれくらいボリュームあるほうがいいな
毎回そこそこのおっぱいを持ったキャラが出てくるのも個人的には嬉しい
笹島に対しては笹島の浮気のことで別れを切り出している。つまり自分は愛されていないと判断したから別れたのだと思う。
一方林は愛していると言っているが、離婚して結婚しようとは言っていない。
笹島との別れの経験を踏まえて考えると、林に本当に愛されているか疑問を抱いていない枝里子がちぐはぐな感じがする。
作者は「普遍的な寝取られ趣味とは遠すぎるのかな」と思い托卵パターンを採用したみたいだが、シナリオに沿って動く人形のようになってしまい、せっかく積み重ねた枝里子のキャラクターが殺されてしまった。残念。
何年経っても精液を飲んでくれない(愛情を示してくれない)妻に、つまり笹島や林に劣っていると無言で言われ続けているみたいなぐらいで良かった気がする。
主人公と枝里子がどのくらい愛し合っているのか?の描写が乏しく、主人公がどのくらい絶望してるのかよく分からない。
次に枝里子が林と再開する際の心理描写(葛藤)が乏しいので、これまたセフレみたいなもんで、やるせなさってのがさっぱり無い。
すると、普通に離婚して訴えればいいじゃんって復讐を期待してしまう感想しかない。
それと笹島ってこの登場人物必要?
ヒロインにむかついてしまうのがちょっと悔しい
ヒロインがM気質のために 特殊な状況でのセックスに
普段以上に興奮してしまい。
ただ、自身の変態性を認めたくないために恋愛感情にすり替え
林との相思相愛だと思い込んでのめりこんでいって裏切られ
けど、やっぱり愛してると行ってほしいから言われると、
本心では嘘だとわかっているくせに(だから離婚しようとは考えない)
のめりこんでいく、ズルさがと愚かさたまりません
最高やな
こんな彼女が欲しい
今後の投稿も期待してます。
寝取り側がリスク考えてるかどうかってそんな重要か?
そりゃ旦那の目の前で犯すとかビデオ送るとかは萎えるけど
今回のって別に普通じゃない?
これでダメならマンガやゲーム全滅じゃん
あと笹島がいないと旦那が嫁の浮気を知る手がかりが無くなるから必要でしょ
林が不意打ちになったしうまい構成だと思ったよ
次も期待
でも貧乳ヒロインも描いてほしい
批判はともかく「俺の好みの通りに書け」とか
要望があるなら大人として書き方ってもんがあるだろうに
ただの粘着アンチにしか見えないよ?
大体動機や理由が不明瞭かな?
前作もそうだけどわかりやすすぎるくらいに明示されてないか?
あえて描かないことによって出来るモヤモヤ感は間違いなくあるけどそこが見たいです、ハイ
いつも同じタイプの女の子像なのはこの作者の好みのタイプなんかね?
なんかそこが微妙に面白いw
SSだけで抜かせる人はそうはいない。
でもあえぎ声とかめっちゃどストライクだから良い。
作者さん、お願い!!!次回作で!!!
そして1さん、NTRは思ったとおりにいかないから面白いのだと
思いますよ。自分の思った通りの展開で抜けるはずがないw
スタイル込みの女の設定も好きだわ、作者さんと好みが合うのかな。
個人的にはセックスのバリエーションやシチュエーションを増やして欲しいと思いました。たとえば家とかホテルばかりじゃなく車や外、会社でとか。
林が主人公の前でエリコへの悪戯が他にもあったら嬉しかったですね。
今後の作品にも期待しているので頑張ってください。
そして文字だけでもここまでNTR感味わえるのは驚いたかな
冒頭の彼女の描写の部分が段々と効いてきた感じです
でも↑のレスを見てると、本当、人によって感じ方は様々だなと思った
NTRを題材にした作品を創作するにおいて、皆が皆興奮できるシナリオを書くのは難しい事なんでしょうね
私は作者さんと共感できるというか、NTRのツボは近いと思います
そんな私のような人間もいるので、これからも頑張ってくだしいいいいい!!
それと1番興奮した場面は笹原がシャワー音出した直後に、林君とのキスを拒めなかったとこかな
残念だった部分は、やや尻すぼみな感があった所です
結婚後も 快楽>>>世間体や立場 にする何かきっかけのような物が欲しかったです
これには激しく同意できるなあ。普通だったらほぼありえないからねこんなこと
でも、こういう理不尽なほうが、いや〜な感じはするのかも
笹原は不要キャラかな
笹原が枝里子をアブノーマルな世界に堕としちゃう鍵だけど、
この日記がある種の贖罪みたいになってて、後悔と絶望してるのは、
旦那だけじゃなくて笹原もって状況は、憂鬱感が薄められちゃってる
昔付き合ってた彼氏(林)に変態的な風に開発されてて、
今の旦那と付き合い出しても、なかなかそれを断ち切れず、
結局、ずるずるやっちゃってるって話の方がシンプルでいいかも
そこで、枝里子のグダグダとした心情が出てればなお良し
寝取られとしては正当だけど枝里子の魅力が半減してる。
それでも良作だとは思います。
true endが
『枝里子にどんな過去があろうと、全て受け入れる。』
となってるし、それはそれで良いのかも知れないが、
個人的にはその先の事の顛末が見たかったかも。
主人公に全てが露見した事を知った枝里子の驚愕っぷりw
林、笹原の動向、その上で主人公に選択を与えてほしかった。
『全て受け入れる。』…か、『全てぶち壊す。』
そんな感じで描かれるカタルシスを少し期待しちゃいました。
そこら辺を押さえてる事が寝取られ話として『婚約者M子』を印象強くしている要因だと思うんだけど。
今後の作品にも期待しています。
婚約者M子はただのメロドラマになってて
萎えるどころかチンコが反応すらしなかった
文章も展開も薄ら寒いという印象しか抱けなかったな
カタルシスが欲しいって人は寝取られをエロ目的じゃなくてストーリーの一ジャンルとして楽しんでるんだろうな
結局作り手としては、層の狙いを定めないと駄目ってことか
そうすると最初からぶれてない気もするけど、寝取られというより
ただの不倫かな。
エロ目的としてはとてもよかったです。
あと前の作品でも感じたけど堕ちた後のヒロインの葛藤のなさというか、開き直りっぷりがあっさりし過ぎて肩透かしな感じ
このヒロインの性格だと林に口説かれて喜んじゃう弱さは納得できるけど
それを隠して夫と円満な家庭を築いて行くところは腑に落ちない感じがした
>なんかそこが微妙に面白いw
少し前に、管理人さんにまっっったく同じことを言われましたw
次作も、次々作も似た感じです。
その次くらいからは、流石に変えていきたいです。
次は一作目くらいの短編なので、ささっと8割くらい書けました。
初の三人称視点で書いてますが、今回よりは心理描写が有る気がします。
今回は蚊帳の外感を出したかったので、主人公以外は書きませんでしたが。
要望に関しては、結局自分が好きなものを書くしか出来ないので、
あまり期待はなさらないで下さい。
ただ一つ気にしてるのは、おっぱいが大好きなので、
ついつい毎回大きくしがちなんですが、
どうなんだろうな、とは思ってます。
とにかく、読んで頂いて、ありがとうございました。
ここで書かれている要望に全てこたえようなんて思わなくて良いから
そんなことしたら作者さまの良い所が消えちゃうと思うんで。
旦那視点で始まるから枝里子が旦那を深く愛してる前提で読んでしまったけど、林と枝里子の焼けぼっくいに火がついた話で読むとしっくり来ますね。
旦那と付き合うのも当て付けむたいなもんで、お別れプレイの一貫だったのかと感じますね。離れられないのは枝里子だけじゃなくて、林も枝里子から離れられないって感じでしょうか。
定番のような設定と流れですが、とても興奮しました。
普段の妻の姿に何の異常も見られないところが、女性がいかに怖いものかというのを表現していて、怖気が立ちました。
しかし笹島には隠し事できない、依存気味という設定だったのに、主人公には簡単に秘密を作り、罪悪感の欠片もなく子供まで作ってしまうというのは少しフィクションな感じがして惜しいと感じました。
未だに余韻が残って鬱な感じがとても心地良いです。
良質な作品をごちそうさまでした。ぜひ次回作も読んでみたいです。
大島永遠のバイブ入れていたら30分で入れているのを忘れた!を思いだした
性器の大きさで女が落ちるって言うのは男のファンタジーだな
付き合って二年、結婚して二年の旦那より、半年で捨てられた林の方が断然好きだったてのに枝里子の見る目の無さ、身勝手さにガクッと来ますね。
旦那に対する優しさは今の関係を知らずに受け入れてくれるからで打算的ですし。
ここは同感。
笹島に枝里子が「何も知らない子供だったから」言ったのは、これが前彼二人には依存したけど、旦那とは一人前の関係になれたという意味だったと思ったんだけど、単に心を開いてませんでした、燃えるように恋い焦がれてるわけではありませんでしたって意味だったのかと。
それがサディストの林とガッチリ噛み合っちゃったって事なんだろうね
愛されるより支配とか所有されたい女なんでしょう
でも林はそれほど執着してるとも思えないので、飽きるか新しい女が見付かった時点で捨てられて、その時初めて自分の罪と浅はかさに気付いて絶望するんだろうな
前作の女もそうだったけど一番悲惨な未来が待ってるのはヒロインだね、自業自得だけど
ただ、枝里子の初期の性格を考えると、林と再開した時点で、「辛いときに支えてくれたことには感謝している。でも本当に愛しているのは彼です」と告白して離婚が筋かなぁ。
水面下していることの理由は、こういう関係でないと林が自分に執着してくれないと枝里子が分かっているから…とすると、林がそんなリスクを犯して不倫関係を続けるの?って疑問が、あちらを立てればこちらが立たず。
林がエリコから離れていったら、刺されそうに思う
モヤモヤした感じがNTRの味だという趣旨も分からなくはないが、どれもこんな感じでは飽きてくる。
林との出会いの「安っぽさ」を強調させるキャラクターとしても重要
まあ上にもでてるけど好きに書いてくださいな
これからも楽しませてくださいな
個人的にはこれくらい読み応えあるほうが好きですね
次回も期待してます!
枝里子は性奴隷扱い、息子は虐待って感じで。
どうせなら娘だったらよかったのになぁ・・・
そして春先に残った雪のように溶けていく。
ここで我慢出来ず吹いた。
笹島が主人公でも寝取られ小説としては構成できちゃうという意味でだけどね。
主人公の心の葛藤が少ないから、上記のような間隔を覚えてしまうのかもしれないし、エロいとは思うけど、寝取られ的なエロさは感じなかった。
WEBを読んでいる合間合間にもう少し葛藤を描いても良かったのかも。
でも全体の文体としてはかなり良作!
長編なのに一気に読めました。
次回作も期待してます。
優しい性格、仕事ができる、と語っていても、実際に描かれている内容からはそれらが感じられず、魅力が感じられなかった。残念。
・・・そう言うなw まぁ修羅場スキーも一種のNTRなんだし・・・
Web小説、ゲーム、漫画は、NTR→エピローグで復讐系は確かに少ない
復讐って言っても賠償とか暴力じゃなくてヒロインが、街角で会って声をかけようとか思ってると主人公は、全く気づかない素通りして今の女性と幸せになってる様子を見て愕然とするとかですっきりしたいという気持ちは分かるw
次回作期待しています。
。
自分が実際に女性と付き合った時は彼女に元カレがいて同じようなことしてたというのはキツイかったけど
別れた後は俺と別れた直後に結婚したダンナのことを考えるとメチャクチャ興奮してかなりオカズになった(笑)
ごっくん、ぶっかけ、アナル、野外、縛りとなんでも仕込んだから尚更。
本当に林とエリコみたいな感じ。
デジタル機器が今ほど高性能・安価でなかったんでハメ取りしてなかったのが残念。
結婚・出産後も何度かあってメールも頻繁にしてた
ダンナが最近胸を揉んでくれないから誰かにめちゃくちゃ揉んで欲しいとか
今なら母乳でまくり♪みたいなメールがよくきてた
(ちなみに彼女はFカップあって胸と乳首を乱暴に責められるのが大好きだった)
そろそろイけるか?と思っていた矢先プッツリ連絡が途切れてしまったけど。
(多分ダンナバレしたっぽい。俺も即効で携帯変えた(笑))
そこまでやっていたら妊娠後の話も興奮できたんだろうなー残念(笑)
林のクズっぷりとエリコの駄目っぷりが最高に抜ける
次回作待ってるわ
主人公と一緒にいる意味が理解できない
酷評が多いことにむしろびっくりしたよ
エリコも二律背反に生きてるんだよなぁ。
今の夫の良さもよくわかってて手放せるものではないし、たとえ離婚したとしても林とは結婚できないとわかっているから離婚しない。
夫も林も両方欲しいから、背徳感を餌にして打算的に生きてる。