2011.05.24 Tuesday
『一年ほど前に、このブログを通じて寝取られにどっぷりと嵌ったのですが、
掲載されている体験談などを見るうちに、自分で書いてみようと思い立ちました』
まだ11月に入ったばかりだというのに、肌に触れる空気は思わず身をすくめるほどに冷たい。左手に繋がれた瞳の右手だけが、唯一温もりを感じさせてくれる。
瞳はいつも僕の左側に立ち、そしてそっと右手を差し出してくる。
彼女の手は小さく、そして暖かい。
だから僕は彼女の手を握るのが好きだ。恥ずかしくて、自分から握ったことなどないけれど、内心ではどうきっかけを作って握ろうかと、そんな不純なことばかり考えている。
僕がもし今、突然通り魔に刺されたとする。とめどなく流れていく自分の鮮血を眺めながら、薄れていく意識のなかで、きっと僕は、両親への感謝と、瞳の笑顔と握った手の感触のことを想いながら逝くだろう。
それくらい、彼女の手は温もりと優しさに溢れている。
細長い指の先端に、ちんまりと形良く乗っている爪は、ほんのりと健康的に桃色で、マニキュアなどの余計な装飾などは一切施されていない。
僕と付き合う前は、薄い透明色のものくらいは塗っていたらしいけれど、僕がそういうのが好きじゃないと何気なく漏らしたところ、いつのまにか止めてしまったようだ。
他意無く知らずにやってしまったとはいえ、僕はそれを、何だか自分の価値観を強要してしまったみたいで気にしていたんだけれど、瞳は「元々面倒臭かったし、止めるに丁度良い機会だったよ」とあっけらかんと笑っていた。
「そう言えば、手が冷たい人って、心が温かいって言うよね」
瞳はにこりと笑いながら、「それって嫌味?」と返した。
「別に逆も真なりってわけじゃないだろ」
「じゃあ何でいきなりそんな事言い出すの?」
口を突き出し抗議する瞳の唇に、思わず胸が苦しくなってしまう。
幾度となく触れ合った血色の良いその唇とも、暫くは離れ離れになってしまうと考えると、それは寂しいなどという簡潔な言葉では、到底表現できそうもないくらい、僕の気持ちは底に沈んでいってしまった。
「あたしって達也にそんな風に思われてたんだ?ふーん」
瞳は芝居掛かった動きで拗ねたようにそっぽを向いてしまったが、握る手は二度と離さないといわんばかりに、僕の手を締め付けてきた。
僕が幼稚な手口で瞳をからかって、そして瞳がそれに対して拗ねる振りをする。
そして僕が謝り、瞳が許してやるかわりに膝枕やキスをしろと我侭を言う。それが僕らの日常だった。
でもそれも今は出来ない。駅という公共の場所で、そんな事が出来るほど僕らは恥知らずな価値観を持ち合わせてないからだ。
そして今後も、暫くは出来そうにない。
お互いがその事実を改めて再認識してしまい、何となく気まずい沈黙が流れる。
その空気を打破する前に、僕らの足は駅のホームに辿り着いてしまった。
電車の到着まで時間はまだ少しあるのに、僕らは黙って突っ立ったまま、ただ指を絡めたお互いの手の平の感触を、名残惜しそうに確かめ合うことしか出来なかった。
一年間ほどの、期間限定の遠距離恋愛。
今年新社会人になった僕は、秋口から一年ほどかけて、遠方にある支社で研修を受けなければならなかった。
瞳との付き合いは大学に入った頃からだから、もう四年以上になる。
学生時代はお互いのアパートを行き来する半同棲状態だった。だから今更、一年間遠くに離れたくらいで、僕らの気持ちは離れたりなんかは絶対しない。僕と瞳の左手には、それを証明するように、全く同じデザインの指輪が今も光沢を保っている。
この研修が終わり、僕が経済的にも精神的にも一人前になって戻ってこれたら、僕達は結婚する。
二日前、荷物の整理を終えて、部屋で二人でTVを見ながら、なんとはなしに漏らしてしまった僕の本音。
「そろそろ結婚しようか」
寝起きの欠伸くらい自然に出てしまったその言葉。
今考えると、大学を出たばかりの若輩者にそろそろもへったくれもないものだ、と自分でも呆れ返ってしまう。
しかし僕らの四年という交際期間は、これからの将来も共に過ごしたいと確信するに充分な時間だった。
瞳は慌てるでもなし、顔を赤らめるでもなし、ごく自然に、「そうだね」と答えた。
そして寝転びながら顔だけこちらに向けて、「あたし達也似の男の子産むね」と微笑んだ。
「それもいいけど僕は男家族だったからなぁ。娘っていうのも憧れるんだけどな」
「だーめ。達也そっくりの赤ちゃん産んで、そんで朝から晩までずっとほっぺをプニプニすんの」
その夜。いつも通り僕らは交わり、そしてお互いの匂いにくるまりながら、僕達は色々なことを話し合った。
式の内容や旅行の行き先。そして結婚生活におけるルールの取り決め。さらには子供の育成方針まで。
まるで初めて男女交際をした中学生のようだと面映い気にもなったけれど、でも僕達はあくまで本気だった。翌日には、入籍届けを一緒に取りに行き、そして署名をした。一年後。これを一緒に出しに行こうと約束するために。馬鹿馬鹿しいかもしれないが、僕達はお互いの気持ちをきちんと形にしたかったんだ。
「最低でも隔週で会いに行くから」
瞳の抑揚を抑えた声が、静寂をやぶる。
「無理しなくていいよ」
「……どうせ達也と違って安月給ですよ」
「それくらいなら僕が出すよ」
「でもさ……」
いつもは、僕の母親かと勘違いしてしまうくらい口煩い瞳が、珍しく歯切れの悪い口調で何かを言いよどむ。
「何?」
「別に」
「まぁいいけど。でも確かにお金も貯めとかないとな。今後色々と必要だろうし」
僕のその言葉を聞いて、今までふてくされたように前を見据えていた瞳は、口元をにこりと緩め、
「あたしも一緒のこと考えてた」と、握る手をよりいっそう強めた。「でもどうしても会いたくなっちゃう時もあるんだろうな」
「そうかもな」
「そうかもってなによ。絶対あるよ」
僕の肩に、瞳の頭が預けられる。黒く長い髪が風に揺られ、さらさらと僕の頬を撫でた。同時に甘い匂いが鼻をくすぐる。いつも僕のそぼに漂っていた匂い。女の子という存在の大体は、良い匂いを放つと相場が決まっているものだが、やはり僕にとって瞳のそれは、明らかに他の女性とは一線を画している。理性とか、理屈とか、常識とか、そんなものを全て捨てても、この女性を手に入れたいと思わせる魅力を持っていた。この場で力の限り抱きしめて、そして喉が焼け付くまで、ありったけの愛を言葉で伝えたい欲求に駆られた。
しかし計ったように、遠くから電車の警笛が聞こえてくる。
もう時間はない。それを理解した僕は、そっと瞳の手を離そうとした。瞳もそれを察したのだろう。僕の脱力に応じるように、彼女もその力を緩めた。
しかし僕達の指先が離れようとする刹那、瞳の手は、僕の人差し指だけを掴み、そして離そうとしなかった。
横を向くと、瞳は俯き、そして鼻をすする音が微かに聞こえる。瞳の左手が自分の目元をそっと拭う。僕は彼女の頭をそっと撫でた。
電車が滑るように流れ込んでくる。
ドアが開いてしまった。いっそのこと、故障していればよかったのにと思ってしまう。
電車に足を踏み入れる。
ふりかえると、まるで捨てられた子猫のような、悲痛な瞳の表情。こんな顔は、見た事がなかったし、見たくもなかった。
ドアが閉まる。
僕らはまるで事前に何度も打ち合わせをしていたかのように、ガラス越しに手を重ね、そして、唇を重ねた。ただ冷たいだけのはずなのに、彼女の暖かさが伝わった気がした。
電車が加速を開始する。
僕と瞳の場所が少しづつずれていく。
瞳という名が表すように、まるで宝石のように綺麗で大きな瞳から、一筋の涙が零れた。
僕達は同時に、困ったように笑みを浮かべる。
「ホームとかでキスしてるカップルって何なの?ああいうの恥ずかしくないのかな?」
瞳はよく呆れたようにそう言っていた。僕も心の底から同調していた。
でも今だけは、自分達のことを棚に上げたい気分だ。
それから半年程が経った。
僕の仕事は順調で、新しい土地での生活にも漸く慣れ始めた。
瞳とも何の問題もない。電話やメールはほぼ毎日しているし、少なくとも月に一度は直接会っている。
よく泊まりにきては、その度に汚いと罵られ、そして掃除をしてくれる。明らかに料理のレパートリーも増えてきた。冗談めかして「花嫁修業か?」と尋ねると、照れくさそうに頬をかきながら、はぐらかされてしまう。
夜のほうも順調だ。あれほど嫌がっていた口での奉仕も、むしろ瞳の方から積極的にしてきてくれるようになった。学生時代にずっと一緒にいたころよりも、僕達は激しく求め合い、そして濃厚な時間をベッドで過ごすようになった。
離れた分、お互いの存在をより強く意識した結果だろう。
僕に至っては数年付き合い、飽きるほど抱いたはずの瞳を、夜な夜な空想で犯し、自慰をするまでになっている。
もう僕達はそれなりに成熟している。中学生が夏休み明けに会うのとはわけが違うのだ。
しかしそれでも時間を置いて会う、以前と変わらぬはずの婚約者の容姿は、付き合う以前の胸の高鳴りを思い出させてくれる。
昼休みを知らせるチャイムが鳴った。僕は伸びを一つするとデスクから立ち上がり、社員食堂に足を運ぶ同僚達とは反対の方向へ足を向ける。
たまに瞳の声が聞きたくて、仕方が無い時がある。それは向こうも同じのようで、ついつい夜更かしをしてしまうこともしばしば。
非常階段の踊り場に腰を下ろし、ポケットから携帯を取り出すと、我ながら慣れた手つきで瞳の短縮ダイヤルを押した。
「G.Wは予定通り休めそうだよ」
「本当に?良かった。ホテルとかはこっちで手配しとこうか?」
「助かるよ。ちょっと最近忙しくてね」
「ううん、いいの。任せといて。飛びっきりの隠れた名旅館探しとくから」
「わかった期待しとくよ」
「今度はいつ休みが取れそう?」
「さ来週の週末は空きそうだよ」
「本当?じゃあまた泊まりにいってもいい?」
「そりゃ勿論いいけど。でもお金大丈夫か?」
「全然大丈夫だよ。宿泊費もかかんないから、そんな大した出費じゃないよ」
「まぁ会えるなら嬉しいけど。たまには俺がそっち行こうか?」
「あー、それはいいよ。疲れてるでしょ?電車でも結構かかっちゃうじゃん」
「そっか。ありがとな。あ、そろそろ切るよ。昼休み終わりそうだ」
「あ、うん。じゃあね」
そう言って瞳は電話を切ると、名残惜しそうに携帯を見つめた。
ベッドに腰掛けた自分の前に、膝をついて座っている彼女の頭に手を乗せる。
俺の意図を感じ取ったのか、瞳は電話に出る直前まで取っていた行動に戻る。
「彼氏さんなんて?」
「……さ来週会えるって」
「また?俺嫉妬しちゃうな」
彼女は片手で 俺の男性器を包み込むように優しく握り、舌だけで根元から舐め上げると、
「勝手にしてれば?」と興味なさそうに呟いた。
「そういや何でいつも瞳から行ってんの?彼氏さんがこっち来ないよね」
「忙しくて疲れてるだろうからあたしが遠慮してんの」
いつもと変わらない突き放すような素っ気無い口調。
こんな時くらい甘く囁くように喋ってほしいとも思う。
彼氏と電話で話す時とは、あからさまにトーンが違う。
「実はあっちで浮気してて、本当は来てもらいたくないのかもしんないよ」
俺の言葉に彼女は大きな瞳をむっと吊り上げて、無言の抗議のつもりなのか、乱暴に亀頭を咥え込むと、少し痛いくらいの刺激を与えてくる。
彼女が首を前後に振るたびに、ちゅぱちゅぱとやらしい水音だけがこの空間に響き渡った。
少し前まではただぎこちなく口に含むだけだったのに、今ではしっかり口腔内で舌を巻きつかせ、時折緩急をつけることまで憶えた。いつも苦々しい表情を浮かべながら咥えるわりには、献身的で勤勉な奉仕を黙々と続けてくれる。
「どっか旅行行くの?」
「啓介には関係ない」
「いいな。今度俺とも行こうよ」
「嫌」
「なんで?彼氏とばっかずるいじゃん」
「彼氏だから行くの。なんであんたと……」
彼氏と電話で話している時の優しい微笑とは打って変わって、俺と話す時はいつも眉間に皺が寄っている。
彼氏とはメールを打っているだけで、あんな和らいだ表情を浮かべるくせに。
「この部屋には呼ばないの?」
瞳はもう痛いくらいに固くなった俺の性器から口を離すと、
両手でしっかりとそれを包み込み、舌を尿道に押し付けるようにちろちろと先端を刺激してきた。
瞳がこういった類の問いには答えないことなど、もうこの数ヶ月でわかりきってはいる。彼氏との関係に極力入ってきて欲しくないのだろう。
しかし彼女がこうやって俺と身体を重ねる時に、彼氏のことを思い出させる行為は、どうしてもやめられない。
俺に対し怒り、自分に失望し、そして彼氏を想うその目。
俺に貫かれ、頬を染めて嬌声をあげ、そして絶頂に浸っている時ですら瞳は彼氏のことを頭から消すことが出来ない。それが愛情なのか、罪悪感なのかはわからないが。
特に忘れられないのは昨年末のクリスマスだ。仕事が忙しく彼氏と会えなかった瞳は、一晩中俺と何度も身体を重ね、そして絶頂を与えられた。俺を罵り、彼氏への想いを口にしながらも、歯を食いしばり何度も膣を激しく痙攣させていたその姿には、感動すら覚えた。
どちらにせよ、その表情は何度目にしてもたまらない。
彼女は再び俺のモノを奥まで咥え込み、そしてゆっくりと頭を前後させ始めた。フェラはゆっくりと、そしてねっとりが好きだ。表面的には嫌々だろうが、俺の要求に応え続けていたからだろうか。いつの間にか瞳のそのリズムや力の強弱は、完全に俺の為のものになっていた。
「呼べるわけないか。もう俺の匂い染み付いちゃったしな。着替えや歯ブラシも置いてあるし」
「全部啓介が勝手に持ってきたんじゃん」
瞳は溜息まじりにそう言い捨てると、その場で立ち上がり、両手で俺を後ろに押し倒した。
「……大っ嫌い」
そう言いながら、彼女は俺に覆いかぶさり、唇を重ねてきた。
電話を切ると、僕は職場に戻った。
「またラブコールか?平日の昼間からよくやるよ」
口の悪い先輩に冷やかされるのも慣れてきた。むしろ光栄なことだ。僕は曖昧な笑顔を返事の代わりに浮かべる。
「瞳ちゃんだっけ?結構付き合い長いんだっけか?」
「そうですね。そろそろ五年くらいですね」
「そりゃ長いな。若いんだからもっと色々な女の子と遊べよ」
客観的に考えて、世の中に瞳より可愛い子や、僕と性格が会う子なんていくらでもいるのかもしれない。それでも、僕にとって瞳以外の女の子に興味を持つことはできない。
「だめだめ。こいつの彼女すっげぇ可愛いんだから。そんなの負け犬の遠吠えにしかならないよ」別の先輩が横入りしてくる。
「マジで?ちょっと写メ見せろよ」
横柄な先輩に言われて嫌々仕方なく、といった態度で僕は携帯を取り出す。内心鼻息荒くしてふんぞり返っているのだけれど。
携帯の待ち受け写真を見た先輩は、苦虫を噛み潰した表情を浮かべると、肩に手を回してきて顔を近づけた。
「今度こっち遊びに来たとき紹介しろよ。一緒に飲みにいこうぜ。もちろん奢りだ」
「遠慮しときます」
「真面目で気が強そうだけど、そこがなんか逆にエロそうだよな」
「わかるわかる」
目の前で行われる先輩二人による、デリカシーの無い会話も軽く受け流せるほどに心に余裕があるのは、瞳の彼氏でいられることに多大な優越感を抱いているからに他ならない。
「実際その、なんだ。スタイルの方はどうなんだよ?」
そんな先輩の下品な質問にも、胸を張って答えられる。
「まぁまぁ、ですよ」
そう返事をした僕の顔には、自然にやらしい笑みがこぼれていたらしい。先輩二人同時に軽く蹴られた腰の痛みも、むしろ心地良い。
「あっあっあっあっあっ!……啓介……んっ……もうちょっと……あっ、ゆっくり……あんっ!…あんっ!」
下から突き上げられ、瞳の豊満な胸が暴れるように揺れている。それを制止するように、下から揉み上げるように手をあてがうが、片手では少し掴みきれないその重量感には、何度抱こうがなかなか慣れそうにない。その際意図せず親指の腹で、まだ誰にも触られたことがないのではと思ってしまうほどの、見惚れるほどの桜色の乳首を擦ってしまうと、瞳は身体は小さくよじらせた。
「乳首こんな弱かったっけ?」
「……知らない」拗ねたように顔を明後日のほうへ向けてしまう。
寝そべった自分の上に、背筋をピンとしてまたがる彼女の裸体は、誰もが健康美と称することに一分の躊躇いもないだろう。
男好きのする肉付きの良いカラダというべきか。
俺は下からのピストンを止めて、両手でその胸をじっくりと舐め回すかのように愛撫する。その表面はうっすらと汗を纏いながらも、まるで点きたてのお餅のように、手の平にぴたぴたとまとわりついてくる。
されるがままの瞳は、少しじれったそうに時折小さく身をくねらせている。何も言葉を発しないが、その表情は明らかに不満を募らせていた。ピストンを再開してほしいのだろう。自分から振るのは憚れるようだ。
「新しい発見」
「……?」
「こうやって乳首をさするとちょっとだけ奥の方が締まる」
「ばっ……ひゃうっ!」
瞳は甘い声をあげながらも両腕で胸を隠し、泣きそうな目で睨みつけてきた。元々猫や兎を連想させる愛くるしい顔つきなので、むしろその表情は男を掻き立てるだけの効果しかない。
昔から何も変わっていない。小さいころも、砂場で瞳が作った山を壊しては、こんな目で睨まれたっけか。俺も瞳も、何も変わっていない。
「動こうか?」
「別に。勝手にすれば」
「そうか。それじゃやめよう」
俺は両手を瞳の胸から離した。
しかし瞳は俺の上から降りようとはしない。困ったように俺を見つめ、硬直しているだけだ。俺はその頬に手を当てて、乱れた髪をかき上げて、そのまま後頭部に指先をやった。
撫でるほどの力を入れてやるだけで、瞳は何の抵抗もなく、繋がったまま俺の胸に額を乗せてきた。そのまま耳たぶをいじくる。瞳の腰が時折切なそうに左右に揺れる。
「抜く?」
「……や」
そう小さく呟くと、瞳は自ら俺の唇を求めてきた。
熱く、そして柔らかい。舌を絡めあい、唾液を交換しながら、そう思う。
「動いてほしい?」
「……わかんない」
「動くよ?」
数秒の躊躇いの後、瞳は黙ったまま首を縦に振った。
「あ…………あっあっ!啓介!だめ!やっぱり……これ……あんっ!あんっ!……あたるっ!そこっ!やだぁっ!……あっあっあっあっ!」
「良い感じのとこ当たる?」
「んっ……くぅっ!……はぁ……っぁん!」
堪えきれないといった様子で声を漏らしながら、何度も小さくコクコクとうなずく瞳。
「気持ち良い?」
形の良い尻を鷲?みするように両手で固定し、ただただ下から突き上げた。
「はっ……ぁん!あっ!あっ!あっ!あっ!あんっ!……いい!気持ち良いっ!……啓介っ!だめ!あっ!あんっ!やっ!!」
「いきそう?いいよ」
「あっあっあっ!……だめっ!一緒にっ!…………いくっ!いっちゃうっ!……いくいくいく!…………あっあんっああああああああ!」
俺の上で、まるでスタンガンを喰らったかのように瞳の身体が大きく跳ねた。
肩で大きく息をする度に、乳房も微かにぷるぷると揺れている。
「はぁ……はぁ……。…………もう、ばかぁ……」
瞳はそう言いながら、右手で俺の乳首を愛撫し、舌はゆっくりと首筋を舐め、そして左手は俺の右手を握ってくる。
その左手に光る指輪を触りながら、
「これ、彼氏のプレゼント?」と尋ねると、瞳は愛撫の手をやめ、下唇をきゅっと噛み、そのまま黙りこくってしまった。
「お疲れ様でした」
毎日のように残業を繰り返す先輩や上司を尻目に、自分だけが定時に帰っていく罪悪感には、たとえ規則だろうとなかなか慣れることは出来ない。とはいえ将来子供でも出来て、残業ばかりしていたら、瞳に小言を言われるのだろうかと、そう遠くない現実的な未来に、胸を躍らせながら帰途についた。
今日も無事に新入りとしての責務を真っ当した。とはいえもう社会人二年目だ。いつまでも新人気分ではいられない。日に日に、自分が社会人として力をつけていくのが実感できる。そしてそれは同時に、僕がこれからも瞳の隣にいるに相応しい男であり続けられるという自信を与えてくれもする。
いつもの帰路。
海沿いの堤防。
まだ陽は完全に落ちきっていない。水平線に溶けていく夕陽を眺めながら、あの街で瞳と眺めていたそれを思い出す。
僕が瞳に告白した時も、こんなふうに夕陽が揺らめいていたことを、今でもはっきりと憶えている。
あれは大学一年の、そう。丁度これくらいの時期だった。
まだ桜が散ったかどうかというくらいの時期。
入学式でみかけて、殆ど一目惚れ状態だった僕は、駆け引きもへったくれもない、特攻のような告白を瞳に仕掛けた。頭を下げて、ただ気持ちをそのまま伝え、交際を申し込む。まるでお役所仕事のような、面白みも何もない告白だったと思う。下げた頭からちらりと覗き見た、瞳の呆気を取られたような表情は、今思い出すと少し笑えてくる。
そういえば、と思い出す。僕は一度振られたんだっけ。
「好きな人がいるから」と申し訳なさそうな表情で、一度断られたんだ。
でもそれが瞳にとって叶わぬ片思いと聞いて、それならきっと僕が君の一番になると熱弁を続けた。そしてその結果、友達からということで了承してくれたんだ。
少しづつ少しづつ信頼を得て、そして愛情を育んでいった。
瞳は僕にだけしか見せない顔を、やはり少しづつ少しづつ見せてくれるようになった。
それから半月後に正式に恋人になろうと瞳から言ってくれた。
その間も、瞳は数え切れない数の男からアプローチを受けていて、僕はそれにやきもきしていたのだが、後々僕と瞳の共通の友人から聞いた話によると、元々瞳は僕とのことしか考えていなかったそうだ。決め手は熱意と誠実さだったらしい。胡散臭い政治家のスローガンみたいだ。僕は自分のことを公正明大な男だなんてこれっぽっちも思っていないが、少なくとも瞳に対してはそうありたいと思っている。それくらいしか取り柄がない。
もうすぐ初夏だというのに、左手だけが少し寒い気がする。こっちにきてからというものの、買い物袋などは左手で持つ習慣が出来た。少しでもその喪失感を誤魔化すためだ。
せめて声だけでもと思い、携帯を取り出し瞳のメモリーを押す。そういえば、丁度伝えたいこともある。きっと喜んでくれるだろう。呼び出し音が二度三度と鳴り続ける。
声が聞きたかったなんて言ったら馬鹿にされるんだろうか。
「昼休みに話したばかりじゃない」なんて。
「いいの?携帯鳴ってるけど」
「……」
ただ戸惑いの表情を浮かべる瞳の代わりに、ベッドの脇で着信を知らせ続ける携帯を手に取る。相手は確かめるまでもない。もう飽きるほどに聞いた専用の着信音。液晶に表示される名前は思ったとおりのもので、ついつい鼻で笑ってしまう。
「返してよ」
俺の腕に伸ばしてきたその手と、懇願する声にはもはや力はない。それもそのはずだ。つい数十秒前まで、潮を噴き、気を失う寸前までイかし続けていたのだから。
そして今もなお、俺と瞳は繋がったままだ。いまだ尚うねり続け、そしてまとわりついてくる瞳の膣の感触を性器全体で楽しみながら、俺はその携帯を元あった場所に放り投げた。
カーテンからは、いつのまにかオレンジ色の光が漏れている。
今日は俺の方も一日オフだったとはいえ、結局朝から五回もしてしまった。瞳はもちろん、俺も新記録だ。おそらくこの後も、何度か休憩を挟んで、夜中も何度か交わるのだろう。
何度抱いても飽きることのない瞳の身体。
昔はそうは思わなかった。瞳の成長もあるのだろうが、俺自身がセックスの良さを知ったということもあるのだろう。
瞳の表情には漸く生気が戻ってきた。しかしその表情は蕩けきっているし、口元からは少し涎が垂れている。
「啓介……お願い……どいて」
いつもの意志の強そうな女性の声ではない。半日かけて絶頂を与え続けれれ、今なお正常位で男に貫かれている女の声だ。
瞳が携帯に手を伸ばすと、丁度留守番電話のガイダンス音声が流れ出し、そして彼氏の声が聞こえてくる。
『もしもし。達也です』
俺はそのタイミングで、ゆっくりと腰を前後させ始めた。
「あっ……ちょっ……啓介……だめ」
『今仕事終わったところです。今日もクタクタだよ』
「あっ……あっあっ!おねがい啓介……おねが……やっ…あっあんっ!」
『そういえば良いニュースがあります』
「やめて!こんなのやだ……って!……ちょっ……んっ…くぅ……」
『今週末そっちの本社に用事が出来て、一日だけ戻ることになりました。詳細はまた電話するよ』
「あっあっあっあっあっ!……やだ、ねぇやめて……やめてよ……あんっ!あんっ!」
『それじゃ。愛してるよ瞳』
「やだ!やだ!……あっああ!なんで?……きちゃうっ!また……くる………ああっ!あっあっああああ!いくいくっ!いっちゃう!」
瞳の耳には、もはや婚約者の声は届いていないようだった。
彼女の両手は、俺の両手と指を絡めあうように握られ、瞳が絶頂を感じる度に強い力で握られる。そしてその度に、俺の右手薬指や中指には、一瞬冷たい感触に襲われる。
その銀色の指輪は瞳の心の拠り所なのだろう。ふとした時、瞳はその指輪を天にかざしたり、指で撫でたりしては、悲しそうな表情を浮かべる。
まるで生き物のようにうねる、イッた直後の瞳の膣による快感に耐え切れず、俺は瞳の中からモノを取り出し、急いでゴムを外す。
絶頂の余韻に浸りながらも、大きな呼吸に伴い揺れる瞳の胸を、俺の精子が白く塗りたくっていく。流石に五回目だとかなり水っぽいが、それでも量や勢いは普段のそれと遜色ない。
瞳は認めたがらないが、身体にかけられるのが好きだ。今もうっとりしながら、俺が瞳の腹の上でしごいているのを見ている。
本当は自分でしごきたいのだろう。もしかしたら彼氏としている時は、そうしているのかもしれない。
そして精子が自らの身体を汚していく時、瞳は明らかに恍惚の表情を浮かべ、そして小さく嬌声をあげる。
今だって、殆ど無意識の行動なのだろう。胸元に飛び散った俺の精子を、指ですくって口元に持っていこうとした。
その直前で、その白い液体が誰のかを思い出し、気まずそうにそっぽを向いて手を置く。俺は後片付けのためと、ティッシュを取るフリをして瞳に背中を向ける。そして気づかれないよう横目で瞳を確認すると、瞳は先ほどの指を、素早く舌で舐め取ると、うっとりした表情を浮かべて、また自分の胸元の俺の精液を掬い、そして再度口元へ持っていった。
俺がゆっくりとした動作でティッシュを沢山取り出して振り向いた頃には、瞳はまたむすっとした顔を作り、俺のことなんかこれっぽっちも興味無さそうに窓の外を見ていた。
しかし俺が瞳の胸元をティッシュで拭くときだけは、少し残念そうな視線と何か言いたげな様子を隠しきれずに、俺が精子を拭くのを黙って見ていた。
「またいっぱいかかっちゃったな」
瞳は大袈裟に溜息をつくと、げんなりした表情で「最悪なんですけど」と答えた。
「嫌いか?精子」
「彼氏のでもないのに。嫌いにきまってる」
「そうなんだ」
「当たり前。匂いとか。ベタベタするし」
「彼氏のだったらいいんだ」
「馬鹿じゃないの」
「飲んだこととかってある?」
「……ない!」
瞳は吐き捨てるようにそう言うと、シーツを手繰りよせて頭から被った。
清潔好きな瞳が毎週洗っても落ちないほどに、俺と瞳の匂いがついたシーツ。シミだって沢山作った。俺と瞳の様々な体液。
先ほどの彼氏の留守電を思い出す。彼氏が来るまでには、新しいのを買うのだろうか。シーツから漏れ出ている瞳の白く長い指。そしてそれに嵌っている指輪にも、先ほど飛び散った精液が付着していた。
「ねえ。もう帰ってよ」シーツを被ったまま、瞳はそう言った。
「なんで?いいじゃん。今日も泊めてよ」
「やだ。もう帰って。荷物も持って帰って」
「彼氏来るから?まだ先の話だろ?」
「……もうやなの、こんなの」
俺はやれやれと頭を掻きながら、バッグに着替えやその他諸々を詰めて、裸のまま帰り支度を始める。
服を着てドアノブに手をかける。振り返ると、瞳は相変わらずシーツにくるまったままだ。
「じゃあ帰るわ。また来ていいよな?」
「二度と来ないで」
シーツの中で泣いていたのかもしれない。その声はすこし鼻声だった。
部屋を出て、俺はドアを後ろ手でそっと閉めると、何だかんだで毎晩俺のリクエストに応えてくれる、瞳の手料理を食い損なったことを残念に思いつつ、自分のアパートに戻った。
インスタントラーメンの残り汁を啜りながら、ちらちらと携帯を気にする。
留守電は聞いてくれたのだろうか。あれから一時間経った。瞳は几帳面だから、仕事中でもなければメールの返信なんかもわりとすぐに返してくれる。だからもしかしたら事故にでも、なんて不吉な事を考えてしまった。
きっと手が離せない用事があるのだろう。こんなことくらいでヤキモキするなんて、瞳に知られたら呆れられてしまうかもしれない。
そんなことを考えていると、タイミング良く携帯からは、瞳からの着信を知らせるメロディが聞こえてきた。
婚約者から電話が掛かってきたくらいで、スキップでもしたい気持ちに駆られる。きっと僕は世界一の馬鹿か、世界一の幸せ者だ。多分どちらもだろう。
「もしもし」
「もしもし」
「留守電聞いてくれた?」
「うん。聞いたよ。嬉しい。ありがとうね」
「いや仕事のついでだからさ」
「あ、ひどい」
「冗談だよ。仕事がついでかな」
「それもどうなのって感じだよね」
カラカラと笑う瞳。しかしどことなく違和感。
「なんかあった?」
「……なんで?」
「少し元気無い気がする」
「そんなことないよ。でもちょっと……そうだね、風邪気味かも」
「じゃあ今晩は早く寝なよ?」
「わかってるよ」
「明日は仕事だよね?」
「うん」
「辛かったらちゃんと休みなよ?」
「もー、わかってるよ。お父さん」
冗談っぽくそう口にする瞳。
「……なんかちょっとドキっとした」
「なんで?」
「別に」
「ふぅん」
「まぁいいや。とにかく、今日はちゃんと消化が良いもの食べて、早く寝るように」
「はいはい。達也も気をつけてね?折角会えるのに体調不良でキャンセルとか絶対嫌だからね?」
「うん。わかってる。それじゃ。おやすみ」
「うん、おやすみ……あの、達也?」
「ん?なに?」
「……その、愛してる、から」
「……うん、僕もだよ」
「ちゃんと言って」
「愛してる」
「うん、あたしも。ありがとう」
「……それじゃ」
「うん」
名残惜しそうな瞳の声を最後に、僕は電話を切った。
その後、僕の鼓動はその余韻を刻み込むように、しばらくの間高鳴りを止めることはなかった。
瞳があんなことを電話で言ってくるなんて、初めてじゃないだろうか。
やはり瞳も僕と同じような気持ちで毎日を送っているのだろう。
寂しくて、不安で、そしてそれ以上に愛おしい。
でも僕達は、きっと大丈夫だ。これだけお互いを想いあっているのだから。
俺が瞳の部屋を追い出されてから数日経った。それ以降電話もメールも無視。直接尋ねてもあからさまな居留守を使われる始末。
「幼馴染なんだから優しくしてくれよな」思わず出てしまう独り言。
「よぉ啓介。一人で何ぶつぶつ言ってんだ?」
そう言って、背後から突然俺の肩を叩いたのは、ゼミメイトの渡辺だった。
「いや、愛に飢えてるなーと思ってさ」
「よく言うよ。お前昨日の合コンでも一番良いのかっさらってったらしいじゃねえか」
「そりゃしょうがない。真剣勝負だからな。戦場だよ戦場」
「サークルで一番可愛い新入部員ももう喰っちゃったらしいじゃん。まだ入学式からひと月くらいしか経ってねえだろ」
「いやあれは誰でも狙うだろ」
「狙ってもそんなすぐ落とせねえよ。で、どうすんの?あの子と付き合うの?」
「あー、いや。それはパスだな」
「ああ例の年上の幼馴染?瞳ちゃんだっけ?」
「そうそう。今結構ハマっててさ」
「でも彼氏いんだろ?写真見た感じじゃ真面目そうだけどな」
「ああすげえ真面目だよ。馬鹿がつくくらいに」
「でもやっちゃってんだ」
「俺一応最初の男だからな。瞳の」
「てか高校の時付き合ってたんじゃなかったっけ?」
「うーん、どうだろ。俺としてはそんな気無かった感じだったり」
「そのうち刺されるぞお前。そういや向こうから告ってきたんだよな?」
「そうそう。なんか昔からずっと好きだったらしくてさ。で、向こうが先に卒業した時、何か面倒くさくて丁度良いやって切った」
「じゃあ何で今更ハマってんの?」
「わかんね」
「切った後もセフレとかだったり?」
「いや、普通に音信不通だったよ。たまたま最近再会しただけ。そんで今遠距離中でさ、まぁたまたまだよ」
俺は煙草に火をつけて、言葉を続ける。
「たまたま昔処女頂いたイイ女が、たまたま連距離の寂しさのピーク中に、たまたま酔っ払っちゃって、たまたまやっちゃったってだけ」
「でもその後もやりっぱなし状態なんだろ?流石年上のお姉さんのヒモになるスキルだけは卓越してるな」
「まぁ完全に落とすのは無理っぽいかなぁ。どうだろ。女心はようわからんわ」
「よくいうよ」
「明日彼氏がこっち戻ってくるらしくてさ、そんでそのギリギリまでヤって会わせるとかしたいじゃん?
で、今晩俺の部屋に来るよう誘ってんだけどさ」
「ああいいねえ。いける感じ?」
「いや、今のところ反応ない」
「今日来なかったらもう二度と会わないって言ってやれば?本当は今も未練あるんじゃね?」
「どうだろな。まぁそのアイデアは頂くわ」
「またハメ撮りしたらDVDくれよ。瞳ちゃん可愛いし身体もエロイんだろ?」
「どうだろ。顔だけなら例の新入生も良い勝負だけど、まぁ身体は勝負にならんかな。撮れたらまたやるよ」
そう言いながら、キャンパスの別の方向に歩いていく渡辺の背中を見送り、俺は早速瞳にメールを送った。
「今晩俺の部屋に来て欲しい。俺の本当の気持ちを伝えたいんだ……と」
携帯を畳み、咥えていた煙草を指で弾く。
本当の気持ちもへったくれもないけど。もし本気になられたら、それはそれでうざいだろうし。
瞳が高三になってすぐだったか。高校入学したばかりの俺に告白してきたのは。小学校の頃から好きだったって。なんでもっと早く言わなかったのかね。本当は臆病なんだよなあいつ。初めての時も、泣きそうな顔してたもんな。
『でも啓介にあげたいって……ずっと思ってたから』なんて、今じゃ考えられない台詞も言ってた気がする。
ほとんど憶えちゃいないけれど。もしかしたら、他の女だったかも。どうでもいい。
二本目の煙草を取り出そうとしたが、それと同時に携帯が鳴る。瞳からのメールの返信だ。
まずは煙草を吸わせてくれよ。確認はその後ゆっくりするさ。携帯をポケットにしまい、代わりにライターを取り出した。
明日は久しぶりに地元に帰る日。正月ぶりだ。荷物はばっちり。少し伸びてきた髪も今日切ってきた。一応は出張という扱いなので、服はスーツに限られるけど、一番お洒落な奴を選んだ。
もう夜中だというのに、姿見の前でネクタイまでしてチェックする。まるで、人生で初のデートの前日夜といった落ち着きの無さに、自分でも苦笑いを浮かべてしまう。
何をやってるんだろうといい加減馬鹿馬鹿しくなる。
「お父さんって……いいなぁ。あなた、でもいいけど」
この間の電話を思い出す。子供が出来たら、そう呼ばれるのだろうか。そう考えると、少し顔が熱くなってきた。
そろそろいい加減に寝よう。
スーツを脱いで片付けて、電灯を消してベッドに入る。
目を瞑ると、予め設定されていたかのように、瞳の色々な顔が浮かんでくる。
怒った顔。呆れた顔。悲しそうな顔。でもやはり、笑った顔が一番多く、そして魅力的だ。
携帯が鳴る。瞳からのメールだ。
「大好きだよ達也。明日楽しみだね。おやすみ」
不覚にも涙を流してしまいそうになる。やはり僕達は、どれだけ離れていても、気持ちが繋がっているんだ。
目覚ましが鳴っている。煩わしいと思いながらも手を伸ばす。しかし俺の指が到着する前に音が鳴り止む。
不思議に思って目を開けた。カーテンから漏れている朝日が眩しい。
「それ、うるさい」
声がした方を振り返ると、そこにはベッドの上に座り、ブラのホックを留めている女の背中があった。
その色白で背筋がピンと伸びた、バックで突くと映えるんだろうなと思える背中には、いくら寝起きの頭でも見覚えがあることに気づけた。
「おはよ。瞳」
「…………」
彼女は俺の言葉などこの世に存在していないかのように、黙々とパンツを履き、そして肌着に手をかけた。
「お、は、よ」
俺はそんな彼女の背後に膝歩きで寄り、そして着替えを阻止するように後ろから抱きしめる。瞳の動きが止まった。
「おはようは?」
「……これから彼氏と会うから」
「だから?」
「離して」
「昨日はずっと繋がってたのに?あ、日付的には今日もか」
「やめて、よ」
後ろから首筋を舐めながら、瞳の乳房を両手で弄ぶ。着けられたブラは、またすぐ外された。瞳はもうなすがままだ。俺の愛撫に素直に反応し、抵抗しようともしない。しかしその目つきはどことなく俺を軽蔑してるかのよう。いや、本当に軽蔑してるのは、自分自身なのだろう。瞳の性器は、パンツ越しにもわかるくらいじっとりと濡れている。
「だめ、今から、達也と」
「ちょっとくらい大丈夫だって」
「でも、時間が」
「メールしなよ。昨日と同じように。ほら」
そう言うと、俺は瞳を少し強引に四つん這いの格好にさせ、そしてパンツを剥ぎ取る。俺のはすでに完全に勃起している。こっちを濡らす必要はない。いくら瞳の締りが良いといっても、このまま差し入れたら、何の抵抗もなく奥まで挿入るであろうことは、想像に容易いほどテカテカと濡れてしまっている。
「やだ、だめ。ゴム」
「昨日だって途中からしてないじゃん」
瞳の背中に手を置き、そして腰を突き出すと、いとも簡単に、俺の性器は根元までぐにゃりとした、熱くやわらかいものに包まれた。
「……あっ」
「昨日も途中でゴム無くなっちゃって、ずっとこうやってしてたじゃん」
生まれたての子猫の額を撫でるくらい、ゆっくりと腰を動かす。
「んっ……あぁ……あたしは、やだ……って……あんっ」
「彼氏にも生でさしたことないんだよね?」
「……うるさい……嫌い…大ッ嫌い!…………あっ……あんっ……や、だぁ…」
「でもちゃんと全部外で出したっしょ?」
「そ……うだけど……やっあっ……そこ……だめ」
「その度ちゃんと飲んでくれたね。尿道に残ってるのまで搾り出してくれて。すげえ嬉しかったよ。ありがとうな」
その言葉を契機に、少しスピードを上げる。
「やぁっ…………んっ…くぅ……あっあっあっあっあん!」
「彼氏に遅れるってメールしなよ」
「……いや」
「なんで?昨日みたいにさ、俺にバックで突かれながらメールしなよ」
「や、だぁっ!…………あっ!あっあっあっ!……あんっ!あんっ!……そ、そこ、だめだってばぁっ!
「昨日もさ、結局しちゃったよな。ずーっと舌と指だけでイカされてさ、ちんこ欲しいって言っちゃってな?」
それで彼氏に「大好き」ってメール送ったら挿入れてあげるって言ったら、もうこの世の終わりってくらいの顔で、メール打っちゃったよな。そんで「啓介のおちんちんが欲しい」って、すっごい切なそうに言っちゃったよな。それだけでイキそうになるくらい、甘い声だった。バックでハメながらだったから、ガラス越しに映った顔しか見れなかったけど、多分今まで見た女の顔で、一番魅力的な顔だったと思う。瞳の処女を貰った時のことなんて、殆ど忘れているし元々憶えるつもりも無かったけれど、あの顔だけは、一生忘れられそうもない。
「そんで挿入れちゃったらさ、瞳一瞬でイっちゃったよな?あんなの、俺初めてなんだけど」
「やだぁ……ちがう……」
「彼氏より良いんだもんな?これ」
少しピストンの角度を変える。瞳の弱い部分はもう大体把握した。
「……やだぁ……あっ…そこだめ……気持ち良い……あっあっあっあん!」
瞳の絶頂が近い。その様子が声でわかるようになった。
俺は腰を止めた。
瞳はそれを望んでいたはずなのに、恨めしそうに、「な、なんでぇ……?」と呟いた。
「彼氏にメールしな。一時間くらい遅れるって。もうどうせ駄目っしょ?」
しばらく逡巡した後、瞳は四つん這いのまま、自分の携帯に手を伸ばし、そしてメールを打ち始めた。鼻を啜る音が聞こえる。泣いているのだろうか。
瞳の綺麗な背中を見ながら、性器だけに力を入れる。瞳の中でそれが動くと、瞳の身体もぴくっと小さく揺れた。瞳がメールを打っている間、何度もそれを続け、その度に瞳は、「やっ」と可愛く反応してくれる。
そして彼女は携帯を傍に置いた。俺はそれに気づかないフリをして、そのまま動かない。すると瞳は、「……ねぇ?」と小さく、前後左右に、切なそうに腰を押し付けてくる。
その扇動的な振る舞いに対するご褒美と言わんばかりに、俺は激しくピストンを再開した。
そして瞳が果てそうになる度、それを止めた。
それを何度も繰り返した。
瞳は「もうイカして」と、くしゃくしゃの顔で哀願してきた。
そしてやがて「もうやだ……お願い」と、まるで命乞いをするかのように懇願。
俺はその望みを叶えるため、二つの条件を出した。
一つは、彼氏が帰ったらまた泊まりに行くことを許可すること。
一つは、このまま中で、俺を受け入れること。
瞳は、即答でそれらに首を縦に振った。もう理性的な判断など、微塵も出来ていないのだろう。そもそも言葉の意味を解していたかすら怪しい。
果てて自らの欲情を霧散した後、彼女はきっと後悔する。でも俺は、その顔が見たい。
「あん!あんっ!あんっ!あんっ!……すごいっ!これ、すごいの……啓介!気持ちいい!やだっ!すごいの!もうだめっ!はやく!はやくイって!」
俺は彼女の中で、そして彼氏に触れさせたことがない彼女の一番奥の場所で、精液を放った。
彼女も同時に果て、そしてベッドに倒れこむ。
瞳の身体は少し心配になるくらい大きく痙攣をし続け、そしてだらしなく開いていた口元からは、うわ言のように「やだぁ……奥……熱い……」と呻いていた。
そして数秒の時間を置き、彼女は盛大に失禁をした。僅かに浮いた彼女の腰からは、噴水のように、湯気を立てて、とめどなくそれが漏れ続け、シーツにはあっと言う間に、彼女の腰を中心に円状のシミが広がっていった。
俺はその姿を、瞳にシーツを弁償してもらうべきかどうかを考えながら、とりあえず彼女の意識が朦朧としている間に、記念に写メを一枚撮り、瞳の耳元で「どうだった?」と囁くように尋ねると、瞳はぴくぴくと身体を震わせながら、「……やだぁ……」と力なく返すことしか出来なかった。
それでも腰を瞳の口元へ持っていくと、瞳は自ら首を伸ばし、まだ精液まみれの俺の性器のもとへ、愛おしそうに舌を伸ばす。
彼女はまだ動くのが億劫そうな身体をなんとか動かし、目をとろんとさせたままそれを咥え込むと、口の中でゆっくりと舌をまとわりつかせてきた。
「これ嫌い?」
ゆっくりと、しかし丹念に奉仕してくれる彼女の頭に優しく手を乗せ、そう尋ねる。
瞳は返事をせず、うっとりした表情のまま、俺の精子を舐め取っていく。
「不味い?」
彼女は無言で首を横に振る。
「これ好き?」
今度は縦。
「彼氏帰ったらまたしような」
一瞬逡巡し、そして彼女は首を、ゆっくりと再度縦に振った。
駅を出たところのベンチで、一人座って瞳を待つ。
瞳が寝坊とは珍しい。きっと僕と同じように昨晩寝れなかったのかもしれない。
そういえば瞳が遅刻なんて、付き合って以来初めてかもしれない。こんな機会はそうそうないだろうから、わざと大袈裟に怒って意地悪をしてやろうかなんて、幼稚なことを考えてしまう。
腕時計を確認する。
もうそろそろ着いてもいいころのはずだ。横断歩道を小走りで横切ってくる瞳を想像する。
そして僕は立ち上がり大きく手を振ると、叱られた子犬のような顔で寄ってきて、「ごめんなさい」と息を切らしながら、額の前で両手を合わせるんだ。
でも僕は、「まぁ仕方ないさ。別に時間はまだ大丈夫だし」なんて余裕を見せて、瞳の顎をとり、不意打ちでキスをする。瞳は心底驚いて、唇を離した後も、硬直したように目をパチクリさせると、「馬鹿」と顔を真っ赤にして伏せるんだ。
まるでただの妄想狂だなと苦笑いを浮かべる。
空を見上げると、雲ひとつ無い。
この空の下を、早く瞳と手を繋いで歩きたい。
終わり
Comments
甘酸っぱい気持ちになった
托卵までいきそう
最初は間男視点てどうなん?って思ったけど問題なくNTRだった
お掃除フェラで締めるあたりも唸った(そしてヌいた)
続編で他のシチュも読んでみたいです作者さん
まぁ、ビッチなんだろうけど
いろんなところに張られた伏線が今後どう展開されていくのか楽しみ。
欲を言えば、瞳が落ちていく過程があるとさらに興奮度UP。
回想シーンとかで描写してほしいな。
と思う俺はNTRゲーやりすぎ?
しかし女が寝取られる瞬間の一番良い顔を一番近くで見られるのは寝取る男だし
寝取られる男ってのは本当に悲惨な存在だよな
ビッチじゃないようになんてそんな上手く書ける奴はそういねぇ
あんなに清楚だった子が…とかプライドの高かった彼女がとか
そしてそう仕向けたのが自分じゃなくて他の男という事実
NTRのラストの好みについてだ。
?浮気相手とくっつく(彼氏を切る)
?思い直して再構築(浮気相手を切る)
?彼氏に振られて激しく後悔
ちなみにおいらは?
正直そんなんいらんよ
寝取り男だけを好きになってくれないとつまらん
感情移入の対象である主人公には、無自覚でも良いからネトラレスキーであって欲しいな
よって上か真ん中
元鞘なら「実はまだ切れてない(主人公黙認)」とか「間男と比較されながらセクロス」とか色々あるわな。愛妻倶楽部の『手紙』みたいなラストとかも好き
同意。
個人的には一番下のビッチざまぁがいいな
駄文を掲載して頂き、ありがとうございました
そして読んだ上に、ご感想を書いてくださった皆様方も、ありがとうございました。
一応ご質問にお答えしておきます
続きはありません
この作品に関しては、これで完結です
あと個人的には、NTRはもやもやする終わり方が好きなので
カタルシスを感じるような話は作れないと思います
再度ブログに掲載してもらえるクオリティのものが作れるよう、
次作を鋭意執筆中ですので、完成したらまた投稿させて頂きます
彼氏と再会して罪悪感を感じつつ間男と比べてしまって云々とか
その後でまた間男とずぶずぶの関係になって
そこから彼氏にバレるのかバラさずもやもやしたまま終わるのか
すみません、ただ続きが読みたいだけなんです
次回作にも期待してるね
だな
マルチエンドなんてゲームでしかできないしな
↑↑↑
気持はわかる
しかしお互いエロゲー脳に侵されすぎだなw
幼馴染萌だが、幼馴染の雄に堕とされるシチュは初
なんていうか、鬱勃起最高
海外人気ルイヴィトン コピー老舗です。
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その場合の価格は30日分で7280円(税別)という価格になっており、普通の20代や30代の方なら、正直美容液としては割高ではありますよね。
継続期間別に表にしてみました。
当然期間内に関してはコースに応じて6・8か月コースのしばりはでてきますが、この金額の差は大きいのではないでしょうか?
という方は初回一本分の料金の全額を、60日間の間なら返金してくれる制度です。
60日返金保証対象時はこの限りではありません。
返金保証は定期コース最大のメリットです。
広大な客を歓迎して買います! ベル&ロスの原点であり、大きな影響を与えた存在としてドイツの『Sinn(ジン)』という時計メーカーがあります。
ベルブランを初回購入する場合、2019年9月現在通常の単品コース以外は、上の3パターンの期間の定期コースからお選びいただくのですが、6・8か月の定期コースなら一本目のお値段は一緒です。
縛りの嫌いな方は初回3,200円の定期コースもあります。
ベルブラン一本の値段は、期間が長ければ長いほど安い値段になっています。
どれくらい安いかというと、料金は次のようにお得になっています。
ここまでで、定期コースが料金的にはかなり安いという事は分かっていただけたと思います。
8ヶ月で12000円以上もの差が出ますので、定期コースは長期間のコースがやはりお得といえるでしょう。
しかしこれが定期コースの6・8か月コースになると期間にはよらず、初回の方の一本目はなんと1980円です。
少々の軽い小キズ・擦りキズはありますが、目立つ様な深いキズはありません。
軽く磨いただけで結構目立たなくなりましたが、手強そうな傷も散見するので修理屋に持って行こうと思ってます。
強いつながりをもつ2つの世界の遭遇。
業界でも高い知名度と好評度を持っております。
世界一流のスーパーコピーブランド時計の卸売と小売を行っております。
私が調べたところ、楽天やamazonに比べてもこのベルブランの定期コースは安いですし、そもそも定期コースは販売元であるあいび様公式サイトのみのサービスです。
私は時計通じゃないですが、50万円位の他の時計を見比べるとベル&ロスは、そのレベルに達していないのかなとは思います。
オーバーホールに関しても、あまり手の込んだムーブメントなら高くなりますが、多少の付加機能のモジュール付けなら、値段はそんなに変わりませんよ(街の時計修理屋の値段)。
ロゴの形は腕時計を表しており、そこには創業者2人の名前、ブランドに関わる様々な才能、スタッフ、マスター・ウォッチメーカー、プロフェッショナル・ユーザーを意味しているそう。
誕生日プレゼント https://www.yutooz.com/protype/list-223.html
でもやっぱ瞳ちゃん側のこともっと知りたいな