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34 名前: ◆zeBlsFcand8U 投稿日:2012/06/01(金) 18:23:51.84 ID:2jnNWOSk 

小さい頃、お化けなんていないと言っていた。
所謂、怖がりの精一杯の虚勢というやつだ。見栄っ張り。
その性格が俺を周囲から遠ざけた。疲れるやつの相手はしない。賢いやり方だ。
俺は、期待と現実のギャップを受け入れられずに、内向的になっていった気がする。

大学に進学し、一年を三回やった。
ようやく進級出来ることになった時、郷里の両親が大学に呼び出された。
「一年を三回やるような人はとてもではないが在学期間中に卒業はできない」
大学学長は、自主退学を両親に薦めた。
或いは、休学して、勉学に本腰が入れられる精神状態になるまで休め、と。
理由は簡単だ。私が講義を自主欠席ばかりしていたからだ。
大学に通ったことのある人なら、少なからず憶えがあるかもしれない。
サークル等の出席率は高いが、講義時間にすらバイトを入れている人。
私もこれだった。

大学では友達を作りたいという思いが、持ち前のコミュニケーション下手で不審に終わり。
ちょうど仕送りが少ないのではじめたバイトに逃げ込んだ。
大学に通いながら、二つのバイトを掛け持ちして、21万程稼いでいた。
食費は、スーパーのバイトで、廃棄の惣菜や弁当をもらっていたのでゼロ。
金は主に遊びに消えた。金を使えば、仕事中の人は興味をもってくれる。
パソコン系のサークルでは、どのパーツを買ったとか、どのゲームをやったとか
金で解決できる話題が主だったので、ゲームにものめり込んでいた。

両親は私の試験結果を見て愕然としていた。悪くはなかったのだ。
規定があるから、棒線一本で評価がつかない科目が多いが。
出席日数さえ足りていれば、可ないし良はついていたものが殆どだ。
父は激怒した。
「講義に出ずに、テキストだけ読み込んでこれなら。
きちんと出席していたら、どれだけの事が出来たんだ。
俺は不真面目なやつのために、大枚はたいているわけではない」
父は退学させる気でいた。
母は甘かった。休学にしましょう、と父を説得していた。
休学中、東京の親戚を頼って母も上京し、どうにか立ち直らせてみせる、と。
休学でも、少しは金がかかるので、激怒した父は金は出さんと言った。
学長は、とりあえず、学内カウンセラーに診てもらうのが一番だ、と言った。
母は、母方の親戚に頼み込んで、休学中の費用を借りた。
責任として、その頼み込む場についていき、最終的には土下座する母の背中を見た。
私は、この時に固く決意した。オタク卒業します。

母の訪問前に、私はオタクグッズの処分に乗り出した。
一部を譲渡することを条件に、サークル仲間に手伝ってもらい。
積み上がったエロゲーの山を中古買取に出した。エロ本や、漫画等も同様に処した。
フィギュアやガレキは、どうしても手放せなかった山本五十六を除き、
ワンフェスや他の即売会で知り合った仲間に引き取ってもらった。
自主改造品が大半だったので、店に下取りしてもらうのは難しかったのだ。
特典などの細々したものは、アニメグッズショップで買い取ってもらった。
一連の処分の間何度も思いとどまろうとした。
だが、その度に私の見栄っ張りが私を助けた。
両親に、毎日エロゲーやってオナニーばかりしている生活だったことを、悟られたくない。

すっきりした部屋を見て、オタクでなくなった自分の価値を知った。
パソコン一台と着替えが少々。後はベッドが一つ。本棚はテキストが横倒しに倒れている。
たった一列すらも実用書で埋まってはいない本棚を見て、涙が出た。
ポスターをはがした後に残るテープの粘着剤の痕。
こんな薄っぺらいのが、私の三年間だったのかとおもって、その日は咽び泣いた。
あんなに、楽しかったのに、気づくと空虚だ。

カウンセラーとの面談を進めていく中で、
前述のような、見栄っ張りな性格が解き明かされていった。
他の人に認めてほしい、という渇望が度が過ぎていたと理解した。
だが、会話下手な私には、上手く交友関係を築く事が出来ない。
抑圧を受けた性格が、他に代用を求め、人生を狂わせていったのだ。
特に、上京する際に、地元の数少ない友達とも疎遠になったのが、
大幅に道を間違える原因になっただろうと、カウンセラーは締め括った。

地元の友達の中で、一番仲が良かった者に久しぶりに連絡した。
全然連絡を寄越さないで心配させるなと怒られた。元気かと言われた。
喪失感の最中、連絡先の伝達すら忘れていた事に気がついた。
私にとっての上京とは、混乱だったのだ。孤独にもなる筈だ。
地元の交友関係も、どちらかといえばオタクだった。
私は近況として、オタクを卒業したといった。
すると向こうは、浪人して近場の大学受ける予定だったが。
バイト先で正社員に来ないかと誘われ、結局高卒就職して、
どっぷりオタク趣味を満喫していると言った。少し羨ましかった。
勿論正社員に誘ってくれるほどに、彼が勝ち得た信頼だ。

サークルを退会して、私の身辺整理は一区切りがついた。
私は、学校にいく楽しみをつくるようにカウンセラーに言われていた。
丁度新歓の時期が近づいていた。
私は、大学に残る意思を固めて、提出を求められていた感想文を学長に渡した。
その場で、学長は静かにそれを読んで、少ししんみりとした。
「休学中、君が部活動やサークル活動に励むのは黙認しよう。
ちょっと思い出したよ。私も上京組でね。そうだな。寂しかったよ。
たまに顔を出しなさい。忙しいが数分なら悩みを聞くから」

いきなりまともな部活動を探そうというのも難しい話だ。
新歓に参加し、興味を持ったいくつかの部活もあったのだが、迷惑そうにされた。
留年ばかりしていると、顔見知りは多く、あいつはヤバい奴だと見做されるのだ。
途方に暮れている時、私の肩を叩く人がいた。

「君、武道に興味ない?」武道錬成部と大きく筆の文字が踊るチラシ。
高梨と名乗った相手は、身長がやたら高い。
私の許容量を超えて喋りまくった。三年らしい。
普通の会話でも結構厳しいが、彼は凄く声が大きい上に早口だった。
私が答えられずにいると、体格の良いのが左右を固め、背後には女子がついた。四面楚歌。
女子に背中を押され
「はいはいどいてどいて」
高梨が先導して私は実にスムーズに拉致された。

各部活やサークルの出し物の端っこの地味なテーブルに連れて行かれ。説明を受ける。
潰れたのと潰れかけの武道系団体が合併してできた部。
単独だと、どうしても学内の施設を借りにくいので、協力して借りやすいようにしたそうだ。
理解のある武道団体を除き、団体への登録を認めてもらえなかったそうで。
大会やら対外試合といったものには、あまり積極的には取り組めない。
本気の部員は、道場との掛け持ちしてこちらは気楽にやっているという。
ちょっとかじりたい程度から入部OKと敷居も低いそうだ。

これは良いなと思った。
K1とかは苦手だが、剣道とかには興味を持った時期もある。
脈ありと見られたらしく。
それぞれの部活が持っていた備品があるから、あれこれやるのもOKと畳み掛けられる。
ダイエットにもなるよと、女子が言った。
この頃私の体重は136kgあった。痩せていた頃しょうゆ顔だった私の顔は無残な有様だ。
運動系の部活はつらそうだとかいう偏見があったが、それも含めて断る理由が虱潰しにされた。
入らない手はないと、その場で入部届を書いた。

辛くないと思っていたら、そんなことは無かった。
デブ症で出不精。体も硬い私は単なるストレッチから悲鳴を上げた。
高梨さんは自分の鍛錬の最中にちょくちょく気をつかってくれて。
股を割ったりなんなりと、硬い私の体を解すために手を貸してくれた。
ちょっとしたことで悲鳴を上げる私を煩く思う人も多かったようだが。
練習日は欠かさずでようと決めて実行していると、少し話せる理解者が出てきた。
もう、あの虚しい日々には戻れない。今のところ、これしかない。
一ヶ月くらいすると120度が限界だった開脚が140度は楽になり、無理すれば150度までいけた。
つま先につかなかった指先が、腹がつかえて痛むがどうにかつくようになった。
それをみた高梨さんが、頑張ったねと言いながら。
廃棄処分する予定だった自転車タイプのトレーニングマシンを御褒美としてくれると言った。
部費で処分するよりは、押し付けた方が良いという理由だったらしいが、私はそうとは知らずに喜んだ。

我が家にトレーニングマシンが届いた。
私は訓練を少しでも楽しくするために、巨乳グラドルの等身大ポスターをその前に貼りだした。
二次元オタクというものが、三次元に興味がないとするむきもあるが、それは違う。
三次元に否定されて、二次元に逃げ込んだのが大半で、私もそうだった。
とにかく必死にこなした。膝を痛めるといけないからとランニングをメニューから外されていた分。
自宅の中で、のろのろでも少しづつこのマシーンで訓練をした。
最初の一ヶ月が過ぎた頃、我が家にあった100kgまで計測可能の体重計に99.7という表示が出た。
びっくりして、大学構内の保健室にいって計らせてもらうと101kgだった。
これを高梨部長に報告するなり、ダイエット一ヶ月成功祝いとしてコンパが開かれた。
私のことを煙たがっていた部員すら、おめでとうとジュースを注ぎにきてくれた。
凄くストレートに、こんなヤツはすぐ来なくなると思って賭けてたんだよという人もいた。
二ヶ月目、私の体重は82kgになっていた。
体がものすごく軽く感じて、ランニングも息が上がるのは早いが速度はかなりだった。
息が上がりにくい自宅ではかなりトレーニングマシンの走行距離を稼げるようになった。
もっとも表示が30kmとかでていても、計測機能は故障しているらしいから、実際の距離は不明。

段々、体を動かす楽しさを憶えた頃。親父から唐突に電話が来た。
「どうだ、辞める決心はついたか」
からはじまって、大学を辞めろと何度も言われた。
母さんをこれ以上困らせるな。どうせお前はまた行かないんだ、と。
それを何度も否定していると、唐突に電話がガチャッと切れた。
母は、これを土日に我が家に来た時に聞くなり、ちょっと実家に行ってくると憤慨して出ていった。
それっきり、アパートに母が来ることはなかった。
その夜に親父から電話が入った。
「俺が昔居合やってた頃の道具が納屋にあった。
ちょうどいいゴミ捨て場があるなら放り込むつもりなんだが、どこかいいところ知らないか」
「僕の家の玄関の扉が涎垂らして待ってるよ、パパ」
「ガチャッ」

居合道具がこの四日後には一式届いた。
名義を変更しないとまずい書類などもあって。どうすれば良いのか箇条書きで書いてあった。
刀剣の手入れの仕方などの、真新しい本と共に、真新しい稽古着が一着。
お古で良かったのに、私は泣いた。
母からは、もう大丈夫そうだから、お父さんの所にいるね、と電話で告げられた。

道具はあっても師匠なし。
取り敢えず大学で稽古着を着るようになると、剣道をやっている部員からよく声がかかるようになった。
居合をやってみたいと告げると、誰もやってないという残念な答えが返ってきたが。
それなら、形をやってみたらどうかと言われ、日本剣道形を一緒にやるようになった。
相変わらずそれ以外は基礎的な鍛錬だった。
ついに4ヶ月目に、私は179cm68kgという体型に大改造された。
皮膚のたるみや肉割れの跡が酷かったが、部員全員から本気で祝福してもらった。
これが、私の転機となった。
私の見栄っ張りは、自身のなさの裏返しなのだとカウンセラーが言った。
しかし、大きなダイエットをやり遂げた事で、今が転機になっているとも。
復学を考える時期が来たのよ、と言われたと写真とともに親父にメールをしてみた。
「お前の為に学費を出すなんて反吐が出る」
という返信があった後、口座に学費が振り込まれ。止まっていた仕送りが再開された。

バイト先でも、評価が著しく変わった。あいつはいつものろまだと言われていた。
パソコンが得意なので、どうにか置いてもらっていたのだが。
巨体を支えていた筋量が残ったまま大幅減量に成功した体は軽く。
客前に出ても見苦しくないからか、他にも色々任され、時給もあげてもらえた。

夏を乗り切り、後期から復学した。後期は地獄のスケジュールだった。
スムーズに進級するために、最低限必要だと指示された単位を確保するため補講が多く。
バイトを削りながら臨んだが、幸い浪費がなくなった事でバイトを削っても問題はなかった。
私は優や良の多い結果を手にして、学長に更生を祝ってもらい。三年になることができた。

学内での私の扱いは大分変わった。口下手だがけっこうやる奴と見做されていた。
特に、恐ろしい勢いでダイエットを成功させ、体重を67kg前後で維持している辺りが魅力。
ダイエットの秘訣を知りたいと女子が近づいてくる事も多く。経験値を貯める機会に恵まれた。
自分に自信がないから見栄っ張りになっていたというのは本当だった。
自信がついて、変な見栄を張ろうとしなくなると、不思議と口下手なりに喋れた。

三年の6月。梅雨に入ってじめじめとしていた。
朝練の為に早く道場に来た私は、まだ誰も来ていない暗い道場を見渡して更衣室に入った。
開けて、中を見て、おっぱい丸出しの女子がいたので、その場で硬直した。
向こうは挨拶を使用と開いた口から、代わりに悲鳴を上げた。
ばたんと扉を閉めて、更衣室の扉の前のプレートが男子であることを確認する。
痴漢と連呼する中に男子更衣室だといっても、錯乱状態の相手は理解してくれない。
やがて悲鳴を聞きつけて正義感あふれる他部の部員達が武道場に乗り込んできた。
ああ、終わりだ、と思いながらも私は男子更衣室と書いてあるプレートを指さした。
変態めといった対応になってもおかしくないと思ったが、そうはならなかった。

「謝りませんから」
七条伽夜と名乗った相手は、稽古着に身を包んだ姿で居直った。
他部の面々は、災難だとは思うが、男子更衣室を使っていたのがまずいと言った。
私は、よくよく考えて整理し
「申し訳ない」
謝った。こっちは眼福、向こうは見せ損なのだ。こうするのが一番のように思えた。
赤い顔をした伽夜はふいと顔を背けた。不謹慎にもとても素敵だと思った。
他の部員達もやってきて、どうしたのと聞くと、伽夜はなんでもありませんと言った。

その日の練習には余り身が入らなかった。
黙想が多かったのは、立ち上がるとまずい種類の、生理現象対策の為だ。
伽夜の周りにはすぐに人だかりが出来ていた。概ね男子。これには助けられた。
黒髪に黒目で、化粧っ気も薄いのに美人。それに稽古着の胸元は結構膨らんでいる。

既に他をライバル視している状態の奴も多く、漂う不穏な空気。
伽夜が迷惑そうにしていたので、一度は高梨さんが解散させたが、
結局、入れ替わり立ち代わり、ひっきりなしに誰か男子がついていた。
一方、黙々と黙想をしていた私はといえば、女子部員からの評価が何故か上がったような気がした。
おそらく気のせいではなく、こちらをとあちらをみながら、表情が変わるのでまず間違いない。
その私が、いの一番に伽夜に魅了されていたわけである。世の中なんとも滑稽だ。

伽夜はスポーツチャンバラで小太刀二振り扱うのだそうだ。
うちの大学ではスポーツチャンバラをやっている人間など聞いた事も無かった。
それで、近からず遠からずの剣道をやりに、この部に遅れて入部したとのことだ。
歓迎会の時の自己紹介の後、やはり男子が伽夜を取り巻いていた。
私は黙々とウィスキーを空け、飲み放題パック料金の元を取る作業に従事していたと思う。
コミュニケーション下手で輪に入らないところは、あまり変わってはおらず。
特に意中になりかけの異性を囲む輪に飛び込んだら、あがり症の虫が疼きそうだ。
時折カラオケステージが空いていると、気まぐれ、楽曲リストを開き。
Top of the world やsingといったフォークから、一転して、鈴木雅之を歌い。
カウンター席の60代超えのマダムからのリクエストに答え、カクテル「ラブコール」などをご馳走になっ
ていた。
アニソンを心ゆくまで歌いたい。

伽夜が真っ先に懐いた男子は高梨さんだ。その光景は兄妹のように微笑ましかった。
高梨さんも私と同じで伽夜に纏わりつかず。来れば拒まずに相手をしていた。少し羨ましかったが不思議と
嫉みはなかった。
暫くして、高梨さんが伽夜に交際を申し込んだらしいが、伽夜はきっぱりとこれを断ったそうだ。
高梨さんがヤケ酒を煽る席で、そういえば伽夜が結構お前のこと気にしてたぞと言った。
「まさか」
この一言で笑い飛ばすと、他の面々もそうだそうだと言った。
裸を見られた相手がどんな人物か位気にするのは当たり前だと思う。

8月上旬。前期の単位は全て良以上で取れていたので母が二万程口座に振り込んでくれていた。
それを送り返しても、浪費がなくなった私の口座には三十万弱の預金があった。
合宿の話が出た時は、肉割れの残る気持ち悪い体を見られたくないので断ったのだが。
幹事をやっている田ノ上が、十人以上になると割り引きが大きくなると懇願してきたので。
参加者の一覧を聞いて、行くことにした。
伽夜がいたのだ。いなければやっぱり断っていただろう。
私は、基本伽夜に纏わり付きはしなかったが、目で追う事は多かった。
余り迷惑をかけまいと、意識して視線を逸らすようには、心がけていたものの。
実直な性格で、さっぱりした性格で、やっかみもすくなく女子受けが良い所が凄く気に入っていた。
容姿が素敵なのは言うまでもないが、鼻にかけない、媚びない、品があると。
洒落た話が出来れば声をかけにいっていたが、自分が参加できる話題の時にも気後れしていた。
合宿中に彼女が交際相手を決めてしまったら、きっと後悔するような気がした。
駄目なら駄目で、駄目になる前に当って砕けたい。

場所はとある島。田ノ上の実家があるそうだ。
田ノ上という名前にしては珍しく、彼の実家は神主の一族らしい。
自慢話を聞く限り。島唯一の神社ではあるが
さして観光地として人気があるわけではなさそうだった。

フェリーで近くの島まで行ってから、人口の少ない島々を巡る連絡船に乗り換えた。
この最中、伽夜が船酔いで他の乗客に吐きかけそうになるというトラブルに見舞われたが、
咄嗟にベストを脱いだ私がそれを伽夜の口元にかざして防いだ。
オタクをやっている時に、女の子にゲロを吐かせる本を売っていた人がいたなと思い出し。
彼ならこのベストをどうするのだろう、と思いながら、船員さんに捨ててくれと預けた。
女子で180cm超の身長を誇る、喜納さんと左右から抱え、伽夜を船室まで運んだ。

島につくと、白い布に○○大学武錬部ご一行様歓迎という幟を翻す一団がいた。
自己紹介する彼らが田ノ上と名乗ったので、少しびっくりした。
てっきり民宿か何かに連れて行かれるとおもいきや。
連れて行かれたのは、島で唯一の学校だった場所だ。
今は役場の管理の元、たまーに来る観光客向けに、体裁ばかりの宿泊施設として提供されるとのこと。
個室はないわけではないが、元科学準備室とかのプレートが掛かっていた。
人体標本とかが並んでいる場所で安眠しろというのは些か無理ではなかろうか。

私は、高梨さんと、田ノ上と共に、一年A組の住人となった。
その隣が二年A組というのは如何なものかと思う。
人口過小の島の現実というものをLED越しに見る事はあったが、
現実として直面するとその侘しさは生半可ではない。
コルクボードに貼りだされたままの、廃校となる直前の生徒たちが描いた絵が黄ばんでいた。

この宿舎、冷房はなかったが非常に快適だった。
島の村よりかなり高い場所にあって、学校だっただけに開放感のあるつくり。
窓という窓を開けると、海からの潮風が絶え間なく肌を撫でて、暑さを連れて行く。
潮焼けはたまらないが、熱射に苦しむよりはかなり良い。
そも、運動系の部活動なのだから、夏のちょっと苦しい環境はお誂え向きだ。
体育館も南の方の島ならではの風通しを考えたつくりで、意外にも過しやすい。
ただ、体育館を周回するランニングだけは、凄くきつかった。
いつもは、声出せ声ー声出せ声出せと掛け声かける高梨さんも寡黙だ。
「体育館の影ー 声出せ声 声出せ」「もうやだ! もうやだ!」
体育館の影に入る度にこんな具合に口を開くが日の当たる場所に出た途端黙る。
男子のこんな姿を見ながら、早々と体育館内で走り込みすると逃げた女子は笑っていた。


私のように、未だ道場も決めていない、ライトな者を除き。
所属道場で参加する大会が決まっていた者が多く。
追い込みをかける人達の掛け声は、朝昼三時間づつきっちりと体育館に響き渡った。
私は、体を作る運動は他よりもしっかりと取り組んで肉体に悲鳴をあげさせたが。
その他は、剣道形の他に、ネットで調べてプリントアウトした他流派の形なぞに取り組んでいただけ。
一人、隅の方で黙々と窓硝子に映した自分を見ながら、そればかりやっていた。
そんな私に、不意に声がかかった。
「せんぱーい。ちょっと、良いですか?」
余り話したことの無い後輩。その後ろには伽夜もいる。
「何だ?」
「何をやってるのかなーって」
「形だ」
「いや、それは分かるんですけど。前にやってたのと違うなって……伽夜が」
「剣道形の他に他の形もはじめた」
「へえー、どこか入門でもなさったんですか?」
「インターネット直伝だ」
「インターネット…直伝…ぷっ ご、ごめなさあっはっはっは」
愛嬌のある顔がたちまち笑みに彩られた。
練習に励んでいた田ノ上や高梨さんがその手を止めた。
「本格的にはなさらないんですか?」
伽夜だった。独特な得物に稽古着という姿。
「どれをやろうか悩んでいる」
「宜しかったら、スポーツチャンバラなさいませんか?」
「え?」
はいタッチ、とばかりに会話する相手が入れ替わる。
ぽんと、伽夜の背中を叩いて、もう一人が行ってしまった。
途端に緊張感が走る。普通の相手と普通に会話するのは良いのだが。
心の中に占める割合の高い相手とのタイマンはまだ厳しい。

「あ、あぁ。いや、しかし」
「無理にとは申しません。もし宜しかったら」
本音を言えば直ぐに頷きたかった。
未だ残る劣等感が、実に十年近く振りの三次元での恋を、下心のように下卑たものと感じさせた。
そんな迷いが機会を逃させてしまった。後悔が募ったが致し方のないことだ。
ふいっと向きを変えて行ってしまう伽夜の背中を見送って、私はもとのように形をはじめた。
心此処に非ずの酷い出来栄えだった。

合宿は四日目までまたたく間にすぎていった。
稽古着から覗く素肌の部分は浅く日焼けしてヒリヒリする。
五日目から七日目までは、朝練以外は自由行動が多い。
島唯一の遊泳可能な浜辺にいくと、沖合に流されないためのブイが浮いていた。
私は水着に着替えていたが、海に入ることはなかった。
考えても見て欲しい、デブは浮力が強い。その泳法は持ち前の浮力、脂肪頼りだ。
それに長い間慣れた後で、スリムに変身を遂げたのだ。泳げなくなっても仕方ないではないか。
まあもっとも、ビキニに着替えた伽夜を一目見た時から、私の体の一部の血の巡りがフィーバー。
立ち上がる事も出来ない状態であったので、泳げない事は素晴らしい誘いを断る理由となった。
ただ、伽夜の周りに男子が群がるのを見るだけというのは、少々寂しいものもあった。
パラソルの下を定位置とした私の横に、高梨さんが来た。

「伽夜ちゃん凄いな。いやあ、凄い」
高梨さんは私の彼女に対する視線が恋するものだと見ぬいたのかもしれない。
伽夜を見る目が此方に向けられると、揶揄するようににやりと笑う。
私は、目を即座に逸らしてしまった。
「グラビアアイドルに直ぐにでもなれるんじゃないか。
ああいう娘と付き合えたら幸せなんだろうな。まあ、俺は振られたけど」
「あの性格が他に代え難いです。媚びないから一層素敵になる」
「…そのまんっま言えばいいのに…。あの、さ。お前。結構脈あると思うぜ?」
「まさか…見て下さいよ。この太腿の筋。肉割れの痕です。こんな醜いの相手にされません」
「ネガティブだなあ。いいじゃないかそれ。厳しいダイエット乗り切った勲章だろ」
「そうですかね」
「そういや、誘われたんだって?スポチャン。やってみたら?」
「ええ」
「それって、興味あるって事じゃないか。一緒に過ごす時間増やしたいんだよ。
部に二人しかやってる奴いなけりゃ、自然とお前が一緒にいられるんだぞ?
最高じゃないか
そいや…フェリーのあれ、カッコ良かったぞ」
「あれ?」
「ほら、ゲロ。中々あそこまではできないよ。今なんか心底惚れぬいてるんだなって見え見え過ぎ」
俺は赤くなった。高梨さんは凄くかっこいい人だ。年下だけど、凄く尊敬している。
その人に評価されると、照れる。熱い。顔が熱い。耳まできた。
「お前さ、割りと純粋だよ。似合うんじゃないかと思うんだがなあ」
「止めて下さい。私は」
「なんか手のかかる弟みたいな奴だよ。さーってと、体育座りしたほうがいいぞ。
でっかいなあ」
最後に真っ赤になるアドバイスを残して高梨さんは伽夜の元に走っていった。
ビーチバレーが始まった。私は益々立ち上がれなくなった。
水着のズレを何度もなおす伽夜は素敵を通り越して無敵。

合宿や修学旅行の華といえば夜の怪談話だ。
それと、メンツにもよるが、覗きもある。
この宿舎に風呂は無く、昔民宿をしていたという家の風呂を借りていた。
そういうわけで後者は企む者が出てもどうにか回避された。
だが、前者は実行された。
本当に嫌がった者を除いて六名が集い、怪談話がはじまった。

都市伝説中の聞いたことのある話が四つ続いた。
ネット徘徊癖で変な話には精通した私は、怖がれもしなかった。
伽夜はある寺の話をした。

『御父様から聞いた話です。
その寺は、辿り着く道がないにポツンと建っているのだとか。
時折遭難した方がたどり着いては、縋るようにお祈りなさるんですって。
「私は遭難者なんです。仏様、どうか無事に下山できますように!」
一生懸命なお祈りに
「そうなんじゃー」
と本堂の奥から返事が返って来るとか。
不思議とこの寺に辿り着いた人は、ちゃんと下山出来るんですって』
静まり返る四名、一人、腹を押さえて笑い出した。私だ。愛想笑いが私の大笑いの後に続いた。

ひーひー言いながら、どうにか息を整えた。私の番になっていた。
『島に来るというので、島の怖い話を、来る前に調べてきた。
昔、流刑っていう刑罰があったって知っているだろう。
えんとうって聞いたことはあるのではないかな。遠いに島と書く。
比較的本州に近い小さな島というのは、昔は流刑地にされていたことが多かったそうだ。
群島だと、どれかが看守やその家族が暮らす島で、そこを基地に、他の流刑の島を監視していた。

ところが、維新やらで世情が混乱すると、流刑地の事は後回しにされた。
干物や工芸品を納品して、食料を持ち帰る船が、明治政府軍によってものだけ奪われ。
帰りの船には、食料などは積み込まれなかった。それどころか船すら返ってこなかった。
塩と魚があればどうにか暮らせるだろうが、心の方は限度がある。
米や味噌や醤油等の配給が途絶え、罪人達は身に憶えがあるだけに恐怖した。俺たちを殺すつもりかと。
看守は、罪人より圧倒的に数が少なく。本土の支援を失った事がばれると事が起こった。
ついに反乱じみた事が起こり、流刑の島から、畑を持っていた看守の島へ幾艘もの筏が着いた。
夜半、火の手があがり、看守達は武器を手にしたが、最悪なことに武器庫が暴かれた。
火薬や何丁もの鉄砲を手にした罪人達は、看守達を殺してはさらに武器を奪った。
男は全員殺され、女は罪人達のものとなった。
暫くして、この反乱があったと気づかずに、明治政府の船が来た。
罪人達は、自分達を見過ごすならば、これからも干物と工芸品を献上すると言った。
看守の妻達は、どうか助けてくれ、仇をとってくれと懇願した。
このあたりを平らげる事を命じられていた役人は、その仕事を早く終える為に、見逃すことにした。
要は、支配者が入れ替わっただけだ。年貢、税さえ払えるなら問題はないと決めた。
このことが発覚したのは罪人の殆どがその刑期を終えた後。
明治政府は、自分たちの反乱の後世からの評価を高める為に腐心していたので、結局握りつぶした。
かくして、無法の島が明治政府の成立前後に多数生まれたが、今では知る人もなし。
こうした反乱の起きた島には、大抵どこかにその子孫が築いた、女たちを祀る社があるらしい。
割りと、出る、と有名な場所が多いそうだよ。男は、とても危ないとさ』

これも都市伝説だ。女性の前で言うにはまずいかと思ったのだが。
意外と受けが良かった。この島はどうなんだろうと高梨さんが言うと田ノ上が眉を潜めた。
「そういう差別的な話は好きじゃねーな」
「気を悪くして済まなかった。別にこの島をどうこう言う気はない」
「お前はいつも他人を見下しているんだよ。俺の事も犯罪者の子孫だと思っているんじゃないかあ」
田ノ上が妙につっかかってきた。高梨さんがその位にしておけと言った。
翌日は島の観光がてら村を回った。
田ノ上は実家に顔を出すと言って朝方出ていったっきりだ。
田ノ上、または田之上、田上の表札が出てる家が大半だ。この島は田ノ上一族がかなり強いようだ。
島には珍しい苗字だということに気がついた。
こういう名前は田園が多い場所で生まれたものだが、ここは漁業の島だ。
田ノ上というからには田んぼより上に住んでいるとかいった具合でつけられた名のはず。
島の中心部にかけて山が聳えて、田畑は段々畑がほんの少々、家庭菜園程度を見かけただけだ。

他に島村や島崎と、島のつく苗字もあったが、少数派だった。
私は、高梨さんと高梨さんにくっついて歩く伽夜と一緒に歩きながら、色々な家を訪ねて歩いた。
昼は、食って行きなさい、といったご老人の家で物凄く匂う干物を食べた。
臭気はともかく、味は絶品だった。
「あんた食べ方堂にいってるね。
背筋がピンと張ってるし、箸の使い方もんまあ綺麗じゃないかい。
あたしがあと40わかけりゃほうっとかないんだけどねえ。うぇっへっへ」
どういうわけか、私は60代以上にはモテた。
足取りは確かだが、見るからに80は超えてそうな方だった。


夕方になり、田ノ上が肝試しをやろうと言い出した。
合宿といえば定番だし、皆賛成した。手回しがよくコースは選定済み。
絶対に嫌だと怖がる三人が辞退して参加者は七名。
はずれは一人でコースを巡る最恐コース。
仕事を終えた駐在さんがついてくれるという心強い援軍もいた。
田ノ上は手回しよく箱を用意してきて、籤になった。
順繰りと引いていき、私の番になる。底をあさってみると、紙がひとつしかない気がした。
引いたのは7。最恐コースだ。右隣の高梨さんが憮然としていた。
次に田ノ上自身が引いた。2だ。最後に伽夜が引いた。1だ。
「籤、俺が引いた時は籤が二つしかなかったぞ」
高梨さんが言うと、田ノ上はにっこりと笑った。
「そんなわけないじゃないっすか。一つだけだったか?小浦」
俺に問う田ノ上。俺は首を振った。
「さあ、気にしてなかった」

田ノ上もしつこく伽夜につきまとっている一人だ。
案外実家に行っていたのもこういう下準備をするためかもしれない。
自室にこもり。袖にでも隠した番号札を箱から札をとるように見せかけ、
仕込む練習をしている様を想像すると、なかなかの面白さだ。
出発前に田ノ上に地図を渡されてそれを読み込んでいる際。
高梨さんが横に来た。
「おい、あれでいいのか」
「告白でもする気なんでしょう」
「お前…本当にわかってないのか?伽夜ちゃんな…」
大学生にもなって、やっていい事と悪い事の区別がつかない奴はそういない。
伽夜を見ると、高梨さんとのペアになった喜納に番号を交換して欲しい、と相談している所だ。
そこに田ノ上がいって、ズルはダメと言った。少し不安はある。
カチンと来たらしい高梨さんが、ズルはお前だと言うが、田ノ上はどこ吹く風だ。
伽夜が困ったように俯き、ちらりとこっちを見た。
今からでも辞退すれば、と高梨さんにアドバイスされていたが、結局行くことにしたらしい。

12、34、56、7という順に十分置きに市場の前から出発することになった。
コースは島を半周。ほぼ反対側にある廃村となった隣村から一度表参道に入り。
神社を経由して、その裏参道から、遊歩道をたどって村に戻る。
駐在さんが、自分の携帯番号を教えてくれた。
何かあったらすぐに連絡すれば、ご自慢の足で自転車をかっ飛ばすそうだ。
危険な動物とかは、海中に毒のある魚がいるくらいだから、問題ないとか。
午後七時半。俺の番。駐在さんが「GO」と言った。
ヘッドバンドつきの懐中電灯と、ベルトつきの懐中電灯の二つで前後を照らす。
こういう島でもたまに夜中に車を出す人がいるから両方つけておいたほうがいいそうだ。
私達が肝試しをやることは島の皆が知っているので、危ない事はないとか。
それでも最後尾ということで、念には念を入れた。冒頭に書いたが私は怖がりだ。

左側から、潮騒が聞こえる。村はずれからは、かなり不気味な雰囲気が漂っていた。
私は早足だったと思う。前の組のライトの灯りが見えるまでは急ごうとしていた。

しかし、十分という間隔はなかなかそれを許しはしない。
風が首筋を撫でる度にぞくっとして後ろを振り向いた。
廃村について、私の恐怖はいや増しに増した。
左側に小さな漁港。右側に立ち並ぶ建物の列。
一つ一つの窓を照らし、顔が見えないかとかいった妄想をこみ上げさせながら、よせば良いのに確認をする。
恐怖を紛らわすために、頻繁にペットボトルを口にして、立ちションをするはめになった。
携帯ラジオのスイッチを入れ忘れていたのに気がついたのはこの頃だ。
ザァァァァ。雑音しか聞こえない。しかし、人間由来の音で少し平静を取り戻した。
少しして、二番手で出た高梨さんから電話が入った。
かなり音質が悪化していてびっくりした。高梨さんは怖くないかと聞いてきた。
素直に怖いというと、元気だせよと自慢の喉を披露してくれる。
残念ながら、リズム感がトンチンカンなのだ。この人の歌は。
しかし、その絶妙なまでの外れっぷりに、私は陽気な気分になった。

神社に差し掛かった頃に三番手に追いついた。
同行の女子が震え上がって立ち竦んでしまったようだ。
私は駐在さんに連絡して、迎えに来てもらうように提案して先に進んだ。
神社は、確かに恐ろしい。支柱が折れて傾いて潰れた状態になっていた。
祟りがあるんですよ、と稲で始まる誰かさんが言ったら、まず間違いなく私はそれを信じる。
もし、伊集院ピカリンとか、そんな感じの人が笑いながら、ここ幽霊出るって有名でね、と言っても信じる。
立ち竦むなんて、よくそんな恐い事ができる。さっさと通り過ぎた方が余程ましではないか。
裏参道は両側を林に囲まれながら上り坂が続いた。
きちんと片側にロープが張られていて、わかりやすく道も外れない。
暫く歩いていた時、携帯電話が鳴った。高梨さんが出た。
「小浦、そっちはどうだ」
「今遊歩道です。パンパースの宅配はありませんか。
贅沢は言いません。布オムツでもこの際我慢します」
妙に緊張感のある声がして、ちょっと巫山戯た。
「こっちはもう終わったんだが、田ノ上組が出発地点にいない」
「宿舎に帰ったのでは?」
「そうかもしれないな。ところで駐在さんはどうした。いないようだが」
「前の組が震え上がって動けなくなったので、連絡するように言っておきました」
「そういう時は俺にも連絡しろ。部長なんだ。責任があるんだよ」
「すみません」
「次から直してくれればいい。そんなショゲるな」

電話が切れて十分ほどしてまた電話がかかってきた。
「宿舎にも戻ってなかった。田ノ上にも繋がらない。
今な、喜納と一緒で、市場の前に戻った」
「…妙ですね」
「お前今どこにいる?」
「神社のあたりです」
「…なんで…ってきくまでもないか…。とりあえずそこで…」
「地図を見る限り、廃村から海岸沿いに進んだ先に、大型建築物が一軒。
神社からは、さらに山を登る道があり。その先に何軒か建物があるようです」
「あ、ああ、ほんとだ…。ひょっとして…さっきの電話の後から考えてたのか?」
「はい。ホテルはお任せします」
「……とりあえず、近くで自転車借りて飛ばしとく」
「裏参道と偽り、連れて行きやすいのはこちらです。手が足りなくなるかも知れません」
「そうだな。…宿舎に戻って、居残り組全員に頼んで、そっちに向かわせる」
「お願いします」

実の所、電話を受けた時にはもうその道を登る最中だった。
暫く進んでいくと、最初の建物が見えた。山の静けさが私の心とは対照的だ。
不気味さなんて感じる余裕がない。耳に鼓動が聞こえる程、私は興奮状態。
物音一つしないが、潜まれているとまずいと思い、近づいた。
プレハブみたいな建物で、窓から中を覗きこむと、完全に廃墟だ一部屋しかない。
道に戻ろうとしたら地面がえぐれて剥き出しになったパイプを踏んだ。ベコッと割れた。

次を目指す。五分少々上がっていくと見えてきた。
次は二階建ての、多分、家。扉が開けたままになっていた。
入り口から足元を少しライトで確認すると、積もった埃の中に足あとが残っていた。
運動靴かなにかの模様と、ぺったりとしたサンダルの痕。
行きの分は歩調が一定。帰りの分は、サンダルのものがずるりと滑るような急ぎ足。
運動靴のものもかなり歩幅が広い。
中に何があるのかと奥にいくと、ファスナーが壊れたウィンドパーカーが床に捨てられていた。
袖が半分千切れているあたりで無理矢理脱がせようとした情景が浮かんでくる。
伽夜は確かウィンドパーカーに洒落たモノキニといった格好だったはずだ。
そのポケットを漁るが、携帯はでてこない。ひょっとして、手にもってはいまいか。
これまで、携帯の番号の交換を申し込めないでいた事を悔いた。
合宿のしおりには、それぞれの無料メールアドレスが記載されていたが。
伽夜のそれを登録することすら、怖気づいていて、連絡のとりようがない。
だが、もし、逃げている最中なら、タイミング悪く鳴る事で、最悪の結果を招く事もあると思い直す。
はっとして、携帯電話をとって、高梨さんにかけた。

「高梨さんですか?伽夜のケータイ鳴らしたりはしませんでしたか」
「お前に最初にかけてすぐと、その次の電話の後にもかけたぞ」
「出ましたか」
「最初は途中できられた。次は…」
「電波が届かない場所…ですか」
「……何か、あったか」
「増援を止めて貰うことにもなるかもしれません」
「…それ…どういう意味だ」
「伽夜のウィンドパーカーが落ちていました。袖が千切れかかっています…」
「…あんのっ糞野郎! 籤の事、もっと追求しとくんだった」
「高梨さんを止めたのは…私だ」
「ノブ…落ち着け…大丈夫か?お前、声…やばいぞ。
 お前だけのせいじゃない。思いつめてないか?」
「心配は御無用」
そう言いながら俺は廃屋を漁る、かなり古びた杖が一本あった。
手近な場所に打ち付けてみると、結構頑丈だ。
「おい、何の音だ今の!」
「杖です。手頃な武器になりそうだ」
「わかってるとは思うが…バカなこと考えるんじゃないぞ!」
「元々馬鹿です」
「冷静にだぞ。冷静に…」
煩いので切った。

次の建物は扉が板を打ち付けられて封鎖されていた。普通の精神状態だったら怯えきっていたろう。
ライトを向けて、二階の窓などに照射し、しばらく気配を読んで、その場を後にした。
次の建物は扉が板を打ち付けられて封鎖されていた。普通の精神状態だったら怯えきっていたろう。
ライトを向けて、二階の窓などに照射し、しばらく気配を読んで、その場を後にした。

その次の建物は、すぐ裏に鉄塔が立ちアンテナみたいなものが沢山ついていた。
建物自体は小さく。扉には鍵がかかっている。
ガチャガチャとやってみても開かない。何度か体当たりをして扉を壊した。
中は、結構整頓されていた。計器のランプ等が明滅していて、いまでも利用されている施設と分かる。
壊した扉の表札を遅れて確認してみると、島内電波塔管理室と書かれていた。
地図をあらためてみるが、この先には道もない。叫び声などもしない。
山に入られたのなら、もう探しようもない。
埃の上なら素人にも足跡が見えるが。全てそう都合よくいくわけはないのだ。
涙が零れそうになった。無力だ。

ふと、嫌な感覚がした。後ろを振り返るが扉の外には何もない。
何か、すごく悪寒がした。勘働きというやつだ。必死に考えた。
その正体に気づいて、私は走りだした。
一つ手前の建物、窓はチェックし忘れた。
冷静に、冷静に振舞っていたつもりだったのに。気が逸っていたんだ。

駆け足で戻るなり、建物の外周を回る。
窓があった。しかも窓ガラスは内側に硝子を散乱させて割られている。
その上に埃が積もっていたので、結構前らしい。廊下に出ると開かれた扉が見えた。
中に入ると、モノキニのトップ部分が千切れて落ちていた。階段を上がった所に、残りの部分。
私が通りかかった時、何故物音がしなかったのか。捕まっていたからだ。
脅されて、助けも求められなかったのではないか。自分が許せそうにない。
二階に上がって手近な扉を開ける、二番目もそうする。いない。
三番目は鍵がかかっていた。
「伽夜?伽夜!」
扉をがんがんと叩く。
「小浦…先輩?」
「そうだ」

「よかっ…た」
カチャ、と鍵が開く音がする。後ろを警戒したが、誰も来はしなかった。
背後から抱きつかれる。すぐに振り向こうとして。
「見ないで下さい。今…」
「すま…」
全裸なんだと背中の感触で思い出した。
腰の懐中電灯のベルトにひっかけてもってきていた、無残なウィンドパーカーを肩越しに差し出した。
背中の感触が失せる。こんな時にそれを惜しむ気持ちが、なんとも恥ずかしい。
待てど一向にファスナーを閉める音はしない。やはり壊れている。
聞かん棒が暴れた時に困ることになりそうだが、意を決し、シャツも脱いでそれも渡した。
しばらく衣擦れの音が繰り返され、落ち着いたのか、ため息が聞こえた。
「…田ノ上はどうした」
「さっき部屋にライトが差し込んだ時に、逃げていきました」
「どうして助けを求めずに」
「あの時はまだ…脅されていて…怖くて」
携帯が鳴った。宿舎残留組の後輩からだ。
「どうした」
「いま、田ノ上さんとすれ違ったんすけど。
伽夜ちゃん一緒じゃなかったっすよ。
どうします、先輩。追いかけますか?」
「そうか…今は良い。ありがとう」
どうせ帰りには顔を合わせる事になるのだ。逃げおおせられるものか。
電話を切って、振り向く。
「ここでの事、なかった事にして頂けませんか」
「え?」
「…口外されて困るような事までは、されていません。
 ですから、訴えても直ぐに出てくるのではと…。私…」
「泣き寝入りではまたいつ…」
「お願いします」
「服装がこんなでは…皆納得しない。隠しようがない事だ」
「…本当は何かあったんじゃないかって、噂になったりするのが恐ろしいのです」
「……」

疑心があるという意味では、私も伽夜の想像の中の周囲と大して変わらない。
一方的な思いを寄せ、自らの軽率さが悪化させた事態に際して、操云々を気にする自分が嫌になる。
籤の一件然り、道々見てきた強姦しようとしてきた証拠の数々然り、材料が揃っている分根深い。
「御心配…なんです、ね。
分かり…ました。ご存分に」
「…なに?」
「どうぞ、小浦先輩」
伽夜はウィンドパーカーを左右に避けて、シャツのボタンを外し、はだけた。
力づくで掴まれていたらしい乳房に痛々しい鬱血の跡が残る。
下肢の付け根がうっすら濡れていた。相当危ないところだったようだ。…雄の青臭はせずだが。
肩が、震えている。瞑目して俯く。
「籤の不正を糾弾すべきだった。悔やみきれん」
「そんな!…高梨さんが仰っていたのは私も耳に致しました。
あの時、不気味と思わなくも…。結局ついていくことを選んだのは…私自身です。
どうか、お気に病まないで下さい」
そういいながら後ろを向いて、伽夜は服装を整えはじめる。
「強い、な」
「話を変えませんか…。お伺いしても宜しいですか?どうしてここがお分かりに」
「必死に考えた。地図を片手にな」
「…必死に?」
「ん。ああ…」
「嬉しい」
「…」
「…こうしてお伝えするのは心苦しいのですが。
 お慕い致しております」
「…………」
お慕い?おしたい?何かの聞き間違いだ。
思わず、自分の下半身を見た。
腕を見た、肩越しに振り返った。

「あの、どうかなさいましたか?」
「おー失態致しておりますではないのか…?どこだ?」
伽夜がつま先立ちになって、私のおとがいを唇で吸った。
「これで…もうお間違いにはならないかと」
はにかんで唇を手で隠す。軽く開いた指の合間から桜色の唇が持ち上がっているのが見える。
不謹慎にも、嬉し涙。生涯初の両思い。そんな馬鹿な。あり得ない。
「…何故に」
伽夜は、茫然自失に陥りかけている私を見上げ、悪戯に微笑んでいる。
しかし、その明るさは少しでなりを潜めた。未だ田ノ上の恐怖は去ってはいないのだから当然だ。
「根も葉もない噂に苦しみたくは御座いません。どうか、なかった事に…」
…口が軽いタイプの部員もいる。それに伽夜の思う通りにしてやりたい。ためらいがちに頷いた。

編み目の粗めの麻のシャツ一枚。その上にぼろぼろのウィンドパーカー。
そんな姿を晒させては、と。増援には神社で待機して貰った。
高梨さんに連絡をして、神社の手前で待つこと二十分弱。喜納がやってきた。
私の腕に縋る伽夜の格好を見るなり、みるみるうちに童顔に皺を寄らせ、体格に見合う形相となる。
「おまえなあ!」
私の首が片手で掴まれた。喉仏が押されて苦しい。
「待って…小浦先輩では」
「伽夜、そうじゃないんだよ。…部長が指摘した時さ。
お前が否定しなけりゃ良かったんじゃないのか。
え?どうなんだよ。答えろよ」
「そうだ」
「…わかってるんなら…良い。田ノ上は、ぶちのめす」
「その件は、小浦先輩だけのせいではありません。
あの場にいた皆が高梨先輩の発言は聞いていた筈です。
田ノ上さんにも、何もなさらないで下さい。追い詰めたら何をされるか」
「……そりゃ、まあ。分かっているさ。あたしも悪いんだろ!? けどっ…
って…泣き寝入りする気か?…なあ、嘘だろ?…あたし…納得できない」
伽夜の格好を眺めた喜納が手近な石にあたる。
がさ、と茂みに石が飛び入る音がした。

私と伽夜、後方には喜納の順で歩く。伽夜は喜納にもなついている様子。
慣れない相手がいる上に、先程の衝撃が蘇っている私は寡黙となっていた。
喜納は神社のメンバーに帰るように連絡をとった後、伽夜とどう言い訳をつけるか相談していた。
口裏を合わせようにも、田ノ上の携帯に何度電話しても無感情なガイドが流れるだけ。
苛立つ喜納のアルトがより低く、唸り声のようになるのを聞いていた。
「悪い事ばかりでは、やっと告げる事ができましたし
撫子先輩にも、高梨先輩にも随分お世話になりました」
どういうことだ?首を捻っていると。喜納がこっちを軽く見下ろしがちに見る。
「趣味悪いよ。…こんなのとかさ。高梨にしときゃよかったのに。
 あいつも人が良いよね。振られた相手の恋愛相談なんかほいほい受けちゃって」
こんなの、には同意。思わず首肯。そして、はたと気がついた。
高梨さんがなぜ発破をかけてくれていたのか。
喜納が口端を持ち上げながら此方を見ていた。
「そんな事は御座いません」
「恋は盲目とは言うが…」
私の言葉に喜納が大きく頷いていた。
喜納は入部以来私に厳しい目を向けていた一人だが、仲良くなれそうな気がした。
「…あ。お返事は頂けておりませんでした」
急に伽夜が立ち止まる。
「え?」
喜納が驚いた後、前に出て此方を睨みはじめた。男らしくない、とつぶやく声が聞こえる。
そういえば、そういう状況ではなかった。告白シーンが再現されるなり、顔が熱くなってきた。
照れ切ってしまうと喉奥がきゅっと窄まって、声がでない。
伽夜の目が此方をじっと見つめるので、益々紅潮がひどくなって、耳に熱がのぼってきた。
「……わっかりやす。嬉しすぎて声が出ないってかんじ」
喜納が呆れたような顔をしながら笑った。
「よろしくお願いします」
はにかみながら、伽夜が絡めた腕にぎゅっと力を込めた。
まずい、股間がエネルギッシュになってしまいそうだ。
頭の中で服部半蔵と愉快な仲間たちっぽい時代劇のテーマを再生して必死に気を逸らした。
「スポーツチャンバラ…教えてくれるか」

宿舎に帰った後、喜納と私と高梨さんと伽夜で集まった。
その場には田ノ上がいるべきだったが、田ノ上は宿舎には戻っていない。
メールを入れても返事が無く、一同憤慨した。
就寝時間を過ぎるまで、色々と話し合った結果。
田ノ上が伽夜とはぐれた上においていったという事にするという結論に達した。
これもメールしたものの、何の返事もない。
喜納に先行してもらって、伽夜の服をとってきてもらいはしたが。
行きと帰りで服が違うのは疑念を呼ぶ、とは皆分かっていた。だが、他に何が出来るだろう。
いっそ、服の件は小浦のせいにしちゃおうか、と高梨さんが言ったが、採用見送りとなった。

鍵が内側からかけられる科学準備室に伽夜はいた。
伽夜がそうして欲しいと言うので、私も付き添っている。
布団を敷いて、伽夜はそこで仰向けに横たわっていた。
随分、無理をしていたらしい。つきそいの私の手を伽夜がぎゅっと強く握って離さない。
目は瞑っていても、寝れてはいなさそうだ。どれだけ怖かったのだろうと思うと。
胸が、痛くて、痛くて、痛くて。腹いせに、田ノ上をどうにかしてやりたくなる。
伽夜は、奇跡的に私の負の部分を見なかったからこそ、勘違いで好きと錯覚したに違いない。
それでも、その幸運に縋りたいのが私の本音だ。幸せをくれた相手をこんなにされて、黙っていられるか。

変わりたいという強い気持ちで、イメージチェンジを試みた。
僕から私へ、声も低く抑えて出すようにした。LEDの向こうの、憧れの強い男にならって、口調も変えた。
けれども内面なんてものは、簡単には変わらない。弱いままなのだ。
すぐに伽夜は私を見ぬいて立ち去ってしまうだろう。
籤の時の私が何を考えていたのか、憶えてはいない。だが、容易く想像がつく。
きっと、田ノ上の強い語気に押し負けて、言うべきことを言えなかったのだ。
デブデブとからかわれながらも、強い食欲を抑えられずに太っていった頃の自分が思い出される。
弱い自分に腹が立つ。伽夜がこんなに怯えるのは、矢張り私のせいなのだ。
高梨さんと私、二人が声を揃えていたら、きっと周りもやり直し位は要求していた筈だ。
或いは、伽夜が試みていた、喜納との交換を支持していたのかもしれない。
そうであれば、今頃きっと、伽夜は喜納や同室の者たちと仲良くお喋り出来ていたに違いない。
私くらいしか縋れる相手がいない場所で、あんな気の迷いを起こさないで済んだのだ。
……気分が沈む。

「お顔、険しいです」
目を瞑って考え事をしている最中。霞んだ声が聞こえた。
目を開けると、伽夜が心配そうに見上げている。
伽夜の方は、大分落ち着いた表情だ。見下ろしながら、胡座をかく足を組み替える。
「早く眠れ」
「…心配だったから、お呼びしたのです」
「…何?」
「私はもう平気です。負けません。でも先輩は…」
「大丈夫だ」
「いいえ、とてもそうは見えません。無理をなさっています」
「……」
「御自分のせいだと思っていらっしゃるのでは?でしたらそれは…」
「いいから寝ろ」
「お断りします。大事な事です」
伽夜の目が、きっ、と此方を見据える。こういう力強い目も良い、と不謹慎にも思う。
「最終的に、一緒に行くと決めたのは私です」
優しく、諭すように言う。それでも気分は晴れないのだ。
こんな優しい女になんて真似を、ドロドロとした怒りが込み上げる。
「信用しておりました。…裏切られてしまいましたけれど」
「……」
「辛いですよね。小浦先輩も、高梨先輩も、私も、信頼を裏切られたんです。
 誰も、あんな人だとは、思えなくて当たり前です」
「…確かに、そうだ」
ちょっと強引に告白する位なら有り得たとしても、あんな真似をするだなんて今でも思えない。
大体、あいつは私の怪談にあんなに怒っていたじゃないか。やっていることは何だ。
狂いかけていた心の歯車が、伽夜のお陰で正常に戻った気がした。
…強くなろう。後ろ向きな思考がやっと、前向きな結論に達した。
伽夜とずっと一緒にいたい。

「あの…私の、どこがお好きかお伺いしても?」
「細かく言うと切りがない。
…まあ、その…素敵を通り越して無敵だ、等と思っては…いたな」
「………」
伽夜は何か言おうと口を開いたらしいが。両手で口元を抑えて恥じらってしまった。
私は、伽夜の私に対する思いの源泉に、興味と恐怖を抱えた。
「ゆっくりお休み」
「……御父様に似ていらっしゃるんです」
聞きたくないからと話を切ろうとしたが、結局聞かされることになった。
褒め言葉だろうか。多分そうなんだろう。
「気取り屋か?」
「はい。三枚目です。見てて可笑しい位」
面白い人がタイプということだろうか。だとしたら、私より…。

リラックスしたらしい伽夜が寝息を立てると、緩んだ手をそっと離させた。
この場にいたら私の中の獣が目覚めかねない。
寝顔を許されるというのは、凄く、凄く、凄くすごくスゴク来るものがある。
外に出て、鍵を差し込んで回す。携帯を取り出して時刻を確認すると深夜二時。
一年A組に戻ろうとしたところで、玄関から話し声が聞こえた。
見に行ってみると駐在さんと高梨さんが立ち話をしている。
近づいてみると、この島の電波塔の管理室の扉が破壊されていた件のようだ。

「私です。済みませんでした」
「君が?…そういう事をするようには見えないが」
駐在さんはとても意外そうに言った。高梨さんはフォローに苦慮している。
何も無かったということになっている以上、緊急性の高い理由もない。
どうしたら助けてやれるだろうと、知恵を絞りすぎて、顔を顰めている。
「メンバーの中で、ちょっと連絡がつかなくなっちゃった奴がいて。
こいつ、心配して凄く焦ってて。普段は良識あるやつなんです。
ちゃんと弁償させますんで、どうにか、勘弁してやってもらえないですか」
「誰かいなくなっていたのか?
…そういう話なら、もっと早くしてくれてしかるべきだ」

駐在さんは少し怒った様子だ。私は高梨さんの肩を叩いた。
変に庇おうとして作り話ではないか怪しまれたりしたら事だ。
私は駐在さんに息をかけて等いくつか言われてそのようにした。
飲酒しているかどうかなど、確認したかったのだろう。
「…まあ、肝試しの最中で、慣れない道を使っていたら、そういうこともあるか。
ただ…変だよねえ。建物の中に強引に押し入る…っていうのはさ。
まるで、誰かにその子が誘拐でもされて、助けようとしたかのようじゃないか…」
駐在さんの詮索に、私は鉄面皮を繕ったが、あからさまに高梨さんが動揺した。
虐められていた時に培った無表情もたまには役に立つ。が、台なしだ。
駐在さんは高梨さんを見て得心がいった様子で細めていた眼を普通にした。
田ノ上、と呟いて、高梨さんが目を逸らす。それも駐在さんの眼に確と捉えられている。
「とりあえず、君の連絡先と、出来ればご両親の連絡先も預からせてもらえるかい?
示談で済むように取り計らう。役場から、後日連絡が行けば良し。
そうじゃない時は、悪いが力不足で、被害届をせざるをえなかった、と思って欲しい。
…その娘の事については何も聞かないが、勇気を持って訴えるべきだと諭してやってくれ。
あと、君とその娘さんは、身辺に気をつけたほうが良いかもしれない」
駐在さんは何かを知っている様子だ。
私が口を開こうとすると、高梨さんが肩を掴んで止めた。
「…服務規程に抵触するようなことを、本官は言えない」
何を聞こうとしたのかは察していたようだ。

田ノ上は最終日の朝にやっと宿舎に帰ってきた。
はぐれた上において帰ったという話で他の部員から糾弾されると
田ノ上は咄嗟に思いついたのか、実家に戻って捜索の人を出していたと弁明した。
この期に及んで良い人を気取ろうとするさまを見ながら、私は奥歯を噛み締めた。
皆、レイプ未遂までやらかすやつとは思っていない。そうだったのかと話を合わせている。
事情を知る四人だけで、田ノ上の動向を東京に帰るまで注視し。
伽夜の自宅へは、私が送った。酷く長い合宿は、こうして終わった。

9月上旬、講義のとり方によっては、既に大学が始まっている者もいた。
私もその一人だ。8月下旬から、取りこぼしたままの単位をとるための特講を受けていた。
伽夜とは、妙に周りから背中を押されるような関係が続いていた。
「やっとくっついてくれたよ。この二人。はー、しんどかった。」
伽夜が交際を部活の後で皆の前で公表するなり、高梨さんはこんな風にぼやいた。
顔はそれはもう初孫が出来た中年男性のように崩れている。ぼやくというよりはからかいか。
どういうわけか、高梨さんは私を気に入っている。出来の悪い子程…という言葉が思い出された。
「少しは、自信ついたろ?」
ばんばんと叩かれる背中が痛いが、不思議と気持ち良い。
男子部員の多くからは「無いわ。これは納得できない」といった声が上がった。
高梨さんが振られたというのは有名な話だったので、まさか私とくっつくとは思わなかったらしい。
田ノ上は、早々に退部届を出した。
部長と私と喜納と伽夜の四人は事実を知っている。
この四人の目は厳しく、それを避けるように去っていった。

10月中旬。11月の学祭と、ハロウィンに向けた準備が大学構内では平行して進んでいた。
ミッション系ではないが、ハロウィンはイベントサークルがとにかく熱心だ。
うちの大学でも、事件を起こすほどの強引さではないものの。
二つあるイベントサークルの双方ともに、事務局からの警告の常連として、悪名を欲しいままにする。
伽夜と交際するということは、こういう手合いの手管との対決でもある。

最初は二人でカフェテラスにいた時。
こういうの興味ないとパンフレットが置かれた。
伽夜がそれに眼を落とすと、馴れ馴れしく二人の男がテーブルの空いた二つの席についた。
チャラチャラとした印象で、私を見るなり鼻でフッと笑っていた。
部の仲間ならいざ知らず、交際の事実を知らないものからすれば、容易に御せるように見えるはずだ。
チラシをひとしきり眺めた伽夜が、大して興味もなさそうに、私に話題を振った。
私もこういうイベントは苦手なので興味が無いと言った。
伽夜は私を立てて、先輩と過ごすので、と言って断った。
着席した二人と周りを囲んだ三人が、凄く意外そうな顔をしていた。
すごすごと引き上げていったが、プライドを傷つけられたといった具合で、私を睨んでいた。
とはいえ、一度きりで諦める程、往生際の良い手合いでもない。

次に来た時は、どういうツテで知り合ったものか、伽夜の友達を連れてやってきた。
友達の口から一緒に行こうと誘われると、伽夜は断りにくそうだった。
空いているのかと問われて、ちら、と此方を見るので。
「31日はカラオケにでも行くか?」
気を利かせてみると、二つ返事。囲むチャラ男達の反感を大いに買ったようだ。
カラオケならパーティーでも出来るよ、と伽夜にすかさずサングラスの男が言う。
伽夜はそちらにはまるで興味を示さなかった。
「その人、ひょっとして彼氏?なーんか地味」
興味津々と伽夜の友達が此方を見る。私は華飾を好まない。質素な身なりを心がけていた。
現代のファッションとは逆方向を直走っているので、当然の評価だ。
「そこが良いんです」
伽夜がはにかむので、私は缶ジュースに口をつけながら照れた。
離れていく連中の「気分悪ーなんだよあれ。マジムカツク」という声に、あからさまな敵意を感じた。
二つあるのイベントサークルの勧誘なので、似たようなやり取りを何度か繰り返した。
ミラーボールに照射されたスポットライト。舞う埃に描かれる、乱れ散る光条。
そういうのを格好良いと思う感覚は私には無く。伽夜もその奥ゆかしい感性にブレはなかった。

10月も終わり。一緒にいる時間が増えたことで、伽夜がどういう趣味なのか分かってきた。
伽夜は、まずファッション雑誌なんて言うものを見ない。ゴシップ誌も読まない。
見たいドラマがあるから早く帰る、なんていう言葉を聞いた事もない。
ゴシップ誌どころか、インターネットのアングラに近いところまで出入りする私とは違う。
まあ、私もそんな日課はとうに捨てていて、随分スポーツマンライフになっているが。
小説を好み、私が聞いたこともないような作家の良さを語っては、私の好奇心を刺激した。

11月2日
「すいません。助けると思って話だけでも聞いてもらえませんか」
白いシャツに紺色のジャケットと色あせていないジーパンを着た、小太りの少年顔。
食堂で一緒にランチをとっていた私と伽夜の元に近づいてきたやつの第一声がこれだ。
伽夜は、助けて欲しいという言葉には弱く。なんですかと聞いた。
相手は、上田照明と名乗った。人物写真探求会のサークルの会長だという。
昨日、現像室で事故ってしまい。学祭向けの作品のネガをかなり駄目にしてしまったとのこと。
「出し物ろくにないと来年の予算が…後輩に顔向けできないんです」
これには私も深く同情した。自分のせいでそこまでの迷惑がかかるなんて考えたくもない。
伽夜もまた同様らしく。柳眉寄せる。
ふと、わたしは上田が背負っているナップザックが気になった。
ファスナーの金具から、ゲーセンのオタ向けキャッチャーの景品が下がっている。
伽夜から同席を許された彼がナップザックを下ろす際、
アニメキャラ系のバッジがいくつかついているのも見た。
話というのは、伽夜にモデルになって欲しい、というものだ。
どういう写真を取るのか、と伽夜が聞くと、和服が似合いそうだから、そういうのが良いと。
ここで私は思い出した。オタに半分乗っ取られてコスプレ研究会と揶揄されていたサークルだ。
内容がコスプレと聞くと、伽夜は臆した様子だったが。
「そうなんですよね。コスプレってなると、大抵皆嫌がっちゃって。すみませんでした」
そういって立ち去ろうとする上田を呼び止める。
伽夜は結局引き受ける事にした。私も付いていくことにした。

11月11日
かなり慌ただしく出た私は、あの島の役場の代理人と面会していた。
例の合宿での器物破損の一件は、連絡はすぐにきたのだが、暫く示談金の内容で揉めていたのだ。
回されてきた請求書がやたら高く、私の預金の殆どが飛んでいく内容だった。
これにクレームをつけ、一体どうしてこんなにかかるのかと説明を求めた所。
代理人を立てた話し合いを提案されたというわけだ。
新しく取り替えた扉の写真を見せて欲しいと頼んでいた。それは直ぐに閲覧できた。
あの日、私が体当たりでぶち破ったものよりも、かなり頑丈そうなものになっていた。
場所が場所であった為、工事の担当者の出張費用がかかる。
ここはさすがに交換させる原因を作った私が呑むべきだとすんなり応じたが。
元のやつよりも良い扉をつけられた分まで、上乗せされるのは承服しかねる。
向こうが立てた代理人の費用も盛り込まれて、その額およそ37万円弱。
こうした話し合いを一時間ほど続け、33万円少々に減額してもらった。
正直、これ幸いにと修理でなく交換されたようだと感じていた。
このあたりは指摘したものの、被害届を出さないでくれたのだ。
その分の恩、弱みがある以上、ごねすぎるのも得策ではないと考えた。

3時頃に別れると、撮影場所へと向かった。場所は上田の自宅だ。
上田の母親が流派の師範の一人らしい。インターフォンを押して上田家に迎えられると。
すぐに裏庭に面した縁側に案内された。
そこに腰掛けている他の二人のモデル達と距離を置いて腰を下ろす。
片方は見たことがある。確か去年の準ミスキャンパスだ。
女受けがかなりよくない、豪華な服装を好む人だが、この時は華美な着物姿。
もう一人は、かなり昔のガングロギャルっぽい人、驚くほどに首から下と上とで色が違う。
白に綺羅びやかな刺繍の入った着物を着て、大事そうに膝の前に小型のキャリーバッグを置いていた。
見ていると、眉間に皺を寄せて睨まれた。くわばらくわばら。
「七条は?」
「今撮影中」
準ミスキャンパスが言葉少なく肯定する。
バッグからあれこれと化粧道具を取り出し。清楚な姿に似合うメイクをしようと奮闘中だ。
裏庭に用意されていた草履をつっかけてにじり口から中をのぞき込んだ。
長襦袢を着た伽夜がカメラを向けられ、私を見つけてはにかむと、途端にパシャリと音がした。
上田は物凄く真剣な表情で、慌ててカメラに視線を戻す伽夜は撮影せず。
私を意識してか、微笑んだ伽夜を待ち構えていたように撮影した。
伽夜の撮影が終わると、三人は茶室に入って着替えた。
伽夜は、シンプルなライトベージュのワンピースと 
ピンクベージュのカーディガンの姿で私の前に戻ってきた。

「良いのが撮れました。有難うございます。小浦さんにも来てもらって大正解ですよ。
じゃなかったら、正直大失敗でした」
表情を作るということが得意でない伽夜の撮影は難航していたらしい。
私がにじり口から覗いていると良い表情が出たらしいので、やたら感謝された。
用事があるといって帰ったガングロを除き、私を含めた三名は、上田家で夕食をご馳走になっていた。
準ミスキャンパスは、伽夜に今年のミスコン出る気があるのかと尋ね。
その気がない、と答える伽夜の隣で安堵した様子を見せている。
上田はこの二人が本格的なコスプレ撮らせてくれたらなんて言っていたが。
伽夜は首を左右に振り、準ミスキャンには嫌と即答され。おまけに母親からいつまで…と説教された。
寿司にピザと、豪勢に出前をとって歓迎してくれる上田家を九時頃に出て帰宅の途についた。

11月17日。
学祭迫る日の放課後。田ノ上を見かけて、かなり気分が悪かった。
あれは、部活を辞めた他は、特に何ら変わらない生活を送っている。
学部の都合上、週の半分は別キャンパスで過ごしているが、稀に見かける。
田ノ上はどうもイベントサークルに入ったようで、見たことのあるようなチャラ男達と一緒に居た。
それを見ている時に伽夜がやってきた。遅れた事を気にしているらしく小走り。
稽古場にいくためのボストンバッグを椅子に載せようとして座ろうとした時、
伽夜の携帯がメールの着信音を奏でた。
何気なく開いたメールを読んだ伽夜の目が見開かれる。
「どうした」
「あ、いえ」
伽夜は悪戯げに微笑んで首を振った。怪訝に思っていると
「大丈夫です。ほんのちょっと驚いただけなので」

学校から稽古場に向かう路の途中、伽夜がボストンバッグの中を漁り始めた。
そうして、無いと幾度かつぶやく。
「ごめんなさい。課題が出てる講義のテキストを忘れてしまったので、先に行って頂けませんか?」
「ああ」
小走りにかけていく伽夜の姿を見送る。
この時、私は伽夜の態度に不信感を憶えた。伽夜は何度か私を振り返りながら駆ける。
その姿が右折して消えた後、私も別ルートから大学の校門へと向かった。
校門に入った伽夜を見届けてから、私も後を追ったが途中で見失う。
何か嫌な予感がして、焦りはじめると、校舎の影から伽夜が出てくるのが見えた。
撮影日に見たガングロが横にいる。伽夜はガングロに何か言っているが、ガングロの方は手を振る。
ガングロが振り返り、伽夜に何かを言うと、伽夜は少し考えた素振りでその横についた。

私は、とてつもなく嫌な予感がしてその後を追った。
裏門を出たところで、二人は裏門のすぐ向こうにある大きな病院に止まっていたタクシーを拾った。

伽夜と私はお互いにGPSのサーチ機能を許し合っていた。
駅前のあたりで一度止まった後、伽夜の家の方角とは反対方向の電車に乗ったらしい事が分かる。
私もタクシーを拾って駅前で下りた頃には、二駅先で下りた様子だ。

伽夜の携帯の座標が動かなくなったてから二十分程して、私もそこについた。
歓楽街の雑居ビルで、階の半分はぎらぎらとした照明でなんとも目に悪そうなホストクラブ。
ガングロがホスト遊びに伽夜を連れ出す理由がわからない。
他の階を見ると、漫画喫茶にカラオケボックスとよくある個室ビデオ。
見ているとエレベーターが開く。伽夜の姿が見えた。ガングロは笑っている。
見つからないようにと路地に隠れると、幸い此方をみずに通りすぎてくれた。
二人はまたもタクシーを呼び止める。一体何が始まった。

私もタクシーを呼び止め、前方のタクシーを追って欲しいと頼んだ。
そんなことは出来ませんというタクシーの運転手は怪しんだようだ。
私は、ついこの間現像があがったばかりの伽夜との写真をパスケースから取り出して見せた。
この人が前方のタクシーに乗っていて、普段は付き合わない柄の悪いのと一緒だと説明した。

「尾行でもしているんですか?おかしいですよ。
そういうのは会社の決まりで取り合わない事になってるんです」
結局私はタクシーを下りることになった。
数分置きに座標を確かめ、二人が大学近辺に戻った事がわかった。
行きは最寄り駅までのみで、後は電車だったのに。随分豪勢だ。
私は慌てて電車に飛び乗った。
二人の座標は大学近辺から、学生街へ入り、その外れに移っていく。
座標が殆ど動かなくなってから、三十分弱でそのあたりについた。

スーパーと、その敷地内にある大きな駐車場が一つ。
車道を挟んで向かいにはバーガーショップ。座標の示す位置から見渡すと、こんなかんじだ。
正直どこに入ったのかさっぱりわからない。
歩きまわってみると、歩道に出ている看板が目に入った。
アミューズメントスタジオCJ 二号棟という文字が踊る。ガングロ。撮影会。スタジオ…。
看板に記されていた住所携帯から地図検索で入力してみると、先程みたアパートだ。
その前について表札を見ると。さきほどと全く同じ文字がプリントされたシールが貼られていた。
格子付きの窓の向こうは中から張り紙でもされているのか真っ黒だ。
部屋の前で佇んでいると隣室の人が帰ってきたらしい。
カップ麺の入ったコンビニの袋を下げながら、ポケットから鍵束を取り出した。
私の顔をじろじろみながら、男が入っていく。
怪しまれて人を呼ばれても困るので、駐車場から様子を伺うことにした。


 幕間


 男は部屋に入るなり首を回した。中には、ガングロメイクの女が待っている。
 男は煩わしそうにその手を払い、ステンレス製のテーブルの上にカップ麺を並べる。
 電気ポットのお湯で、三人分の簡素な食事の用意をはじめる。
 ちゃらんぽらんな学生どもに顎で使われる立場というのが男は我慢ならなかった。
 もう一人、壁によりかかっていた男が、隣室との壁から伸びる、
 黒い四角錐の先に取り付けられたカメラに向かった。
 その直ぐ横にあるパソコンに、カメラから伸びるUSBケーブルを差し込む。
 一定間隔で撮影されたフォルダが一覧表示された。
 その中の一番左上にある、一枚をダブルクリック。
 画面左端から清楚そうな女が部屋に入ってきたところだ。
 ランチャー画面でスクロールし、別の一枚を見る。
 ロッカーを開けて手を伸ばす女の姿が映し出される。
 「マジックミラーとも知らず、呑気なもんだなあ。伽夜ちゃんよ」
 ガングロは、自分を邪険にした男から、もう一人の男に対象を変えた。
 「早く払ってよ。田ノ上君」
 田ノ上満は笑った。ポケットをまさぐって財布を取り出す。
 ロッカーの中から取り出したウェディングドレスを見て、微笑む七条伽夜のフォト。
 それを着る為に、服を脱ぐ様子もバッチリと写っている。
 次から次に画像を開いて、にんまりと笑った。
 鏡のつもりでマジックミラーに向かい、全裸を晒す七条伽夜。
 ランチャーの左側。Photoフォルダの一つ上にmovieフォルダがあった。

 七条伽夜は自分のウェディングドレス姿に見蕩れていた。
 鏡に映しだしたそれは、確かに自分の姿なのだ。
 「小浦先輩、綺麗って仰って下さるかしら」
 ウェディングドレスのモデルの仕事があると、
 ただ一度だけ請け負ったモデルの時に出会った相手から誘われた時はびっくりした。
 彼氏に内緒で撮って、驚かせてあげなよという一文は、小浦を慕う女の心を刺激した。
 隣室で悪夢の胎動をしているとは知らず、ロッカーを開けて、また別のウェディングドレスを選ぶ。
 どれを着て撮影に臨もう。乙女心を満喫する七条伽夜のもとに、
 カメラマンが急遽来れなくなったというメールが入ったのは、到着から一時間後のことだ。


 幕間 終


扉が開く。伽夜は悄気ている様子だった。
隣室から、あのガングロが出てきて、伽夜に親しげに話しかけながら階段を降りる。
何か、あったようには見えない。安堵とともに気疲れが押し寄せた。
二人が立ち去ってから駐車場を出て、慌てて帰路へと着いた。
もうとうに稽古は終わっている時間だ。

あの日の夜。伽夜はウェデングドレスのモデルになりそこなったとメールが来て以来。
伽夜は、お嫁さん姿を見せ損なった、としばしばぼやいていた。


大学四年。一度は見放されたが、最初の二留以降は、ストレートな進級を果たした。
伽夜との関係も少しづつ進展している。双方奥手だと高梨さんはひやかすが。
クリスマスには手を繋ぎ、バレンタインにはついにキスを贈られた。
ホワイトデーにはシルバーのネックレスを贈ると、伽夜は毎日着けるようになった。
幸せな毎日。時折田ノ上を見て胸のむかつきを覚える他は、全てが順調。
大学、稽古場を共にして、伽夜との生活は婚約を強く意識するものになっていく。
恋心もあるが、友情も育んでいる。こういう人と一生を共にできたら。

5月。ついに口下手なりに伽夜に考えている事を伝えた。
婚約したいというと、伽夜は両親に紹介してからでないと駄目と言った。
その月のうちに、私は伽夜の家に招待された。
伽夜の父親との対決は、6月中旬まで行われた。もっとも母親の方が余程手強い相手だったが。
私には、伽夜の母親から、伽夜の父の仕事を継ぐ意思がない限り婚約はさせられないと告げられた。
条件には、婿養子入りと、大学院への進学も含まれていた。
これは就活でとれていた内定を蹴るということでもあった。
これを持ち帰り両親を説得する間に7月となった。

婚約を7月に決めた私達は、夏季休暇を最後に、一つの生活を締めくくろうとしていた。
伽夜は8月末に家を出て、私が借り直した築20年程のマンションで同棲することになっている。
双方の両親は強く反対した。
うちの両親は伽夜が強く希望したことだと対面して知ると、先方が良いならと許可が出た。
あちらの御両親については、義母の方はなんだかんだと言いつつ、早々に折れた。
義父の方は色々と要求をつきつけてきた。
私の前期の成績とこれまでの取得単位数、学生時代の通帳等を確認した後、考えると言ってくれた。
院生進学後の6月に式場を手配し、成約のサインの場に来てもらうと、その帰り路に承諾を貰った。
初孫は伽夜の卒業後にしてくれ、というのが、義父が最後まで主張した条件だ。
勿論、在学中に孕ませて、休学させるような馬鹿はするつもりはない。

8月、また合宿の季節がやってきた。
先に院生となっていた高梨さん率いる一行は、千葉の外洋沿いの街で五泊六日の旅程を消化した。
もう一つの旅行もある。
ウェディングドレスのモデルの仕事がとれた伽夜についていく形で始まる、七泊八日の旅。
初日は、少し寂しい思いをしそうだが、その後は伽夜とゆっくり出来る。
その間に、伽夜に同衾を申し出るつもりだ。

朝に出て、空港から国内路線で移動を開始。
待ち合わせ場所から、若い三人の撮影スタッフと男性モデル共に
ライトバン一台に乗り合わせて出発した。
山間の別荘地につくと午後二時。空気も綺麗で気管支がやや弱めの私には素晴らしかった。
急ぎ、始まった撮影。別荘地の外れにある教会に行き。
新郎役のモデルと共に撮影に臨む。その姿は少しの嫉妬を生んだ。
夕方、撮影スタッフは次の仕事が翌日あるからと、ライトバンで帰っていった。

「そういえば、鍵…」
夜、はたと気がついた。スタッフ達がもっていた鍵を預かっていない。
「そうですね。忘れてしまったのでしょうか」
伽夜が携帯を弄りメールを送る。
少しして返信が来た。クライアントに渡したらしいと伽夜から聞いた。
「良かったな。ウェディングドレスの仕事が出来て。随分、悔しがっていたろう」
「翠さんには御礼を差し上げないと」
「翠?」
「文化祭前に撮影モデルを頼まれた事が御座いましたよね。あの時ご一緒した方です。
パンダ…ダンパみたいな方です」
吹き出した。白と黒の色合いが逆だからダンパか。
「随分、仲が良くなったものだ。あの手のタイプと伽夜は相性がよくないものと」
「紹介料目当てで、仕事を下さるようです」
成る程、伽夜に寄生虫としてくっついているわけか。
伽夜は、うちの大学にコスプレ研究会とはまた別の、撮影技術研究会なるものがあると言った。
そちらの部活は本格志向で、撮影バイト等をしているのだという。
前回のも今回のも、スタッフはその会員だと聞き、驚いた。
言われてみると、見たことがある顔がいたような気もする。
撮影隊が、クライアントからの御礼の品です、といって置いていったシャンパンを開けて飲んだ。

私はふと目を覚ました。喉の渇きを覚えて、立ち上がろうとした。
しかし、体が起ききる前に、ジャリ、と首が後ろに引かれた。
「なんだ」
眠りの底から戻ってきた感覚。首に何かが巻かれている。触れてみると皮と鉄の感触。
それに鉄製の鎖がつながっていて。座った憶えのない車椅子の後ろにつながっている。
両足も枷がつけられて車椅子のパイプから20cmも離せない。
しかも、ここは借りている別荘ではない。窓からの景色が辛うじて近くだと告げている。
「…まさか!」
返されなかった鍵。うちの大学の学生だった撮影スタッフ。
お淑やかな伽夜が受けてしまいそうな、ウェディングドレスの撮影モデル。
楽しい筈だった旅行がみるみるうちに悪夢に蝕まれていく。
もしや…田ノ上か。
首輪をどうにかとろうとあがく。しかし手の届きそうなところに道具になりそうなものもない。
いらついて車椅子をがたがた揺らしていると、扉が開いた。
「よう。久しぶり」
想像通りの男がそこにいた。下半身にバスタオルを巻いた姿だ。
「田ノ上!お前!何のつもりだこれは!」
そりゃ決まってんじゃん。お前と冷静に話する為だよ。
お前俺の事恨んでるだろうからさぁ。怖くって怖くって」
へらへらと田ノ上が笑う。
「話?」
「そ…ええっと、これこれ」
田ノ上は楽しげに声を弾ませながら、近寄ってきた。
すぐそばのサイドテーブルの上にノートパソコンが一台置いてある。
田ノ上がブラウザをたちあげて、URLのところに英語と数字を叩きこんでいく。
表示されたのは、伽夜の部屋という名前のサイト。
閲覧するにはユーザー認証という文字が赤く表示された。
慣れた手つきで操作する田ノ上が双方を入力してENTERを押す。
私は、目を疑った。
伽夜、伽夜、伽夜、伽夜、伽夜、伽夜。
動画館、写真舘、掲示板の3つのコンテンツ。
田ノ上が写真館をクリックすると、ずらりと伽夜の写真が出る。
ロッカーのあるどこかの部屋。何も知らずに脱いでいく伽夜がどんどんあられもない姿に。
その最後の方の一枚を田ノ上がクリックすると、縮小画像が拡大されている。

全裸になった伽夜が、おそらくは鏡だと信じているカメラの方向にポーズをとって微笑む。
「お前!?な、何をしているんだ!」
「伽夜ちゃんヤりそこなっちゃったからさ。
ずーっと準備してたんだよねえ。はっはっは」
「ふざけるな!」
「ふざけてねえよデブオタ!高梨も俺も振っておいてよ。
よりによっててめえと付き合うだと?俺がてめえ未満なわけねえだろがっ!
舐めすぎなんだよ…あの女!」
田ノ上が怒鳴り散らす。
「今すぐこれを取れ」
「やーだね。伽夜ちゃんからエッチOKもらったし」
「なんだと!?」
「このサイトさあ。まだローカルにしかないわけ。ローカル、分かる?
ちょーっと海外のサーバに、パス認証はずしたバージョンアップすっとまずいよねえ?
その話して十分位かなあ。中に入れないならエッチなことしてオッケーって」
「脅迫、じゃないか…お前、なんてことを…」
「取引だよ。ちゃんと合意成立してんじゃん。
婚約したんだって?おっめっでっとー!
けーど伽夜ちゃん俺のペット兼任だからー」
「…前のも、今の撮影も、お前が手配したのか…」
「そっ高かったよ?全部でいくらだっけか。貯めるためのバイトきっちーきっちー。
けどやった甲斐はあったよな。無料性処理ペットゲットだし、三十後半位までは楽しめるだろ?
コストパフォーマンス良すぎだぜ…っへっへへへ」
「……伽夜をペット等と言うな!」
「ま、いいや」
田ノ上が車椅子の後ろの持ち手を掴んで押す。
田ノ上が入ってきた扉から通路に出された。
後ろでびっと音がする。前に回された手の間に茶色い帯。ガムテープが口に押し当てられる。
厳重に口を封じられた後、二つ並んだ扉のうちの右側の方に入れられる。
窓も照明もない部屋。ぼんやりと照らされた室内は奥で左折するようだ。
私はそちらにつれていかれ、この部屋が凹の字であると理解した。
田ノ上は車椅子を壁際から垂れる鎖で固定する。
その後で、部屋の隅にあったロッカーからスタンド付きのビデオカメラを取り出し。
凹のくぼみの硝子張りの部分へと向けていく。あいつが、何をしようとしているのかが分かった。
全裸写真を公開される苦しみを回避すること餌に、自分との行為を動画におさめようというのだ。
私は絶叫しようとしたが、もおといった鼻声しか出ない。田ノ上は計三台のカメラを仕掛けた。
「じゃ、ごゆっくりー」
田ノ上が、扉の傍のスイッチをおしながら出ていった。
暗闇が訪れる。
五分程して、光がくぼみの部分から差し込んできた。
シャワールームの情景が浮かび上がる。伽夜が田ノ上に押されて入ってくる。
その体は、伽夜が田ノ上と肝試しを回った時のものよりもっときわどいモノキニ姿。
伽夜からは、おそらく三面鏡の部屋に見えている。
伽夜もあのサイトを見せられたようで、鏡の向こうを指さして首を振った。

しかし田ノ上は恫喝するように怒鳴り散らす。こちらにまで声が少し届いた。
全裸位。もうこうなったらいいじゃないか。断れ!断るんだ!
そう思えども、伽夜の両目からはぽろぽろと涙が溢れる。田ノ上の悪意に呑まれているのだ。
身を竦ませた伽夜に、田ノ上が抱きつく。
モノキニの隙間から滑り込んだ手がたちまちのうちに乳房を覆い、モノキニの生地を浮かせる。
ぼろんとこぼれ出させられた乳房に節くれだった指がまとわりついた。
伽夜は泣きじゃくりながら、その体を弄ばれていく。
田ノ上が何かを命じ、伽夜が田ノ上の方を向いた。
田ノ上は屈んで乳房にかぶりつき、両手で臀部をまさぐりだす。
しゃくりあげる間に、ひくり、と伽夜の体が震える回数が増す。
田ノ上は飽きるほど伽夜の両乳房を舐め回してから体を離した。
また命令。田ノ上が横たわる。伽夜はその長い髪を何度も振り乱す。
しかし、田ノ上はへらへらと笑いながら、同じような具合に口を動かすのみだ。
やがて、伽夜はゆっくりを田ノ上の上に足をM字に開いて跨っていった。
田ノ上の短いの竿を伽夜の指先が花弁に添わせるように導き。腰を揺らす。
花弁が軽く割れ、幹を軽く咥えたようになる。その状態のままなぞり続ける。
田ノ上は下卑た笑いを浮かべながら、腰を時折ゆすり上げる。
その度に外れたりする肉竿を、伽夜は汚いものを見る目つきで見る羽目になる。
嫌がりながらも奉仕する姿が、三台のビデオに容赦なくおさめられていく。
体を揺すっても、車椅子は動かない。床に足だってつくのに。
車椅子を繋ぐ鎖が自由を奪う。
クライアントからの、差し入れ。何時寝たのかも覚えていない。
多分一服盛られたのだ。田ノ上は易々と上がりこんで、私達をこんな目に。
田ノ上が首を仰け反らせる。伽夜が掴む竿の先端から白い迸りが出た。
それは田ノ上の下腹部から腹までに飛び散る。

田ノ上の要求はエスカレートし、伽夜は自らモノキニを脱ぎ捨てさせられた。
その全裸を見下ろす体勢で田ノ上は腰を突き出す。伽夜は可憐な唇を開かされ。
容赦無く肉竿が伽夜の口内に入った。田ノ上は細かく指示を出す。
伽夜はぼろぼろと大粒の涙をこぼしながら、上体を振って咥えた竿に拙くも奉仕する。
一体、この地獄は何分つづいたか。二時間にも三時間にも感じられた。
田ノ上は腰を引いて、伽夜の顔を汚らしい田ノ上の分身で汚した。

二回の奉仕をさせた後、田ノ上はやっと伽夜から離れ、扉の傍にあったスイッチを押す。
途端、天井のノズルから部屋一杯に水が注いだ。 
伽夜はそれを浴びて、田ノ上が触れたところを必死に洗う。
田ノ上はそれを見ながら、高笑いをしているようだ。
自らにこびりついた精液を洗い落とすと、田ノ上は出ていった。
その場に残された伽夜は泣き崩れた。硝子に拳がふられる。こん、という音。
硝子向こうの空洞のことを、音で伽夜も理解した筈だ。
伽夜が、確信を得て立ち上がる。扉に向かいノブを捻るが、外側から鍵がかけられている様子だ。
自分が今したことを田ノ上が撮影した可能性に気づき、蒼白となった伽夜は髪を振り乱して泣き叫ぶ。
その痛ましい声が、硝子の此方側にも伝わる。私も泣きそうだ。だが、泣くものか。
あいつの目をたのしませるつもりはない。

田ノ上が戻ってきた。
鼻歌を歌いながら、ビデオカメラからSDカードを回収していく。
「はいぃ!いっちょ上がり。どーよ?興奮した?
次からはコンドームつけてやりまくらせてもらうから。
ごめんなぁ?デブオタァ。ッハハハハ」
何も言い返す事の出来ない私の前で、田ノ上は勝ち誇った笑いを上げる。
「ま、次に俺が伽夜ちゃんとヤる前にヤっとけよ?応援してっからさぁ…。あーたのしっ」
こいつは、本当の意味でサイコだ。昔、見栄っ張りだった私なんか、足元にも及ばない異常者。
こいつは…、被害妄想でヒステリーを起こした上に、他人の尊厳を踏みにじる。
もう…殺すしかない。伽夜を守るためには、こいつを一刻も早く殺すしかない。
「なんか変な事考えてんだろ。でも、もう手遅れなんだよ。
この動画ファイルを追加してサイトをアップロードしておくからさ。
パス有りのページとなしのページのデータを用意すんだろ?
俺が定期的にログインしてりゃ、パス有りのページが表示されて誰も見れねえ。
けど、ログインしなくなったら、一週間でパスなしのページを表示させる
なぁんて芸当が出来るんだよ。ッハハハハ。良いだろ?これ!最高だろ!!
ギャハハハ!
…俺を殺したり、通報したりしたらさ。
伽夜ちゃん自殺級の恥掻くぜぇ!日本中どころか世界中から殺到だ!
モノホンの奴隷調教ビデオなんだからなあ!大人気だぁ
一度出回ったらあっちこっち飛び交って、一生笑い者さ!」
勝ち誇った田ノ上が私の股間を蹴る。あまりの痛さに悶絶していると、気が収まったようだ。
私は苦しんでいる振りをしながら、田ノ上の背中を鋭く睨みつけた。

扉から田ノ上が出ていって二十分。田ノ上が、伽夜を閉じ込めたシャワールームの扉を開けた。
伽夜は、田ノ上に殴りかかろうとするが、田ノ上が何かいうと、
その拳をわなわなと震わせながら下ろした。
田ノ上は伽夜に携帯を渡した。伽夜はうつむいたままそれを受け取った。

二人が出ていって、部屋が真っ暗闇となる。すぐに扉が開かれた。
伽夜が部屋の中に入るなり電気をつける。私の有様を見るなり、駆け寄ってきた。
自分の格好など気にせずに、ガムテープを剥がす。
「伽夜っ!」
「何もおっしゃらないで!」
伽夜は私の頭を自らの乳房におしつけるように抱く。
「…良かった。ご無事でよかった」
「……伽夜…すまん」
「そこのカメラですね。さっきの様子は、録画されていたのですね」
「…気にするな」
「…婚約を、解消して下さい」
「伽夜……」
「私、こんな…こんなの…言うこと、聞くしか…御座いません」
「婚約は解消しない。私がなんとかしてみせる」
「どうやって!?」
「ただ信じろ。任せろ」
「…私、嫌です。あんな、あんな映像が世に出まわったりしたら…」
「……伽夜、その時は整形を受けてくれ。私が金を出す。
私はどんな顔の伽夜でも良い。どうせなら醜くしようか。
綺麗過ぎると、つらい目に合うのなら…いっそ。な?
伽夜…。心から、君の心を愛しているんだ」
伽夜が私を見る。私が伽夜を見る。くしゃくしゃに泣いた顔にほのかに笑みが戻った。
「…分かりました。お任せ致します。…もし、公開されたら。その時は整形を受けて…遠くに」
「そうだ」
携帯が鳴った。伽夜がそれを取る。少しのあいだやり取りがあった後に、伽夜がロッカーに向かう。
ロッカーの中を漁った伽夜が鍵を見つける。私を拘束していた器具の鍵穴にぴたりとはまる。
ようやく、自由が取り戻せた。だが、私は駆け出したりしなかった。
これは足止めだ。あいつはビデオを持って今頃は車の中か何かだろう。

監禁されていた建物を出ると、私達借りた別荘の二軒隣の別荘だった。
あいつは撮影の間から、ここに息を顰めていたわけだ。
そういえば、駐車場に足立ナンバーのセダンが止まっていた気がする。
おそらく、それがあいつの車だったのだ。

旅行を楽しむ気など失せた。私達は早々にまだ期間の残っていた別荘から去った。
東京に帰るなり、私達が向かったのは私のマンションだ。
入出管理の厳しいこのマンションは、管理人の了解か住人の許可がなければ、玄関の扉が開かない。
伽夜は、少しは落ち着いたようだ。もう腹は決まったと、どんな連絡が来ても断ると宣言した。
私のかけた言葉は、伽夜に最後の拠り所を与えたのだ。顔を変えてなら、逃れ得る。

私は、一人で戦う事は無理だと考え、伽夜に一部の人に事情を説明する許可を貰った。
婚約者が大変なことになっていると聞くと、親父は仕事をほっぽり出して飛んできた。
親父の仕事は警備員だ。ただし、体調を崩して離職する前は、警察に居た。
伽夜の両親にも来てもらった。

事情を説明している最中、私は義父に殴られそうになったが。
伽夜が身を呈してかばおうとしたことで、義父は力なく項垂れた。
義母は、この人が悪いんじゃありませんといいながら、義父の頬を張った。
そして、伽夜を抱きしめた。
父はすぐに昔の同僚に電話をした。真夜中の十二時頃に、父の同僚だった松山さんが我が家を訪れた。

「田ノ上っていうのは、とんでもない一族ですよ。性犯罪者が多すぎる」
松山さんは、親父に免職された時は、親父の会社にいれてくれと言いながら
書類をばさばさとカバンの中から出した。
田ノ上満本人も、中学生の頃に担任の女教師をレイプしようとして、更生施設行きを経験していた。
その父親の田ノ上稔侍は、スカートめくりの常習で中高と補導歴多数。
大学では盗撮。収監歴もある生粋の性犯罪者だ。
その他親族まで含めると、わかっているだけで、ここ二十年の間に、14件という有様だ。
私は、怪談話の時に田ノ上が怒った理由をようやく正確に知ることが出来た。
田ノ上は唐突に図星をつかれたから怒ったのだ。
松山さんが、これだけ突出した経歴を持つ出自のものなら、警察も即動くと断言した。
伽夜は、被害を届ける事を決意した。

夏季休暇が終わって数日後、警察が私達の身辺を既に固めてくれているとも知らずに、
田ノ上がのこのことやってきた。
放課後のカフェテラスでくつろいでいた私達のもとにやってきたあいつは、
私達を校舎裏に誘い出して、例のノートパソコンを取り出した。
目の前で、模様替えが行われたサイトを見せられる。あの別荘での忌まわしい記録もその中にあった。
「じゃ、伽夜ちゃん。今度はコンドームつけるからヤラしてもらおっか」
すかさず、構内に隠れていた警察が動き出した。
校舎裏の出入口を固めてやってくる刑事に気づき、田ノ上が呆然とした。
「おい。お前ら…なんかしたんか?」
「お前の言うとおりだ、田ノ上。今は良い時代だ。
仮に、顔に醜聞がつきまとっても、整形すればどうにでもなる」
「え?」
考えていなかったらしい。美しい容姿が災いを呼ぶなら、ブスになる。
そう珍しい考えでもないはずだが、田ノ上の脳みそには考えつかないらしい。
「もし公開されたら、伽夜には醜く変身してもらう事にした」
「…て、てめえ…」
田ノ上がノートパソコンを振り上げる。
「……田ノ上満だな。おとなしくしろぉ!オラァッ!
建造物侵入他37件の容疑でぇ!逮捕する!!」
田ノ上のその腕を一人の刑事がつかみ、別の刑事が背後からタックルして田ノ上を引きずり倒す。
腕をつかんでいた刑事が、かなり際どく、ノートパソコンを奪い取っていた。
田ノ上は顔面を土にしこたまうちつけて、顔を上げた時には盛大に鼻血を拭いている。
証拠を叩きつけて壊そうとするから、そんなことになるのだ。
「…小浦ぁ!七条ぉお!てめえらよくもぉぉお!」
「うるせえ!騒ぐな!おとなしくしろおら!」
警察がヤクザのようにドスを聞かせた声で恫喝する様をはじめてみた。
女性刑事が近寄ってくる。
「お疲れ様でした。サイトの事は御心配いりません」
女性刑事は伽夜を心配していたようだが、伽夜は毅然と田ノ上を見下ろした。
私は、その横顔を見つめながら、伽夜が再びこうして強く振る舞えることを喜んだ。

田ノ上は、一週間以内にログインをしないといけない、と言ったのだ。
つまり、田ノ上がアップロードしたサーバーへアクセスしたときのログは、
尾行さえしっかりしていれば、捜査機関なら容易く手に入れる事が出来る。
調子に乗って、けして言ってはならないことを言ったのだ。
仕掛けた時限爆弾で自らを爆死せしめたというわけだ。

「田ノ上はどのくらいで出てくるんですか?」
「七条ぉ!てめえは殺す前に中に出しまくってやる!
小浦!てめえは七条にぶちこんでるところみせながら首かっさばいてやるよぉ!
楽しみにしてろよ。ヘヘヘヘ! 腹でかくしてやるからなあ!
聞いてんのか! 俺を無視すんじゃねぇええ!」
黙秘権などの通告を黙々とする刑事の言うことなど耳を貸さず。田ノ上は叫ぶ。
「そうした質問にお答えする事はできかねますが。……ご安心下さい。
出所後は入国管理局に送られ、強制退去となります。再入国は拒否されるでしょう。」
田ノ上と名乗っていた一族が外国人だと知り、私と伽夜は顔を見合わせて喜んだ。
 
数日後、ほぼすべての新聞に衝撃的な見出しが踊った。
強姦の島。レイプレジャーアイランド等、ショッキングな命名をされてあの島が紹介された。
田ノ上一族が、レイプ被害者を内縁の妻にとって、奴隷としていた実態が暴かれたのだ。
テレビでは、田ノ上一族の男達が、警察に付き添われながら、船に乗せられる光景が連日報道された。
こぞってスクープを狙う報道機関は、たちまちのうちに島の暗部をつきとめた。
あの島特有の地方信仰、田神講がこの一連の騒ぎの原因とされ。コメンテーターが舌鋒を尽くす。
外部の縁起の良さそうな苗字の女を島に呼び込み、あらゆる手段を尽くし、反抗心を奪うまで洗脳し
島の男の嫁にすることで、島は繁栄を遂げると教えていたらしい。
この異様な祭儀は、文明未開花の頃の隣国の風習をそのまま模したものではないか、と専門家は語る。
大事件を追いかけるスクープを求めるフリーの記者達の執念深さ。
やがて、田ノ上を名乗る一族が、DNA的には全くの赤の他人であるにもかかわらず
通名として似たような苗字を名乗っていた事までが語られるようになる。
彼らの多くが昭和40年代から50年代にかけて渡ってきた密入国者であった実態が突き止められ。
生活基盤が日本に出来てしまっていたのと、強制送還したものの送り返されてきた事を理由に
永住権を与えるとした行政の対応にも批判が集中し、事は入国管理の不備にまで飛び火。
他国からの移民が離島を占拠する危険性がワイドショーで当たり前のように論じられる事となった。

私と伽夜の周辺も徐々に騒がしくなった。
厳重な情報管理を徹底していても、田ノ上満の大学名位は初期の報道から出回っていた。
時を経るごとに校外に屯す記者が増えていき、武道錬成部の周辺へとそのインタビューの矛先を変え、
ついに私達を狙うようになった。
記者達が私達を見るその目には、福沢諭吉か新渡戸稲造でも詰まっているに違いない。
全員ではないにせよ。報道による公益性等のお題目とは違った、もっと下卑た個人的な欲望が
見え隠れしている者も少なくはなかった。
私達がコメントを避ける間にも、田ノ上満が武錬部を退部した事実などが彼らの主張を補強した。

「本当は何があったんですか。七条さん」
「通行の邪魔だ。通せ」
「七条さん!田ノ上満さんが部活を止める前の合宿について何か一言」
「久信さん」
記者やレポーターは既に伽夜が何らかの被害にあっているところまでは突き止めているらしい。
しかし、本人がそれを認めない限り、報道すれば賠償を求められても仕方がない。
こうして群れて、責任を散らしつつ日参されるのだ、ある意味、田ノ上より性質が悪い。
学長は、とうに、キャンパスの出入口を徹底的に固めるようにはしていたが。
一歩外に出ればこの有様だ。
「…仮に私達が何か被害にあっていたとしたら、
あなた達も、二次的な加害者としての振る舞いをしているということになる」
こうした程度の発言はしたが、彼らは自分たちに都合の悪い発言などは、なかったことに出来る立場だ。
田ノ上一族の被害者を妻と迎えた男との美談を書きたいとストレートに言った記者の方がマシだ。

数日して、私達のマンションも割れ、マンションのオーナーから退去を求められた。
「あなた方が悪いのではないが、これでは他の住人静かな生活が送れない。
ここに示談金を用意したので、どうかこれで次の住まいを探して貰いたい」
大学もこの二週間後には他校への転入を持ちかけてきた。
学長は何も悪くないのに、滂沱の涙を流しながら土下座した。

田ノ上満との戦いが終わり、また一つの戦いの幕が上がる。
報道の自由を盾にする、マスメディアと私達の戦いの渦中、伽夜の心は遂に死んだ。
田ノ上のアップロードした画像と動画のデータは、海外サーバーの管理会社の一つが倒産した後、
それを買い取った会社を経由して流出した。
海外のサイトで転載され、それを見つけたネットユーザーの手によって、瞬く間に拡散した。
そうした動画が流出しているという記事が、週刊誌の一面を飾った事を朝のニュースで知った。
ナレーターは、痛ましいような顔をしているが、なら報道しなければよい。
あいつらは他人の不幸を飯の種にする外道だ。
伽夜は丁度朝食を取っている時だった。かたんと箸が落ちた音に私が気づくと、伽夜は横倒しに倒れた。
まだ熱い味噌汁をかぶっても、伽夜は熱さを感じることすらやめていた。



十年が過ぎた。私は白いシーツのはためく屋上にいた。
看護婦が隣にいる。シーツの隙間から、空中庭園の只中にいる車椅子の女を背後から眺める。
七条伽夜。私の妻は、ただぼんやりと空を眺めて一日を過ごす。
伽夜が精神に変調をきたした途端、マスコミはやはり何かあったのだとこぞって書き立てた。
これが止めとなって、伽夜は現世に心を向ける事をやめてしまった。
顔は変えられても、一度生まれた現世への不信は手術でどうにかなるものではない。
彼女が精神病院に入り、直接の原因がマスメディアの報道にあったとの診断が出た。
マスメディアはその責任を回避しようと、盛んに田ノ上の残虐さを報道して自己の正当性を主張。
この十年の間に、義父母がほぼ日本全国津々浦々全てのマスコミを相手取って起こした裁判で、
賠償金総額七億六千五百万円の賠償を勝ち取ったが。マスコミの中のカルトは未だ顕在だ。
私達の問題については、海外のメディアがこぞって取り上げ。
日本のマスコミが、法的責任を追及されそうな取材手法をする際には、
率先して社外の食い詰めかけのフリーの記者等を起用し、責任を回避する実態が浮き彫りとなった。
しかし、それが明らかとなったところで、一体なんだというのか。
「………」
看護婦が私の横顔を見ながら顔を手で覆った。

誰を恨めば良い。
                                        終





いい加減暇だから、小説書いてみた。」から。過疎板…

メールありがとうございました。誰にでもそんなこと言ってんでしょ。ホントもう。


21:57 : 2ch > NTR(寝取られ,寝取り) : comments (47) : trackbacks (0)
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Comments

なげえから読まね
...2012/06/07 10:34 PM
最後だけ読んだ
...2012/06/07 11:03 PM
読んでみたけど

なげぇ うぜぇ

以外の感想が無い
...2012/06/07 11:03 PM
長文読ませといてこれかよ。。。
...2012/06/07 11:24 PM
主人公キモすぎ
ヒロイン?のキャラがうっすーい
抜きどころなんてどこにもない

低レベル妄想文
マジで時間の無駄だった
...2012/06/07 11:28 PM
悪くないけど少年漫画程度の描写でどうにもならない
...2012/06/07 11:31 PM
全然おすすめじゃないよ・・・
...2012/06/08 12:17 AM
なんで載せたんや…
...2012/06/08 12:22 AM
頑張って最後まで読んだけど、これは無いわ
...2012/06/08 12:25 AM
管理人はおすすめすることを強いられているんだ
許してやろうぜ
...2012/06/08 12:33 AM
エロすくない(´・ω・`)
...2012/06/08 12:52 AM
自分もこれは正直微妙だった…
でも、いろんなNTR作品を紹介してくれるのはありがたいので
今後も色々載せてほしい
...2012/06/08 01:15 AM
下手にお勧めとか書かない方が・・・
...2012/06/08 01:23 AM
頑張って途中まで読んだ
...2012/06/08 01:29 AM
読み物としては悪くないけど、寝取られとしては消化不良だなw
このサイトとは関係ないとこで読んでたら興奮したかもしれないけど、
それなりのエロを期待して読んだら肩透かし食らってしまった気分
...2012/06/08 01:52 AM
おすすめ(`・ω・´)b が、
おすすめ(´・ω:;.:...  になってて笑ったw

方向性としては嫌いじゃないので、これからも良作紹介よろしくw
...2012/06/08 01:57 AM
まじで長いだけだった
...2012/06/08 02:00 AM
単にレイプ要素を含む不幸ものとして書かれたのね
まあいんじゃないの
...2012/06/08 02:55 AM
エロゲの原作としてはありじゃね?
これはBADルートねw
...2012/06/08 03:07 AM
まあたまにはこういうのも良いよ
肩透かし食らった人多いみたいだけど
...2012/06/08 04:49 AM
読んでないけど突き抜けた作品だった
...2012/06/08 05:26 AM
なんでや…
 ...2012/06/08 05:37 AM
頼む、誰かあらすじを
...2012/06/08 07:07 AM
エロ的には消化不良かなあ?

読み物としてならまあまあ

ただ、最後の田ノ上島の件は唐突な感じが・・・

上の人が書いてるけど、エロゲの原作で話を膨らませたら・・・hourglassとかの作品になりそうではあると思う
...2012/06/08 10:21 AM
誰を恨めば良いだけ読んだ
...2012/06/08 12:44 PM
誰か5行でまとめてくれ
...2012/06/08 01:48 PM
管理人の自信なさげなおススメ顔文字が可愛かった
...2012/06/08 04:53 PM




い に尽きる
...2012/06/08 05:03 PM
お前らの感想で読む気起きなくなったわw
...2012/06/08 07:19 PM
管理人センスが無いからって落ち込むなよ?

後マジでつまらない。
...2012/06/08 07:25 PM
これはあかんわ…
偽装体験談やりたいのかSSやりたいのかエロやりたいのか
NTRやりたいのか、それともネトウヨ嫌韓やりたいのか
ぶれすぎ
...2012/06/08 11:30 PM
事実書いたら嫌韓ってのはおかしいだろw
過剰反応しすぎ
...2012/06/08 11:54 PM
まあ、元のスレが元のスレだから、ぶれるというより色々詰め込みたかったんだろうなとは感じた。
※にある「レイプ要素ありの不幸もの」っていうのは的を射てると思う。

ただ、影の権力者・レイプ・村の因習という概念が在日のイメージと親和性が思った以上に高いなと気づかされた。
差別云々の問題からエロゲ化とかは無理だろうけども。
...2012/06/09 01:31 AM
がちでつまらんw
...2012/06/09 09:23 AM
読むのめんどいわ。せめて独白の形式はやめろ。
...2012/06/09 12:28 PM
シコれなかったけど面白かったよ!
...2012/06/09 01:33 PM
例えば序盤にある主人公の半生みたいのは、ばっさりカットして良かった。
アマチュアの作品だからしょうがないけど、考えた設定を一から十まで並べたくって仕方がないように思える。
優先順位が付けられていないから、全部詰め込んでしまって話しのメリハリがなく、結果テンポが悪いままだらだらと続く。
つまり、とても読みにくい。
...2012/06/10 02:21 AM
最後のとってつけた感が半端ないw
...2012/06/10 11:33 AM
読み物として面白いかってのと読んでて気分いいかってのとエロいかってのは全部別だしなw
管理人が「面白いからお勧めしよう」って思ったのと
俺らの「エロいからお勧めになったんだな」っていうお勧めの認識がちがかったんだろう
...2012/06/11 01:12 PM
つまんねーのオススメすんなks
管理人は俺らの為に黙々とまとめ作業だけしてりゃいいんだよ
...2012/06/11 09:16 PM
失望した
...2012/06/12 09:23 AM
ええんやで、よんでないけど
...2012/06/12 11:15 PM
伽夜?さんとの話がメインなら序盤いらないだろ。
余計な記述多過ぎて読めない。寝取られエピも中途半端なのが続いて印象薄い。ネトラレは一回に絞って、それが重い出来事になるようにすればいいのに。あほらし。
...2012/06/15 03:38 AM
駄文。読む価値なし。
...2012/06/16 08:19 PM
主人公とヒロインの口調が古臭くてキモい
エロくない
韓国とマスコミを叩きたいだけ

全体的に凄い不自然
...2013/01/03 12:38 PM
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