2011.11.04 Friday
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ひらひらと舞い散り地面を薄桃色に染めていくのは、
異常気象の所為か例年より幾分早く咲き誇った桜の花びら。
周りを見渡すと、まだ少し肌寒いのか、
身をすくめて苦笑いを浮かべあっている同級生たち。
3年間お世話になった高校の卒業式。
薄汚れたコンクリートの壁や体育館のすえた匂い。
それらに想いを馳せて目頭が熱くなる。
しかしやはり、僕のこの鼓動は、
そういった感傷とは別の想いに駆られて高鳴り続けている。
式のため、体育館へ向かって渡り廊下を歩く人込みの中に、
絹のような艶やかで、長い黒髪が風に揺れているのを視界に捉える。
この日本という国において、
その光景は別段変わったものでもなんでもない。
しかしその凛とした歩き姿に胸が締め付けられるのは、
なにも彼女に特別な感情を抱いている僕だけではあるまい。
道行く誰もが、彼女の内側から溢れる力強い美しさに気付き、心を奪われる。
その足取りは規律めいた厳格さを感じさせると同時に、
全てを包み込む慈愛をも周りに印象付ける。
僕は今日、彼女に告白する。