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ひらひらと舞い散り地面を薄桃色に染めていくのは、
異常気象の所為か例年より幾分早く咲き誇った桜の花びら。
周りを見渡すと、まだ少し肌寒いのか、
身をすくめて苦笑いを浮かべあっている同級生たち。
3年間お世話になった高校の卒業式。
薄汚れたコンクリートの壁や体育館のすえた匂い。
それらに想いを馳せて目頭が熱くなる。

しかしやはり、僕のこの鼓動は、
そういった感傷とは別の想いに駆られて高鳴り続けている。
式のため、体育館へ向かって渡り廊下を歩く人込みの中に、
絹のような艶やかで、長い黒髪が風に揺れているのを視界に捉える。
この日本という国において、
その光景は別段変わったものでもなんでもない。
しかしその凛とした歩き姿に胸が締め付けられるのは、
なにも彼女に特別な感情を抱いている僕だけではあるまい。
道行く誰もが、彼女の内側から溢れる力強い美しさに気付き、心を奪われる。
その足取りは規律めいた厳格さを感じさせると同時に、
全てを包み込む慈愛をも周りに印象付ける。

僕は今日、彼女に告白する。
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19:26 : 投稿作品 : comments (23) : trackbacks (0)


それから丁度一年が経ち、僕達は二回生へ進級し、
それに伴い二十歳になった。
特に何か変化があったわけでない。
文ちゃんは相変わらずピンと伸ばした背筋と涼しげな顔で歩き、
大学のキャンパスに華を彩どおっていたし、
芳樹君は大勢の友人に囲まれつつも、
奇特なことに僕のような地味な人間とも変わらず仲良くしてくれていた。
そんな二十歳の、すっかり秋めいたとある日の夜。
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19:25 : 投稿作品 : comments (1) : trackbacks (0)


一見普通のホテルにも見える、落ち着いた外装のラブホテルを安藤が選んだのは、
文にとっても、そして彼にとっても最良の選択だったといえる。
如何にもな、いかがわしい場所を選択されたら、
問答無用でその背中を、彼女は蹴り飛ばしていただろう。
「どの部屋にする?」
「どこでも良いから早くしろ」
「お〜怖っ」
「こんないかがわしい場所で、一秒でもお前と肩を並べていたくはない」
「古風だね」
安藤はそう笑いながら、落ち着いた雰囲気の一室を選択する。
初めての場所で、勝手がわからない文は、常に安藤の背後を追った。
それは自衛の意味合いもある。
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19:25 : 投稿作品 : comments (7) : trackbacks (0)


高度数千メートルで僕は夢を見る。
幼いころの自分が、公園で泣いている女の子と一緒にいる。
僕の膝はすりむけて血が出ている。
目が眩むほどの夕焼けの中、僕はその女の子の頭を撫でていた。
はて、そんな事があっただろうかと、
その光景を見下ろしながら不思議がっていると、
何か衝撃を感じて、僕の意識は現実へと引き戻される。
億劫に感じながら目を開けると、どうも乱気流に巻き込まれていたらしく、
まわりの乗客は少し落ち着かないようで、がやがやと騒がしかった。
とはいえもう機体の制御は取り戻したみたいで、
しきりにアテンダントや機長が、安心を強調するスピーチを繰り返していた。
まだ興奮冷めやらぬ機体のなか、
寝起きでぼんやりとした意識で、どこかそれを他人事のように眺める。
僕はコーヒーを頼んで、先ほどまで見ていた夢を思い出す。
なんの根拠もないが、あれは追憶体験だった気がする。
風景の空気感が、生々しいほどに懐かしかった。
しかし、よく思い出せない。
小さい頃から女友達なんて、文ちゃんしか居なかったから、
あの泣いている女の子は彼女だったのだろうか?
しかし、幼いころに、彼女が泣いている姿なんか記憶に無い。
ただ忘れてしまっただけだろうか。
そんな事を考えながら、欠伸を噛み殺し、
窓の外の真っ黒な風景に目をやった。
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19:24 : 投稿作品 : comments (2) : trackbacks (0)


すっかり夜も深まった時間。
二人の男女が、アパートの一室で密着して座っている。
後ろから女を抱きかかえて座る男の両手は、
それぞれ女の胸元と、股間に伸びていた。

片手が摘む乳首はすでに血液が集中して腫れ上がるように勃起し、
もう片方の手が弄る股間からは、
くちゅくちゅといやらしい水音が漏れていた。
何も珍しいことではない。
その二人が若い大学生で、お互い洗練された容姿を持っているとすれば、
どこにでもいるカップルにしか見えない。

ただ異質なのは、男に甘い吐息を出させられている、女の表情。
まるで麻酔無しで手術をしているかのような、苦悶の表情を浮かべている。
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19:24 : 投稿作品 : comments (261) : trackbacks (0)
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