2007.05.15 Tuesday
363 名前:名無しさん@ピンキー 投稿日:2007/05/12(土) 15:00:43 ID:5j68tuwl
晩春という事もあり、そろそろ夏の兆しがどこででも見られるようになった。市橋
和夫が住む街外れの長屋でも、気の早い金魚売などがやって来て、涼を先取り
せんとしているし、街ゆく人々の表情も軽やかである。ようやく敗戦の悲惨さも薄
れ始めた頃の事で、裕福とは言えないが、打ちひしがれていた日本人の心にも、
幾許かの余裕が出ていた。
今は路傍で果てる傷痍軍人もいなければ、浮浪児もめっきり見なくなっているし、
和夫の家のような母子家庭でも食い詰めるような事も無く、生活向上が図られて
いるという実感があった。和夫の母、裕美子は、町屋を一軒借りて、お花の師匠
をしており、三十四歳の若さですでに未亡人。夫はやくざ者で、闇市での利権を
かけた抗争に巻き込まれ、命を落としていた。
見れば唸るような美貌を備えている為、世話を申し出る輩も多かったが、それで
は夫に申し訳ないと断り、今は和夫と二人だけで暮らしている。決して楽な生活
ではないが、母子水入らずでいる事の方が重要だった。
「和夫、外の鉢に水をやっておくれ」
「うん」
母に頼まれ、和夫は如雨露を手にして表へ出た。今年は空梅雨だとの予想で、
鉢植えの花もどこか物憂げに見える。通っている中学でも、花壇が寂しいという
話題が出ていたのを、和夫は覚えている。
室内に戻ると、裕美子が着替えている所だった。六畳の和室が二間、続きであ
るだけの長屋ゆえ個室という概念はなく、この母はよくこうやって息子の目も憚
らず、着ている物を脱いでしまう。職業柄、和装が多いのだが、この時期、自宅
にいる時は決まって襦袢ひとつだった。陶器のような滑らかな肌に、痩せ型なが
らしっかりと出た二つの乳房が眩い。腰は嘘のように細く、すらりと長い足も格好
良い事、この上ない。和夫はそんな裕美子を見ていつも卑しい気持ちを持つ。
晩春という事もあり、そろそろ夏の兆しがどこででも見られるようになった。市橋
和夫が住む街外れの長屋でも、気の早い金魚売などがやって来て、涼を先取り
せんとしているし、街ゆく人々の表情も軽やかである。ようやく敗戦の悲惨さも薄
れ始めた頃の事で、裕福とは言えないが、打ちひしがれていた日本人の心にも、
幾許かの余裕が出ていた。
今は路傍で果てる傷痍軍人もいなければ、浮浪児もめっきり見なくなっているし、
和夫の家のような母子家庭でも食い詰めるような事も無く、生活向上が図られて
いるという実感があった。和夫の母、裕美子は、町屋を一軒借りて、お花の師匠
をしており、三十四歳の若さですでに未亡人。夫はやくざ者で、闇市での利権を
かけた抗争に巻き込まれ、命を落としていた。
見れば唸るような美貌を備えている為、世話を申し出る輩も多かったが、それで
は夫に申し訳ないと断り、今は和夫と二人だけで暮らしている。決して楽な生活
ではないが、母子水入らずでいる事の方が重要だった。
「和夫、外の鉢に水をやっておくれ」
「うん」
母に頼まれ、和夫は如雨露を手にして表へ出た。今年は空梅雨だとの予想で、
鉢植えの花もどこか物憂げに見える。通っている中学でも、花壇が寂しいという
話題が出ていたのを、和夫は覚えている。
室内に戻ると、裕美子が着替えている所だった。六畳の和室が二間、続きであ
るだけの長屋ゆえ個室という概念はなく、この母はよくこうやって息子の目も憚
らず、着ている物を脱いでしまう。職業柄、和装が多いのだが、この時期、自宅
にいる時は決まって襦袢ひとつだった。陶器のような滑らかな肌に、痩せ型なが
らしっかりと出た二つの乳房が眩い。腰は嘘のように細く、すらりと長い足も格好
良い事、この上ない。和夫はそんな裕美子を見ていつも卑しい気持ちを持つ。