高度数千メートルで僕は夢を見る。
幼いころの自分が、公園で泣いている女の子と一緒にいる。
僕の膝はすりむけて血が出ている。
目が眩むほどの夕焼けの中、僕はその女の子の頭を撫でていた。
はて、そんな事があっただろうかと、
その光景を見下ろしながら不思議がっていると、
何か衝撃を感じて、僕の意識は現実へと引き戻される。
億劫に感じながら目を開けると、どうも乱気流に巻き込まれていたらしく、
まわりの乗客は少し落ち着かないようで、がやがやと騒がしかった。
とはいえもう機体の制御は取り戻したみたいで、
しきりにアテンダントや機長が、安心を強調するスピーチを繰り返していた。
まだ興奮冷めやらぬ機体のなか、
寝起きでぼんやりとした意識で、どこかそれを他人事のように眺める。
僕はコーヒーを頼んで、先ほどまで見ていた夢を思い出す。
なんの根拠もないが、あれは追憶体験だった気がする。
風景の空気感が、生々しいほどに懐かしかった。
しかし、よく思い出せない。
小さい頃から女友達なんて、文ちゃんしか居なかったから、
あの泣いている女の子は彼女だったのだろうか?
しかし、幼いころに、彼女が泣いている姿なんか記憶に無い。
ただ忘れてしまっただけだろうか。
そんな事を考えながら、欠伸を噛み殺し、
窓の外の真っ黒な風景に目をやった。