2013.10.25 Friday
〜14.堕天使(前編)〜
どこまでも眩しく濃い青の色は、光沢のある地上のビルの白い壁までも青く輝かせる。
そんな秋晴れの清々しい昼間の太陽が夜になって沈むのと同時に、一変して辺りは強い風が吹き荒び始めた。
彼の部屋の窓がガタガタと揺れ、風切り音が不気味に響く。
荒れ狂う風の猛威に誰もが家に閉じ籠っていた頃、部屋の中で彼に組み伏せられていた彼女の心も同じように荒れていた。
部屋に着いてからあっという間に潰れた瞳。居酒屋であれだけ飲まされれば仕方のない事だった。
全身の力が抜けた彼女の身体はベッドまで運ばれ、服を脱がされ、そして凌辱された。
きついブラジャーから豊満な乳房が飛び出した瞬間に完全に勃起したペニス、そこにコンドームを被せ、ローションを塗すと、まだ潤いの十分ではない彼女のヴァギナにゆっくりと推し入れていく。
久し振りに見る瞳の裸は、やはりどこまでも美しく、卑猥だった。
俺らしくもないな、ちょっと卑怯か・・・
いや、でも俺の部屋についてきたのは瞳ちゃんの意思だったし、以前に似たような経験してる事になっているのに・・・そのうえでの宅飲みに嫌がらずついてきたんだから、まあ彼女もある程度は期待はしていたんだろう・・・・て事で、ギリセーフだな
しかし、寝ていてもこの締め付けって、凄えわ、やっぱり・・・
淫靡な水音をまき散らす白濁し始めた愛液が二人の陰毛をべっとりと濡らした頃、瞳が背筋を弓なりに反らせながら虚ろに目を開けた。
酔いの回ったとろんとした表情の目が現実を把握しようと泳ぎ出した時、悲鳴とともに最初のアクメが彼女を襲う。
岬の腕を掴みながら身体を痙攣させた後、両手で胸板を押しのけるようにしながら彼女は何度も言った。
「酷い・・・やめて・・・酷い」
大きな目からは大粒の涙が溢れだし、こめかみを伝う。
瞳は泣きながらしっかりと岬を見つめ、何度も懇願した。が、そんな表情は岬の征服欲を一層掻き立てるのみ。
彼は腰と腰が完全に密着するほど深々と挿し入れ、1カ月ぶりに彼女の子宮口が雄の侵入を許した。
巨大な亀頭がグニュッと奥を貫いた瞬間、彼の胸を押していた彼女の両腕から力が抜け、再び弓なりに背中を反らせて顎を天高く突きあげる。
ビンビンに張りつめた乳首を岬の眼前に突き出し、彼が勃起したピンク色のそれを強く吸引した瞬間、二度目のアクメで瞳はガクガクと痙攣を始めた。
やっぱ最高・・・相性バッチリじゃん、俺達って
週末の夜はまだ始まったばかり。
窓を叩く烈風に収まる気配はなく、その音は中にいる彼女の絶望感を増幅させ、一方で彼の心をより攻撃的にしていった。
「ねえ葉月、瞳から連絡あった?」
「ないよ」
「和希君は?」
「いや・・・ないですけど」
「・・・ったく、あの子ったら連絡もなしにどこ遊び回ってるんだか」
宮條家の食卓に晩御飯を並べながら、ぶつぶつ呟く瞳の母。
「たまにはいいじゃん、放っておきなよ」
葉月に窘められ溜息をつく母を横目に、瞳に何度目かの連絡を入れる和希。
しかし、やはり呼び出し音が数回の後、すぐに留守電に変わる。
瞳にしてはめずらしいよな・・・
ご飯食べたら、ちょっとその辺探しに行ってみるか
「和希君、ひょっとしてお姉ちゃんの事、心配してる?」
心を見透かされた和希は、眼をまん丸くして葉月の顔を見た。
「ははは、大丈夫だって。麻衣さんとかと飲みに行ってんじゃないの?お母さんも和希君も心配し過ぎたよ。お姉ちゃん可愛そう〜。放っておいてあげなよ、たまにはさ」
「まあ葉月だったら全然心配じゃないんだけどね」
「何よ、それ」
母に言われて頬を膨らませる葉月を見て思わず表情を緩める和希。
「葉月、そういえば最近彼氏家に連れてこないわね。たまには連れておいでよ。そうそう、明後日の日曜日、お母さん家にいるからさ、連れておいで」
「え〜、試験近いしさ〜・・・どうしよっかな〜」
こっそり和希の方を向いて恥ずかしそうに舌を出しながら「彼が昼間たまに来てる事、お母さんには内緒ね」と耳打ちする葉月。
葉月の柔らかい髪の毛先が和希の頬を撫で、何とも言えない女の子の甘い匂いに包まれた瞬間、葉月と彼氏の逢瀬が脳裏を過る。
母とのやり取りを見ていると、本当に幼くて愛らしい、可愛い妹にしか見えないのに・・・
大人顔負けのセックス・・・ガンガンしてるんだよな・・・
瞳と初めて結ばれたのって、瞳が高二の時だから同じくらいなんだけど、今思うと凄く拙いセックスだったような気がする
葉月ちゃん、結構テクニシャン?っていうか、初体験って、いつだろう・・・
「どうしたの和希君、私の顔、なんかついてる?」
身体が硬直した。
「い、いや、別に・・・」
テーブルの下で勃起している股間が気になって仕方がなかった。
俺、やっぱ変態だな・・・
まじでいい加減にしないと、まずいよ今の状況って・・・・・
和希は俯きつつ、無言のまま箸を進めた。
ようやく風が収まってきたのは9時を回った頃。
サイドに置かれたライトがオレンジ色の光を放つ中、ベッドの上でパンツ一枚だけで女の子座りをしていた瞳は、器用に背中に腕をまわしてブラを付けた後、思い出したように携帯でメールを打っていた。
全裸のまま近くのソファーに座る岬がそんな瞳を見つめていた。
柔らかな光が彼女の起伏に富んだ身体の陰影を強調し、日中から3度も射精している彼の股間をゆっくりと起立させ始める。
乱れた髪をそのままに、虚ろな表情でメールを打つ彼女。
8時過ぎから約1時間の間、只管岬に抱かれ、数え切れないほどイかされた瞳は、酔っていたとは言え、2度目にも関わらず拒みきれなかった自分に対して死にたくなるほど自己嫌悪していた。
その表情は冷め、抜け殻のように無表情。
ただ、メールを打ち始めるとほんの少しだけ表情に変化を見せる彼女に、岬は後ろから優しく抱きついた。
彼が両手を肩越しに巻きつかせた時、彼女は携帯のスイッチを切った。
「誰にメールしてたの?」
「・・・・・」
「彼氏?」
「・・・・・貴方には、関係ない・・・・」
岬が彼女のうなじに唇を這わせようとも、微動だにしない瞳。岬はそのまま乱暴に瞳を押し倒した。
泣き腫らした目を横に背けたまま、されるがままベッドに倒された彼女には、もう抵抗する力は残っていなかった。
着けたばかりの下着を再びはぎ取られ、優しさの中にも激しさを散りばめた絶妙な舌技で身体中を攻められ、どんなに我慢しようとも声が漏れてしまう。
心では彼の愛撫を拒否、無関心を決め込もうとしても、無理矢理出さされてしまう嬌声に、瞳自身が驚き、呆れ、そして納得してしまう。それほどまでに彼の技術は卓越し、抵抗を試みようとする彼女の強い意志を一瞬にして諦めさせる。
気が付くと舌だけでイかされ、それに満足したような彼の顔が迫ってくる。
瞳はやはり頑なに顔を左右に傾けながら岬のキスを拒み続けた。たとえ強引に口づけされようと、唇を固く閉じ、彼の侵入を絶対に許さなかった。
岬はキスを諦め、自らペニスにゴムを被せ始めた時、それを一瞥した瞳はその日始めて見る一カ月ぶりの彼の巨大な分身に動揺した。
またあれで・・・されるんだ・・・・
そう思った瞳の気持ちを裏切るように再び胸への愛撫を再開する岬。胸と脇腹、太股ばかり何度も舌を這わせて愛撫を繰り返す岬に、次第に焦れを感じ始めていた。
何がしたいの、この人・・・
もう、離してほしい・・・離して・・・
なんか、おかしくなるんだよ、私の身体・・・・
貴方にこうされると・・・・嫌なの
思い出したくない・・・
だから、離して・・・・お願い・・・もう、許して・・・
「入れるよ」
彼が言ったこの一言、私は確かにこの一言を聞いて自分が安堵してしまったのを自覚した
お預けをくらっていた身体が解放される事に、喜びを感じてしまったのを自覚した
涙なんか、出ない
枯れてしまったから?・・・・・違う、そんな綺麗ごとなんかじゃない・・・・
彼女の狭い膣の中を強引に掻き分けるように侵入してくる彼のペニスとの摩擦感に、思わず大きな声をあげてしまった。
そのまま子宮口を通り抜け、更にその奥まで亀頭が届いた時、瞳はシーツを硬く握りしめたまま、潮を盛大に漏らし始めた。
ガクガクと震える彼女を上から見つめ、虚ろな表情で漂う彼女にキスをしようとしたが、唇が触れた瞬間、やはり横を向いて拒絶する瞳。
とことん抵抗するんだな・・・
ふっ・・・まあいいか・・・
岬は瞳の細い腰を指が埋まるほど強く両脇から掴むと、容赦ないピストン運動を彼女の股間に叩きつけ始めた。
彼が只管攻め続けるだけの一方的なセックスは、その後深夜まで続いた。
抱いている間、殆ど会話を交わす事がなかった二人。いや、正確には岬の問いかけを瞳は全て無視していたし、まともなキスは結局一度も許さなかった。
玄関で靴を履く瞳の後ろからもう一度抱きつく岬に対して、この日初めて瞳の方から話しかけた。
「岬さん・・・これって、強姦ですよね」
「・・・・・」
「このまま私、警察に行くって言ったら、どうします?」
「行きたければ行けばいいさ・・・俺にとってはどうでもいいよ、そんな事」
「・・・・・」
「瞳の傍に居られれば、それで十分だ、俺は」
「・・・・・」
「俺さ、瞳の彼氏が許せないんだけど」
「・・・・・」
「瞳の友人に手を出すってさ・・・最低の最低だろ」
「それは・・・その話はいいですから」
「よくないよ」
「あの、お願いだから私達の事に首を突っ込まないで・・・」
瞳の強い口調にたじろぎもせずに岬は言った。
「俺はお前の事を今でも愛してる。お前の力になりたいと思っている」
岬は瞳の肩を持ち、こちらを向かせ、それでも尚顔を背ける彼女に言った。
「2番目でもいい、なんてもう言わないから、俺。全力でお前を奪いに行くから」
そう言い終える前に瞳は出て行ってしまった。
肌寒さを感じる事が出来ないほど瞳は高揚していた。
とことんイかされてしまった彼女の身体は熱く、火照ったまま。
1ヶ月ぶりに女として身体の隅々まで快感のアドレナリンを行き渡らせ、意識が飛ぶ程に深く激しく何度も絶頂を味わった身体は、そう簡単には元に戻らなかった。
子宮の奥に感じる鈍い痛み。それは決して不快なものではない。
その痛みが意識が飛ぶ程の快感と表裏一体である事を、彼女は岬によって身体に覚えさせられていた。
岬さんと二人きりになったって、どうって事ないと思っていた
だけど・・・無理矢理なはずなのに・・・私は・・・・・
私は途中から抵抗することを諦めていたのかもしれない・・・
いくら酔っていたからって、本気を出せば彼を蹴飛ばして逃げる事くらい出来たかも・・・
なのに私は・・・・
瞳は自分の身体を憎んだ。
岬のよって女としての喜びを感じられるようになった自分の身体を呪った。
いや、女であることすら、呪った。
身体が熱い・・・岬に抱かれた後に残る、身体の芯から疼くこの感じ・・・
結局私は日陰の自分を忘れる事が出来ないのかな・・・
足を引きずるようにして彼女は線路沿いの道を自宅へと向かった。
「昨日はごめんなさい。飲みに行って遅くなっちゃった」
「お母さん心配するからさ、ちゃんと連絡しような」
「うん、本当にごめんなさい、先生・・・」
朝食を食べに自宅へ行った時、食卓にトーストを並べる瞳の姿を見てホッとした
昨夜は9時過ぎにメールが一回あったのみ。その後、床に入る1時になっても瞳はまだ家に戻っていなかったのは知っていたから
だからいつものように、瞳と家族がそこに居る風景に心から安堵した
・・・けど瞳、何となく元気が無い
友達と何かあったのかな・・・
まあ瞳だって色々あるだろう
兎に角、何事もなくて良かった
父と母は仕事、和希は部屋で勉強、葉月は友達と試験勉強の為に図書館に出かけ、食器を片づけた頃には家には瞳一人。
ソファーに座り、何の気なしにテレビを付けてみるが、目は開けているものの何も頭に入ってこない
やっぱり・・・私は何も変わっていない
また先生に嘘をついているし・・・
昨日、岬さんのあんな誘いに乗らなければ良かった
二人きりでも平気でいられるなんて、自分に強がっていただけ
あれは・・・強制なんかじゃない・・・岬さんに非は無い
全部、私が悪いんだ・・・
いつも通り、私の優柔不断な態度が・・・・全部悪いんだ・・・・
瞳は涙が溢れそうになると顔をペチペチと叩きながら勢い良く立ち上がった。
「よし!買物行ってこよう!家の中にいても仕方が無い!」
買物袋を掴むと、瞳はサンダルを履いてスーパーへ駆けていった。
「先生のお昼ごはん、ちょっと張り切ろうかな」
彼女は意識的に頭の中を愛する人の存在で満たそうとしていた。
ここは高校近くの区立図書館。
自習室では葉月と同じ高校の生徒が十数名、試験へ向けて皆教科書を開いていた。
窓側の隅の机で仲良く並んで勉強する葉月と彼氏も、図書館が開くと同時に入館、試験勉強に没頭していた・・・と言いたいところだが・・・
勉強を始めて僅か30分、隣に座る彼の左手が怪しげな動きを始める。
そわそわと落着かず、ポケットに手を入れては椅子の位置を確かめたり、そしてその度にミニを履いた葉月の太股に触れる。
集中力を削がれ始めた彼女は、ノートの端に彼に向けてメッセージを書いた。
「集中できないんだけど!」
それを見てすぐに横に殴り書く彼氏。
「葉月ちゃんが悪いんだよ」
「何言ってんの?」
「そんな短いスカート履くから!」
葉月はキッと隣の彼を睨んだ。
短いと言っても制服のスカートと同じ位なのに。
「勉強する気が無いなら帰ってもいいんだよ」
「あるよ」
「だったら大人しくしてよ!」
「あるから、お願いだから5分間だけ、お願い」
ポニーテールにした髪の毛をふわりと踊らせながら、もう一度彼の方に向けて睨みつける葉月に、両手を合わせてなにやら必死に懇願する彼氏。
葉月は溜息をつくと目の前の教科書に視線を落とし、ほぼ同時に彼氏も教科書を開いた。
しかし、彼は左手をそっと彼女の太股に乗せ、ゆっくりとさすり始める。
柔らかで、しかし適度な弾力のあるスベスベな葉月の太股の外側を手の甲で何度も撫でると、その掌を内股に滑り込ませた。
葉月はピクッ身体を反応させると、目を瞑って下を向いた。
彼の手が何度も膝から太腿の中間辺りを往復すると、頑なに閉じていた両脚が微かに開き始める。やや汗ばんだそこに手を入れ、揉み込むように肌の感触を味わう彼の下半身は、既に完全に勃起してしまっていた・・・
静かな図書館の中、テーブルの下で高校生のカップルがこのような「遊び」をしているなんて、誰も思わない。傍から見ても、二人とも目の前の教科書に没頭する仲の良いカップルにしか見えない。なのに・・・
彼氏の手は徐々に中心へ向けて撫で上がり、股関節のパンツとの境目の一番柔らかいところを人差し指でなぞり始める。
葉月は顔を伏せ、微かに両脚を震わせながら耐えていた。
その表情を隣で間近に見ていた彼氏は、彼女のその羞恥に塗れた横顔に衝動を抑える事が出来なかった。
パンツの脇から指を入れて、恥骨を覆うプニプニとした柔肌を撫でた後、薄い茂みをかき分けようとしたその瞬間、葉月が上から彼の手首を力いっぱい握った。
驚く彼の顔を下から睨みつける葉月。真っ赤な顔で蕩けきったその目は、これ以上すると容赦しない、と言わんばかりに相反して強く強く彼の事を睨んでいた。
彼は慌ててその手を引っ込めると、目の前の教科書に顔を伏せた。
葉月はチラリと彼の股間のテントを一瞥すると、無言で教科書に向かった。
ったく・・・エロじじいと一緒じゃん・・・
葉月は右手をテーブルの下に忍ばせ、彼の勃起したペニスの先を指で弾いた。
「痛っ!」
思わず声を上げて葉月の方を見る彼氏の事を完全に無視、周りの冷ややかな視線は彼一人に注がれた。
へへへ、ザマアミロ
彼女は一人ほくそ笑みながら、気分良く試験勉強に没頭し始めた。
「凄いね、今日のお昼ご飯」
目の前の食卓に広げられた数々のおかずに目を丸くする和希。
「昨日の罪滅ぼし・・・かな」
恥ずかしそうに答える瞳に、もう朝の暗さは無かった。
食卓で向かい合い、一緒にいただきますをして食べ始める二人。
「旨っ!」
そう言いながら瞳の作った料理を嬉しそうに口に運ぶ和希の顔を見る事は、瞳にとってもこの上なく幸せな瞬間だった。
こうして先生の顔を見ているだけで落着いた気持ちになれる
先生の傍にいるだけでこんなに安心できるんだから、本当に不思議
やっぱ私には先生が必要なんだ・・・・
先生も・・・・そうだよ、ね?・・・
私の事、必要としてくれているよね?
愛してくれているよね?・・・・・
私は先生に何でも与えてあげたいと思っているんだ・・・・・
先生に与え続ける事が私の幸せなんだよ
箸を持つ手をそのままに、食べ物に一切手を付けずに彼の顔を見つめる瞳。
その時、テーブルに置いた彼女の携帯からメール着信を知らせるアラームが聞こえた。
「今、○○駅にいるんだ。ここ、瞳ちゃんの家の最寄り駅だよね」
暖かで、時間が止まりそうなほどゆっくりとした時の流れが、一瞬にして壊されてしまった。
「ご、ごめん、ちょっと電話掛けてくるね」
そう言って慌てて席を立つ彼女の後姿を怪訝そうに和希は見つめていた。
玄関の外に出て岬に電話する瞳、コール1回で彼は出た。
「ああ、瞳ちゃん、メール見てくれた?」
「何をするつもりですか?」
「何をって、いきなりどうしたの?恐いよ、瞳ちゃん」
「私の家に来るつもりですか?」
「あ、いや最初はそう思ったけど・・・なんかお呼びじゃないって感じだね」
弱々しく答える和希。その自信なさげな声に、どこか懐かしさを感じてしまった。
「家なんて・・・」
「うん、分かった・・・じゃあちょっと駅まで出て来れない?」
「え?・・・そんなの、無理です」
「ちょっとだけでいいからさ」
自信家の岬さんの情けない声。昨夜は強引に私を抱いたくせに・・・
「瞳ちゃんの顔見たらすぐ帰るからさ・・・そんな怒らないでよ」
「怒ってなんか・・・いませんけど・・・」
電話を切ってからも釈然としない
私の方が悪い事をしたような気分になっているのは何故?
私、あの人には絶対に私達の世界に入ってきて欲しくないから・・・
何故いきなり・・・
でも・・・でも、少し意地悪だったかな、私・・・
瞳は家に入ると自分の食べ物に軽くラップをかけた。
「瞳、どっか行くの?」
「ごめん、先生、すぐ戻るから。食べたらそのままにしておいていいから」
そう言ってバッグを持つと駆け足で出て行ってしまった。
シーンと静まり返る宮條家。
「なんか慌ただしいな・・・」
そう呟くと、和希は一人寂しく食事を再開した。
駅前の小さな書店。
背の高いその男が店内を歩き回る度、女子中学生から40過ぎの大人の女までもが彼の姿を目で追ういつもの光景がそこにあった。
瞳も店内に入った瞬間に彼の存在に気が付き、ドアの手前で彼に電話を入れた。
「岬さん、今着きましたけど」
「まじで?本当に来てくれたんだ!」
さっきと打って変わってはしゃぐ岬の声を聞いて眉をひそめる瞳。
だから貴方のそういうところ、嫌なんだって・・・
「どこ?どこにいるの?ちょっとお茶しようよ」
「あの、岬さん、ここ私の地元だから」
「え?だから?」
「はっきり言って困るんです。知っている人もいるだろうし」
「俺は問題無いけど・・・てか、その方がいいんだけど」
「え?」
「言ったじゃん、昨日。俺、瞳ちゃんを奪うからって」
「・・・・・」
「じゃあさ、改札のところに居てよ」
「・・・・・」
強引さと気弱さを織り交ぜながら瞳の心を翻弄する和希。
全て彼の計画通りに事は運んでいた。
出来るだけ目立たないように改札口の壁に身を寄せて立っていた瞳のもとに岬が歩み寄る。
ひと際目立つ彼の容姿、馴染みのある駅で見る岬の姿は、普段より一層インパクトのあるものとして瞳の心に容赦なく入り込もうとする。
彼が近付いてくると、何故か一歩引いてしまう
ちょっと目立ち過ぎ
凄く居心地が悪い・・・・私の駅なのに・・・
「このまま電車乗ろうよ」
「え?」
「俺と一緒のところ、見られると嫌なんだろ?ほら、こっち」
彼に強引に一駅分のキップを渡され、有無を言わさず前を歩いていく岬の背中を縋るように見つめた。
「あ、ち、ちょっと、岬さん」
岬は改札を過ぎ、振り返ってまだ改札前にいる瞳に言った。
「お〜い、瞳ちゃん、早く!こっちだよ」
周りの視線が瞳に集中する。
彼女は顔を真っ赤にして小走りで改札を抜けた。
あまりにも強引で、次々と展開してゆくスピードに辛うじて付いていくだけの瞳は、しかし心のどこかで男に振り回され、それに文句を言いながらも従っている自分に驚いていた。
タイミングよく滑り込んできた電車に岬が乗る。白線のところで躊躇する瞳を無言で見つめる岬。ドアが閉まる寸前、彼女はそれに飛び乗ってしまった。
二人が降りた駅はひとつ隣の駅、つまり、岬の最寄り駅だった。
改札を出てそのまま何も言わずに部屋に向かう岬にたまらず声をかけた。
「岬さん・・・あの、どこに?」
「ん?今更?」
苦笑いしながら彼女の元に戻る彼は、優しく、しかしはっきりと言った。
「俺の部屋」
「な・・・」
「い〜や、絶対に連れて行く。例え強姦魔だと言われようが」
そう言って彼女をお姫様だっこしようとした。
「や、やめてください!」
「いや、やめない。うんと言うまでやめないよ、俺」
「おろして下さい、岬さん、やだ、おろして!」
「やだ」
「わ、分かりましたから!分かったから、お願い・・・おろして」
駅前の人波の二人を見つめるその視線に耐え切れなくなった瞳は、半分本気、半分嘘のつもりで、兎に角人の目から逃れたいが為にその一言を言った。
しかし満足そうに瞳を下ろした岬の次の行動は予想以上に早かった。
その場にいたタクシーのドアを手で開けると、瞳と一緒に乗り込んでしまったのだ。
「運ちゃんごめん、すぐそこだけど頼むわ」
車を降り、手を引かれて岬の部屋に入ると、玄関で強く瞳を抱き締めた岬。
あまりの急な状況の変化に頭がついていかない瞳は言葉も出ず、只管彼の身体を押しのけようとするのみ。
「愛してるんだ」
いきなり耳元で囁かれ、腕の力が一瞬抜けたその刹那、唇を奪われた。
「瞳の事を、愛してるんだ・・・俺、本気だから」
岬の部屋に連れ込まれ、そして彼に至近距離から見つめられると、瞳にはその端正なマスクを見つめる以外の選択肢を取ることはもう出来なかった。
わけが分かんない・・・
何故私は今ここにいるの?
何故岬さんに抱き締められてるの?
先生は?
お昼ごはんは?
混乱する瞳に追い打ちをかけるように岬は彼女の唇を吸い、舌を強引にねじ込むと、口中を縦横無尽に這いまわらせた。
女の平常心を奪い、思考を停止させる彼のキスは相変わらず。目を閉じる事もせず、焦点の合わないまま宙を泳ぐ瞳の眼差し。抵抗する両手に力が入らず、いつしか彼女は棒立ちになっていた。
長い、長いキスだった。
二人の顎からは涎が滴り、それを拭おうともせずに彼女の唇を貪る岬。
「愛してる、瞳。心からお前の事を、愛してる」
色々と考えなければならない事がある
理性で抑えなきゃならない事もある
そう、私には、守らなければならないものが・・・ある・・・
この世の中で、愛の言葉を口にしてくれるのは岬ただ一人。瞳がそうして欲しい一番の相手が絶対に言ってくれないその言葉を、この男から何度も言われ、恋愛に不慣れな彼女の心が溶かされていく。
鼻先が触れ合う距離で囁かれ、彼女はその言葉の意味をこの時始めて受け入れてしまった。
私・・・ダメな女・・・・
全部、何もかも、ダメな女・・・・・
瞳は岬の口づけを受けながら目尻から涙を流した。
葉月の高校では試験の10日前から部活が休みになる。
この日も学校は職員室以外はひっそりと静まり返っていた。ただ一つの部屋を除いては・・・
ニュルッ、ニュルッ、ヌチッ、ヌチッ、ヌチッ、ヌチッ、ニュルッ・・・・・
校舎の外から直接中に入ることが出来る水泳部の部室。薄暗いその中で、ロッカーに寄りかかりながら局部を曝け出している男がいた。
逆光で黒い影にしか見えないその男の股間からは、真上を向くほどいやらしく勃起したペニスの影も見える。
「もう、いきそうなの?」
か細い女の声とともに、硬く勃起したそれに再び細く長い指がまとわりつく。
彼女の唾液と亀頭の先から溢れる透明な液で濡れたペニスは、彼女の右手の摩擦によって卑猥な音を部屋中に響かせる。
五本の指を絡ませて、それぞれが意思を持って複雑に、かつ優しくカリ首に纏わりつくように扱くその様は、見ているだけで射精してしまいそう。それに加え、スナップを効かせたダイナミックな上下運動で、彼はもう目前に迫った射精を我慢することが出来なかった。
「で、出るっ!葉月ちゃん!」
彼女はその声を聞くと、人差し指と親指で輪っかを作った右手で根元を押さえ、左手で彼の睾丸を優しく撫でまわすと、亀頭を咥えて顔を激しく前後に振り始めた。
びゅっ!びゅっ!びゅっ!びゅっ!
いつ終わるとも分からない大量の精液を次々と嚥下していく葉月の股間は、やはり濡れていた。
崩れ落ちるようにそこにへたり込む彼氏の前で正座する葉月は、指に残る精液を舐めながら、恥ずかしそうに微笑んでいた。
「ごめん、俺ばっかり・・・」
「へへへ、いいよ別に・・・気持ち良かった?」
「死ぬかと思うくらい、良かった・・・」
「なら良かった。喜んでもらえると、私も凄く嬉しい、かも」
「え?・・・・・」
好きな相手が喜んでくれるなら何でもしてあげたい・・・それは彼女の偽らざる気持ちであり、女の本能だった。
中指をついばむように舐めながら、伏せ目がちに恥ずかしそうにチラチラと彼を見る葉月。
「は、葉月!」
勃起した股間を丸出しにしたまま彼女に抱きつく彼氏。
「あ・・・今私の事、呼び捨てにした・・・」
「ご、ごめん・・・つい」
弱り切った表情で謝る彼の顔を見つめ、チュッとキスをする。
「いいよ、呼び捨てでも。てか、呼び捨てで呼んでよ」
「ま、マジで?・・・・」
にっこり笑う葉月。
「てかさ、やっぱこれ、全然収まんないね」
人差し指と親指で、膨張したままの亀頭を軽く摘む。
「あの、いい?」
「・・・でも、アレ、ないでしょ?」
すると彼は無言で鞄からコンドームを出した。思わずプッと笑いあう二人。
彼ははやる気持ちを抑えながら、勃起したままのペニスにゴムを被せ、葉月にロッカーに手を付くよう促した。
プリーツの入ったミニスカートを捲り上げ、白いパンツを脱がした時、彼女が振り向いて彼に言った。
「あのね・・・最近、なんか・・・凄く、いいんだ」
「え?何が」
ゴム越しの亀頭を葉月のヴァギナに擦りながら、彼は耳だけを彼女に向けた。
「もう少しで・・・イク?みたいな・・・」
「う、嘘、マジで?」
微かに腰をくねらせながら恥ずかしそうに頷く葉月を見て、彼は極限まで勃起したペニスを一気に挿入した。
「イかせるから、俺、絶対葉月の事、イかせてみせるから」
「うん・・・・あんっ・・・あっ!そこっ・・・」
図書館にいた時のような、いつもの強気な葉月はもういない。
そこにいるのは男に征服される事を望むか弱い女の子の姿。
壁に手を着いてつま先立ちで背中をしならせ、突き出された丸いお尻を両手で鷲掴みにしながら彼は膣の中の襞のひとつひとつを味わうように腰を動かし始めた。目の前で揺れるポニーテールを見つめ、彼女の大人びたいやらしい嬌声を聞きながら、彼は益々ペニスが硬くなっていくのを感じた。
飛び散る愛液が床を濡らし、古いロッカーの扉は二人の激しい動きによって壊れそうな悲鳴を上げ始める。
性欲という欲望に塗れ、世界で一番大好きな相手と性器を嵌め合わせて本能のまま蕩けるような快感に身を任せる二人に、周りがどうなろうと関係なかった。
ただ只管、快感を高め合う為に身体中の粘膜を混じり合わせ、同時に果てる事を目指して、この高校生カップルは愛する人とのセックスに夢中になっていた。
ガッチャーン!
台所に響き渡る茶碗の割れた音。
洗い物をしていた和希の手元が狂ったのだ。
うわ・・・しまった・・・・俺のだからまだ良かったけど
慣れない事はするもんじゃないな・・・
ラップに包まれた瞳の食事を冷蔵庫にしまい、自分の皿を洗っていた和希は時計を見つめながらいつ帰るか分からない最愛の人の帰りを待っていた。
すぐ戻るって言ってたのに、もう1時間以上経ってるよ
どこ行ったのかな・・・・
こないだの夜もそうだけど、色々と友達関係大変なのかな
何となくだけど、出掛ける時の瞳、楽しそうでは無かった
どちらかというとちょっと思いつめてるというか・・・
最近、たまにだけど、ちょっと重い表情をする事があるような・・・・・
今度またデートに誘ってみようかな
洗い物を終え、割れた茶碗をゴミ箱に捨てる和希。
この茶碗も瞳に買ってもらった奴だ
会社のカップといい、割るのはいつも瞳に貰ったものばかり
ごめんな・・・瞳
部屋に戻る和希の後ろ姿はどこか寂しげだった・・・
「あっ!あっ!・・・い、イクッ!イクッ!イっくぅぅぅぅっ・・・・・」
背後から突きまくられ、女は顔をシーツに押し付けたまま4度目のアクメを迎えていた。
抜群のプロポーションを誇る彼女の長い脚が小刻みに震え、うつ伏せで尻だけを高く掲げているその姿は岬の興奮を異様なまでに掻き立てた。
やべえ・・・出ちまいそうだ・・・
岬は瞳の背中で腰を振りながら困惑していた。
射精がいつものようにコントロールできない今の状況は、彼がこれまでに無い位に極度の興奮状態にある事を物語っていた。
背中を走る一本の窪み、その綺麗な背骨のラインに玉のような汗が流れるのを見つめながら射精へ向けてラストスパートをかける岬。
「瞳!瞳!いくぞ!出すぞ!」
「あんっ!あんっ!あっ!あっ!あっ!あっ!ああっ!ああっ!ああっっ!・・・・」
「出るっ!出る出る出る出るっ!」
岬の両手が掴む瞳の尻の肉がひしゃげ、その中心に根元まで挿さる太い肉棒が脈動を始めた。
ビュルルッ!ビュルルッ!ビュルルッ!と、ゴム越しにも関わらず、子宮内で射精されるその感覚を瞳は微かに感じていた。
そして、その感触で5度目のアクメを迎えたのだった。
長い射精が終わり、上半身を瞳の背中に預け、長い髪の毛に埋もれた彼女の唇を、髪の毛ごとディープキスする岬。
髪の毛のざらつきの中に、必死に絡めてくる彼女の舌を見つけると、彼は貪るようにキスに没頭した。
そんな彼の頭に愛しそうに下から腕を回してくる瞳。いつしかペニスはヴァギナから抜け、仰向けになった瞳ときつく抱き合う格好になっていた。
それは口づけ、という生易しいものではない。かぶりつくようにお互いが大きく口を開けて唾液交換するその姿は、ある種動物じみてもいた。
とめどなく溢れる唾液を瞳の口の中に流し込み、時には瞳から唾液の塊を舌に乗せて岬に渡したり。
汗と汗、唾液と唾液、涙と涙、そして精液と愛液・・・全てを溶け合わせ、一心同体となるような強烈なセックスは、この岬にとってもあまり経験の無い事だった。
瞳・・・こんな凄い女だっけ・・・・
彼は気だるい身体を起こし、大量の精液が溜まるピンク色のコンドームを外した。
「瞳・・・フェラ・・・」
精液塗れのペニスを彼女の顔の前に差し出すと、彼女はゆっくりと口を開け、それを含んだ。
深く口に含んだまま、中で舌を360度回させてこびり付いた精液を舐めとり、同時に喉の奥で亀頭を締め上げ、独特の快感を岬にもたらせようとしていた。
それでもまだ足らず、彼女は咥えたまま彼を押し倒すと、本格的なフェラチオを始めた。
口に入りきらない中頃から根元までの部分を丁寧に舐め上げ、彼女の愛液が滴る睾丸や、その下まで舌を這わせた。
彼女の施しは10分以上続き、彼の股間全体が完全に綺麗になると、彼女は仰向けにベッドに寝転んだ。
岬は彼女の傍らに密着して寄り添い、いつまでも彼女の髪の毛を優しく撫でていた。
1ヶ月ぶりだからかな・・・
俺とした事がだらしないわ、ったく・・・・
だけどこの女、抱いても抱いても飽きないっつうか、抱くほどに俺の方が嵌ってきている・・・のか・・・・・?
「ねえ岬さん・・・」
「え?ええっ?」
ふいに瞳に呼びかけられ、思わず声が上ずってしまった。
彼女は身体を起こすと、シーツで前を隠しながら彼の顔を見据えて言った。
「これで・・・終わりにしてください」
「終わり?・・・」
「はい、もうこれで全て終わり、です」
「な、なんで?なんでそうなるんだ?」
瞳はにっこり笑った。
その表情はどこか清々しさすら感じられるほど、明るく、屈託の無い子供のような笑顔だった。
「だって岬さん、私って、重いですよ?」
「関係ないよ、そんな事」
「違います・・・私って、一人じゃないんです・・・私にはあの人がいる・・・あの人と分ける事なんて、出来ないんです」
「いや、俺はあいつから瞳を奪うつもりだから」
「私に彼と別れろって?無理ですよ・・・岬さん、甘いわ〜」
おどけて見せる瞳、しかし彼女の目には涙が浮かんでいた。
「岬さんね、彼と私の縁って、そんなもんじゃないんですよ。なんて言うんだろう・・・私は彼が居なくなっちゃったら、多分死んじゃいます。彼も同じだと思います。これって、分かります?」
「分かるよ、そんな事、俺だっていつも命がけで恋愛してるつもりだし」
「命がけ、か・・・」
力無く微笑むと、俯いて一点を見つめたまま動かない瞳。
暫くの沈黙の後、岬が口を開いた。
「瞳さ、難しい事はどうでもいいんだよ」
「・・・・・」
「俺は瞳が好きだ。それじゃダメなのか?」
「・・・・・」
「愛してるんだよ、お前の事を。どうして分かってくれないんだよ・・・」
瞳は大きく溜息をつくと、涙を拭う素振りを見せた。
「岬さん、痛いところをついてくるよね、いつも・・・」
「痛いところ?」
「あの、ちょっとシャワー浴びてきていいですか?すぐ戻りますから」
岬の返答を待たずにそのまま浴室へ行ってしまった。
なんなんだ?
そんなに俺に諦めさせたいのか?
いや、だとしても、俺が振られるわけにはいかないんだよ
冗談じゃない・・・・
最初はセフレでいいかと思ったけど・・・
こうなったら、俺専用にしようかな
マジで別れさせてやろうか、こいつらは・・・・・
っていうかさ、そんなに好きなのかよ、あいつの事
5分ほどで戻ってきた瞳は身体にバスタオルを巻いたまま。
彼女はベッドの横の椅子に座ると、彼に対峙した。
「あのね岬さん、さっきの続きだけど」
「うん」
「本気なの?私の事」
「当たり前だよ」
「そっか・・・・でもね、変な言い方だけど、責任取れる?」
「責任?」
「そう。もしもだよ?もしも、私が彼と別れるような事になったら、私も彼も死んじゃうかもよ?」
彼と別れる・・・その言葉を自分で言っておきながら、架空の話としてもあまりに彼女には衝撃が大き過ぎた。今まで生きてきた中で、その言葉を考えた事すらなかった瞳にとって、少しでも現実味を帯びた今の状況で口にしたその言葉、それで彼女の頬を自然と涙が伝い始めた。
「責任・・・勿論取るよ。それだけの女だと俺は思っているから」
「・・・・・」
「愛した女に責任くらい取れなくて、男なんかやってられないだろ」
瞳は頬を伝う涙をそのままに、また少し茶化したようにして言った。
「岬さん、見た目も男前だけど、中身も男前だったんだね」
「当たり前じゃん」
ふっと笑う岬に心の中で呟いた。「だから困るんだよ」と。
瞳は立ち上がると、バスタオルを床に落とし、生まれたままの姿を彼の前に晒した。
そして涙を全て拭って彼に言った。
「・・・奪えるもんなら・・・奪ってみなよ」
岬は一瞬あっけにとられ、すぐ我に返るとこう返した。
「奪ってやるよ、お前の全部を」
彼も立ちあがり、そして彼女の身体を抱き締めた。
「お前の心も身体も、全て俺のものにしてやる」
瞳は何も言わず、されるがままに彼の口づけを受けた・・・・・
玄関のドアを開けて食堂に向かうと、脂の乗った焼き魚のいい匂いがした。
瞳と葉月と母が忙しなく動き回るキッチンが視界に入ると、和希はなんとも言えない暖かな気持ちに包まれた。
今までずっと見てきたこの光景。家族の暖かみに溢れるこの光景が、彼は何よりも好きだった。
一日の疲れが吹き飛ぶどころか、元気を貰えるくらいに、明るく前向きで賑やかな食卓。
「先生、今日ごめんね、お茶碗洗ってくれたんでしょ」
耳元でバツが悪そうに囁く瞳。でもどこか晴れ晴れとしたその表情を見て彼は安堵した。
昼食も食べずに出て行ったきりだったけど、別に心配するような事もなかったみたいだ
ここ数日、なんか様子がおかしかったけど、おかしいのは俺の方かもな・・・
昇段審査や試験が近づいてきて、情緒不安定てか?ははは・・・
瞳と葉月の掛け合いと、それを呆れたように諭す母の声。
笑い声の絶えない食卓は、家族のいない和希にとっては間違いなくかけがえの無い場所だった。
いつものように幸せの余韻に浸りつつ、後ろ髪を引かれる思いで部屋に戻った和希。
和希の携帯に差出人不明のメールが届いたのは、開いたままの問題集に取り掛かろうとしたその時だった。
「ブログ再開のお知らせ」
ドクンと一度、喉から飛び出そうな程の大きな鼓動。
待っていた、わけでは無い筈。
だが、その時の彼の胸の高鳴りは、正に待ち人来たる、の心境そのもの。
本当に、また始まるのか・・・
HにJの手中に落ちて欲しく無いと思う自分と、また激しく抱かれる事を期待する自分と、和希は裏腹な感情に戸惑いつつも、そのブログを開いたのだった。
まあ、単なる気分転換だよ・・・
LoveStory Of J&H
○月×日:晴れ
今晩わ。
一億二千万のファンの皆様、私は戻ってまいりました。
有言実行がモットーのJです。
イケメンかつ巨根の天下無敵の俺に不可能はない(笑)
冗談は置いといて、彼女と再開しましたよ。まあ、酒の力も少し借りたけどな。
だけど、いきなり日中に呼び出されてノコノコ俺の部屋に来る方がやる気満々と思われても仕方ないよね?と思って押し倒したんだけど、終わったら強姦で訴えるとか言われた時は実は超ビビった(笑)
それでも今日は二回目。 早いだろ(笑)
今日の彼女は凄かった。
落ちた、ってのとは違って、覚悟決めてからは俺の事を完全に排除しようとしてたな、あの目は。凄く睨むんだよ(笑)あんたなんか眼中にない、みたいな感じで。本来彼女は大人しくて控え目なんだけど、思いっきり攻撃的な顔してたよ。
とか言っても、セックスすれば身体はアンアンと正直に反応してたけどね(笑)
超美人のガン飛ばし顔って、妙にそそる。散々睨みつけておきながら、チ○ポ入れられたら段々顔が緩んでく様は、むっちゃ興奮したわ。
で、俺決めたの。こいつの事、大好きな彼氏から奪ってやるって。俺専用の女にするって。
取り敢えず、明日からまた毎日俺の部屋に来る事になったわ。ベタな方法だけど、何度もイク寸前でお預けして焦らしに焦らして約束させたんだ。もう、殆ど意識飛んでたみたいだけどな(笑)まあ言った事は守ってもらう、って言ったらこの世の終わりみたいな顔してたよ。チ○ポ嵌めてる時は至高の極み、みたいなエロ顔してたくせに(笑)
俺が本気になればこんなもん。
明日から彼女に分からせてやるんだよ、徹底的に。俺の方が不細工ダメダメ彼氏より相応しいってな。
あと写メは取れなかった。ごめんなさい(笑)明日からはバンバンアップしてくから楽しみにしてろや。
あ、このブログ、誰も見てなかったんだ(笑)
和希は溜息をつくと携帯を置いた。
何なんだろうな、この虚脱感は
こんな実話かどうかも分からないブログに感情移入しちゃってる俺って馬鹿かよ・・・
なんか、勉強する気失せちまった・・・
でもこのHって女の子、ちょっと脇が甘いって言うか、何だかんだ言ってJの事満更でもないんじゃないのか?
大人しいっぽい女の子みたいだけど、結構えげつないよな
彼氏、可哀想過ぎるわ・・・
瞳の爪の垢でも飲ませたいわ
・・・あ、瞳のイニシャルもHだ・・・
同じHでも天と地の差だよ、全く
和希は大きく伸びをすると、気を取り直して机に向かった。
Comments
こっちの時点で「乗り換えても可」モードを公式表明したのな瞳は。
だったら、もう、どう転んでも、和希のハッピーエンドは消えたか。
それならそれでいいんだけど…ちゃんとオチつくのかハラハラする…