2013.07.08 Monday
〜5.18年の歴史を脅かすもの(後編)〜
朝10時、コーヒーを入れて遅い朝食の準備をする。と言っても、パンを一枚かじるだけ。
昨晩の飲み会で散らかったままのテーブルを横目に一人トーストを焼き始める。
今日はバイトのある夕方までたっぷりと時間もあるし、昨夜は殆ど飲んでいないので体調も良い。
岬は携帯のメール画面を見ながら思いに耽る。
結局、瞳ちゃんからはメール来てないか・・・
まあその内何らかのリアクションはあるだろう。無ければ無いでこちらから動けばいいだけの話だし。
取り敢えず、お膳立ては揃ったから、後は短期決戦で行こうかな
・・・それにしても瞳ちゃん、完全に信じてたな、俺の言うこと。
背中のホクロなんて普段見えないところだし、その気になれば誰だって大なり小なりあるのに。そういうの信じるって、まあ、瞳ちゃんって、そういう子なんだろうな・・・・
・・・さてと、バイトまで暇だし、昨日の埋め合わせでもするか・・・部屋も片付けて欲しいし
岬は無表情にメールを送信、テーブルの横に転がっていた瞳が忘れていった大学の教科書やら学生証の入ったバッグをベッドの下に追いやった。
薄いカーテンからの木漏れ日で目を覚ます。
背中に体温を感じながらの目覚めも悪くない。心まで温かくなって、安心感もある。
付き合っている、という事実だけでこんなにも優しい気持ちになれるんだろうか。
後ろからしっかりと抱き締めてくれる彼の下腹部がお尻に当たってる。男の子の朝特有の生理現象だから仕方ないけれど、私は全然嫌な気がしない。寧ろ嬉しいくらい。
でも・・・本当は起きてるんだよね?私、わかるよ?
朝方まであんなに深く愛し合ったのに、まだ遠慮してるの?
まあ、そういうところが可愛かったりするから付き合うことにしたんだけどね
ちょっとお尻、押し付けてみようかな・・・
あ、ほら、反応してる。
ん・・・もう、また?
高梨は左手を麻衣のTシャツの中に忍び込ませ、豊かな乳房をゆっくりと揉み上げる。麻衣は身体をよじるようにしていたが、彼が触りやすいように腕を若干上げて、同時にお尻を彼の股間に押し付けた。
麻衣はTシャツとパンツ一枚、高梨はパンツ一枚だけの状態で、ベッドの中でもぞもぞと蠢く二人。
付き合い始めたばかりの恋人とイチャイチャするのは楽しい。入学以来彼女しか見えてなかった高梨にとっては、昨夜からの出来事が夢のようでもあった。
酔った麻衣が部屋に来た時、彼女は何も言わずに高梨に抱き付き、濃厚なキスをしてきた。酔って気分が高まってるのかな、としか考えていなかったが、性欲の塊の若い男にとっては、動機なんてその時はどうでも良かった。
ただ、心から愛する恋人が自分を求めて夜遅くに部屋まで来てくれた事に対して、素直に喜びを爆発させればよかった。
夢中で麻衣を抱いた。そして、抱かれた。
彼女とのセックスは、極限の快感がずっと続くような筆舌にし難い、まさに天国を彷徨うような感覚だった。彼女のフェラチオ、愛撫、セックス、全ての技術が今まで経験したどの女の子よりもずば抜けていたのだ。
結局朝まで4回も射精に導かれたのだが、その内2回は騎乗位、1回は測位で後ろから攻めていたはずなのに、窮屈な態勢にあるにも関わらず彼女の卑猥な腰振りで絞り取られてしまった。自分が主導権を握っての射精は1回のみ。
そんな超魅力的な彼女が朝起きたら隣で寝ているこの状況。まして、Tシャツが胸の下までずり上がり、小さなパンツからお尻の割れ目が覗いている状態を黙って見ていられるわけがない。
彼は彼女の胸をゆっくりと揉みほぐし、お尻の方から下着の中にそっと手を入れると、そこは昨夜からの情事が続いているかのように熱く潤みきっていた。
彼は無言で彼女をこちらに向かせて上に乗った。
目と鼻の先の彼女の目がゆっくりと開き、ニコッと微笑みかけてきた。乱れた髪の毛が、また彼の欲情を誘う。
「おはよ」
「おはよう・・・ひょっとして起こしちゃった?」
「ううん、ずっと前から起きてたよ」
「え?そうなんだ」
少し、呆れたように呟く高梨。
「当たり前よ。だってお尻に何かずっと当たってるんだもん」
そう言うと、麻衣は両手を高梨の首に回し、二人はそのままディープキスをした。
いきなり舌を絡めあう二人。恋人同士だからこそ許されるある意味卑猥なほど濃厚なキス。唾液の交じり合う音が密室に響き渡る。
1分も2分も舌を絡めた後、高梨は麻衣の目を見つめて言った。
「俺、麻衣ちゃんの事、大事にするから。絶対に絶対に、大事にするから」
麻衣は優しく微笑みながら頷いた。
Tシャツをたくしあげて、豊満な胸にむしゃぶりつく彼の頭を抱きしめながら、彼女がうっとりと目を瞑った時、枕元の携帯がメール着信を伝えた。
麻衣は躊躇しながらも「もしかして」との思いが頭をよぎった。
それは決して期待感ではなく、二人の甘甘な今の状況を引き裂く可能性すらあるという恐怖感の方だった。
が、それでも携帯を放ってはおけなかった。
「昨日はごめんな。俺バイト夕方からだから。それまでは部屋にいるから」
岬からのメールはその一文だけ。
暗い気持ちで携帯を閉じ、彼の方に視線を向けた。
両手で麻衣の乳房を揉みしだく彼の顔が、豊満な乳房の谷間の向こう側に見えた。彼はお腹の辺りを舌で愛撫していたが、自分も興奮してるからお腹が呼吸で上下してその度に彼の顔を押し付けたりしていた。お腹が大きく膨らんで彼の顔が埋もれそうになると、彼がお臍の中に舌を入れてくるのが分かった。
彼の愛撫は上手、だと思う、多分。
色々と触ってくれるし、どんなところだって舐めてくれる。
そう、比べる対象が悪すぎるだけ。
セックスだって昨日が始めてなんだから。うん、すぐに気持ちよくなれるはず。
昨日は色々試したけど・・・その、いい感じのところに・・・当たらなかったけど・・・大丈夫、すぐ上手くできるようになるよ、私達。
あの人と比べたら大抵の男の子は・・・いやいや、そういうの、やめよう。私何を考えているんだろう・・・
あ・・・パンツ、脱がすんだ・・・当たり前だよね・・・またセックスするんだもんね・・・でも、でも、そうしたら私、止められなくなっちゃうよ?いいの?・・・てか、いいよね、私達付き合ってるんだもん。
「ごめん、私、急用思い出しちゃった」
何を言ってるの?私・・・違うでしょ?
「帰らなきゃ、いけないの?」
「うん・・・ごめん」
ほら、高梨君、凄く寂しそうな顔してる・・・
高梨君への想い、これは本当だと思う。
でも岬先輩への想いは・・・
「ごめんね・・・シャワー借りるね」
「・・・・・・・」
麻衣は熱いシャワーに打たれながら自分を呪った。たった一行かそこらの短いメールだけで、こうも簡単に揺れ動く自分の心を呪った。
しかし、同時に全く別の事も考えていた。
一回自宅に戻ろうかな・・・やっぱやめよう。時間が勿体無い
途中で新しい下着買ってかなきゃ・・・
でも服も昨日と一緒だし、やっぱ帰ろうかな・・・
突然浴室のドアが開いた時、麻衣は思わず悲鳴を上げてしまった。
「ご、ごめん」
昨夜からつい先程まで肌を合わせていた恋人の、あまりに他人行儀な反応に思わずたじろぐ高梨。麻衣は高梨の部屋にいながら、完全に頭の中は岬で埋め尽くされていた為、高梨の強襲におかしな反応をしてしまったのだ。
一瞬の沈黙。
「ごめんなさい・・・ちょっと考え事してたから」
「いや、こっちこそごめん・・・あの、一緒に入っても、いい?」
「も、勿論」
高梨の股間は萎縮していた。
麻衣はそんな高梨の子供のようなペニスを見て、情けない思いと罪悪感で涙が溢れてくるのを感じ、それをシャワーで誤魔化すので精一杯だった。
私、本当に最低・・・・・
瞳はまだベッドの中にいた。
とっくに目は覚めていた。いや、正確には殆ど眠ることが出来なかった。
眩しい太陽の光を遮るカーテンを閉め切り、天井を見つめたまま、動く気すら起きなかった。
幸い、和希は父と静岡まで仕事で出かけ、夜遅くまで帰ってこない。妹も部活、母も仕事で、夕方まで瞳は一人だった。
携帯へのメールの送り主は岬だという事は分かっていたが、本文は読んでいない。
昨日の事が夢であってほしい、そう願っていた瞳は、そのメールを読むことで現実を認識せざるを得なくなる事を恐れていたのだ。
公園で一生分と思える程の涙を流した瞳の心は、もう未来に向かっていた。
和希との未来に。
私、弱いな・・・先生に打ち明けちゃいけないと思い始めている
打ち明けたら全てが終わる、だろう・・・仕方ないよね・・・私、それだけの事したんだもんね
でも、いいの?本当にそれで
私の存在抜きにして、先生にとっての幸せって、なんなんだろう
そこに私って、必要なのかな・・・
もし必要なら、やっぱり・・・
再びメール着信音。画面には岬の文字。今朝から二度目のメール。
やはり瞳はそのメールを開く事はせず、重い身体を引きずるようにして1階へ降りていった。
LINEでメールを打ち終え、瞳に送った一回目のメールがまだ既読になっていないのを確認すると、岬はそのまま携帯をソファーに放り投げた。
思わず深い溜息をついてしまった。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
無表情で答える岬。
それを聞いた女は再び彼の股間に顔を埋めていった。
全裸の岬はソファーに浅く腰掛けて、綺麗に整頓されたテーブルに大股開きで両脚を掛けていた。
そしてその間に正座する女もまた全裸。既に数十分間、口だけで彼に奉仕していた。
彼のペニスを舐め上げ、睾丸を転がし、唾液でベタベタのカリ首を人差し指と親指で作った不完全な輪っかでぬらぬらと扱く。そして言外で彼に四つん這いになるように促すと、彼の尻を両手で押し開き、肛門へ舌をねじ入れてかき回す。
「麻衣ちゃん、昨日あの後どこに行った?」
「・・・・・」
「高梨君のところだろ?」
一瞬、麻衣の動きが止まった。
「お前ら付き合ってる仲なんだから。怒らないから言えよ」
「う、ん・・・・」
「エッチは?」
「ん・・・・」
「じゃあなんでこんなに盛ってんだよ」
「・・・・・」
「満足させてもらえなかったのか?」
麻衣は肛門への愛撫を強くすることで意思表示した。
そのまま睾丸を口に含み、下から覗き込むように股の間をくぐり、睾丸からペニスへ一気に舐めあげていった。そして両手で握っても余裕で余る涎まみれのペニスを懸命に扱き、大口を開けて亀頭を含んだ。その圧倒的な存在感、暴力的なまでの硬さを誇る彼のペニスを見ているだけで、彼女は前後不覚になるほどに興奮してしまう。
床に仰向けに寝る麻衣の口をヴァギナに見立て、ゆっくりと腰を降り始める岬。その長大なペニスが彼女の喉を優しく圧迫する度に、麻衣は嗚咽とも嬌声とも言えない声を上げた。
岬は右手を伸ばして乱暴に麻衣のあそこを愛撫すると、既に熱く潤い、ジュブジュブと音を立てる程までになっていた。
「お前、さっきまでここに高梨のチンポ入れてたんだろ?」
「・・・・・」
「それなのにその後に俺に抱かれに来るって、酷くね?」
麻衣の口からペニスを引き抜くと、流れる涎が睾丸を伝って麻衣の胸元へ垂れ落ちた。
麻衣は涙目で岬の事を見つめていたが、それは喉を突かれた事によるものではなく、高梨の名前を出された事によるもの。
彼女の罪悪感と絶望感、そして期待感はピークに達しようとしていた。
岬は麻衣に自分の首に掴まるように言うと、そのままいとも簡単に抱き上げてしまった。
駅弁のスタイルになり、岬のペニスの先端が麻衣のクリトリスを撫でるように刺激する。
「麻衣、このまま、いいか?」
涙目でコクコクと頷く。
「コンドーム付けてないけど、いいのか?」
「大丈夫・・・だから」
次の瞬間、重力のまま、岬のペニスが麻衣の膣を貫いた。
一気に子宮口を押しつぶすように、奥まで貫いた。
「あぐっ!ひっ・・・はぁぁっ!ああああああっ!あああああああっ!」
隣に間違いなく聞こえる、殆ど叫び声に近い嬌声をあげる麻衣。
岬も支えてるのが辛いほどに、麻衣の腰がガクガクと痙攣し出し、二人の密着部分がジワーっと温かくなった。
盛大に潮を吹いた麻衣の視線は宙を舞い、フェラチオの名残か、涎も垂れていた。
「お前、入れただけでイったのかよ」
「ふぁ・・・あああ・・・」
そのままピストン運動に移行し、リズミカルに麻衣の身体を揺さぶる。
「あっ!あっ!あっ!あっ!・・・・あああっ!ああっ!あっ!あっ!」
その状態でもう一度いかせたあと、濡れたフローリングの上で正常位で繋がった。
既に麻衣の子宮口は岬の巨大な亀頭がくぐり抜け、更にその奥を何度も乱暴に叩いていた。
ここまで奥を貫くと、結構な割合でオリモノがペニスに付着してくる事があった。勿論、それは岬の側からするとあまり好ましくない事ではあるが、それが究極の快感を女に与える事を考慮すれば我慢する事は出来た。
しかし、麻衣の場合一切付着してこない。若さゆえ、なのかは分からないが。
「あっ!あっ!せ、先輩、イクッ・・・また、イクッ!イクゥゥゥゥッ!」
背中を弓なりに反らせ、頭を支点にブリッジを作る麻衣の身体。岬が全体重をかけようとも、そのブリッジは全く壊れない。
いき疲れなのか、グッタリした麻衣の顔の上でクチュクチュと唾を溜める岬に気付いて、彼女は口を丸く開けた。そこに大量の唾液を流し込まれると、虚ろな目で飲み干し、そしてまた口を開ける。それを何度も繰り返した後、岬は射精の為のピストンを始めた。それは相手の事を思うのではなく、自らの快感の為だけの動き。掘削機のように、下からズンズンと容赦なく腰を推し進める。
「あ、や・・・岬先輩!・・・つ、強いっ!あっ!あっ!あっ!」
乱暴な動きで、濡れた床の上で麻衣の身体は少しづつ上にずり上がって行った。
「麻衣、俺はお前とは付き合えない」
「あっ!あっ!わ、分かってるぅ・・・ああっ!あっ!あっ!あっ」
「だけど、お前の事、凄く大事に思っている」
麻衣はハッとして岬を見つめた。それはつい2時間程前に高梨にも言われた言葉。
「お前は、俺の事、好きでいてくれるか?」
コクコクと頷く麻衣の目にはまた涙が溢れていた。
「嬉しいよ・・・いくぞ・・・」
麻衣は無意識に両脚を岬の腰に巻きつけてロックした。
「お前の中に、高梨が届かないお前の奥の奥に、出してやる」
「きて・・・きて!」
射精の瞬間、麻衣は岬にキスをした。岬は舌を歯茎の裏まで侵入させ、彼女の口中を陵辱し、唾液を止めど無く流し込む。それに応えるように唾液を飲み込み、舌を必死に絡めようとする麻衣。二人は密着した唇の隙間から涎を溢れさせ、密着した股間からは白濁した液と透明な液を溢れさせていた。
麻衣は高校の時に2度だけ膣内射精を受け入れた事がある。当時の大好きな彼氏に懇願され、安全日に避妊しないセックスをしたのだ。
中で出された感触は残念ながら感じられなかったが、気持ちが強く結びついたような、何とも言えない幸福感に包まれた記憶がある。
しかし、明らかにその時とは違った。違い過ぎた。
こんなの・・・ダメ・・・全然違う・・・
私の身体、おかしくなる・・・先輩じゃないと、ダメになっちゃう・・・・・
射精した後も強く抱き合いながら、腰を軽く痙攣させている麻衣に言った。
「お前を壊すまで、今日は抱くからな」
うっとりと頷くと麻衣は思わず口にした。
「好き・・・愛してる」
気が付くと、高梨にも言っていない5文字を言っていた。
こめかみかを伝う溢れる涙、この涙の意味は、彼女にも分からなかった。
遅い朝食を取った瞳。パジャマのままで食卓に座ったことなど、今まで一度も無かったのに。
考えが纏まらないまま再び2階へ上がり、ベッドに腰掛ける。ふと携帯に目が行き、それを持って考えを巡らせる。考えが纏まらないなりに、彼女には一定の方向性は見えていた。
やっぱり嘘はつけない。それは麻衣の信条でもあり、宮條家の人間として当然の結論だった。
ただ、その決断によって和希の人生が悪い方に変わってしまうのなら、と考えてしまう自分もいた。彼は彼女に言ったことがある。自分たちは一心同体だと。二人で一つだと。
彼女が彼を裏切ったということを彼が知ったなら、一体どうなってしまうのだろうか。
そもそも私は先生に相応しい女なのかな・・・
私が一方的に先生の事を好きになって今があるのかも・・・だとしたらとんだ慢心だ・・・
私なんか先生の足手まといでしかないのだろうか
邪念を振り払った。今は現実と向き合おう。
瞳は服に着替え、そして携帯を開いた。自分の気持ちの持って行き方は、自分で決める。そう決意した瞳は岬からのメールを開いた。その瞬間は鼓動が早くなってしまうのは仕方がない。
一通目、岬の部屋を飛び出して間もなくのメール。
「瞳ちゃん、さっきは驚かしてごめん。だけど俺の本心は全て伝えたつもり。俺は君を諦めたくない」
気分が重くなった。こんな事だろうとは想像していたが。
「瞳ちゃんのバッグ、預かっておくけど良い?月曜日大学に持っていこうか?」
忘れ物をしたのは気付いていた。でも教科書や学生証だから後でも良いと思っていた。
二通目、これは先ほど来たものだ。
「バッグの件だけど、やっぱり瞳ちゃんの自宅まで届けようと思うんだけど。ごめん、学生証の住所見ちゃった」
学生証の表には現住所が書いてある。トートバッグだから無造作に入れてあれば難なく学生証なんて見えてしまう。それにしても、自宅を知られたのは正直良い気がしなかった。
そして次の一文に麻衣は釘付けになった。
「その時に、ちゃんと瞳ちゃんのご両親に挨拶したい。瞳ちゃんの事だから、今の彼氏の事も紹介してるんだろうし。俺の本気度を見せたい。筋を通したい」
ちょっと待って。この人、何を言ってるの?私の両親にって、冗談じゃない
しかも「今の彼氏」ってどう言う意味?今も昔もこれからも、私は先生とずっとずっと一緒にいたいのに
私は慌てて電話した。メールなんかじゃダメ。直接言わないとこの人は分かってくれない。
岬の部屋では、あれからずっと男女の嬌声が聞こえていた。二度目の膣内射精を経て、既に1時間近く入れっ放しの状態が続き、さすがの岬も腰にだるさを覚えていた。
麻衣に至っては何度上り詰めたか分からない。艶かしく玉のような汗が全身を覆い、粘膜という粘膜を愛する男と摺り合わせ、既に冷静な判断が出来ない状況になっていた。
親指を第一関節までアナルに差し込みながらバックで突いている時、岬の携帯がなった。瞳の番号を登録した際に設定した着メロだったので、すぐにペニスを抜いて携帯を取った。
崩れ落ちる麻衣に、親からの電話である事を伝え、隣の部屋に篭って通話ボタンを押した。
「ありがとう、電話くれるとは思わなかったよ」
「あの・・・岬さん、困るんですけど」
「え?何が?」
「バッグは取りに行きますから。絶対にうちには来ないでください」
「絶対にって、そんなに強く拒否しなくたって・・・」
弱気な声を出す岬。瞳はいちいちこういう弱気なリアクションに胸がざわめいてしまう。
「あの、俺はちゃんとしたいだけなんだよ・・・分かってくれよ」
「自宅に来られると私が困るんです。岬さんこそ、分かってください」
強い意思が感じられる瞳の態度に次の言葉を考える岬。
「ごめんな・・・分かったよ。瞳ちゃんが困る顔、見たくないし。でも俺、悲しいわ・・・本当に悲しい・・・」
「あ、あの・・・」
どうやら大の大人が泣き言を言うことに対して彼女は母性を擽られる傾向があるようだった。その事に瞳本人は気がついてはいなかったのだが。
「兎に角、後で取りに行きますから」
「分かったよ・・・何時頃?途中まで迎えに行こうか?」
「いえ結構です。誰かに見られたくないので。夕方には行きますから」
電話を切ったあと、岬はフッと鼻で笑った。この会話で彼女が所謂ダメンズに弱い女である事に気がついたから。
「母性が強い女の子なんだな・・・最高じゃん」
彼は呟くと、すぐにバイト先に連絡を入れてシフトを変えてもらった。
さてと、今夜勝負だな・・・
意外と早く落ちるかも・・・
隣の部屋に戻ると、麻衣が小さなTシャツを着て女の子座りをして待っていた。
「電話大丈夫でした?」
さっきまで蕩けまくった表情をしていたのに、10分程の電話の間に麻衣は凛とした佇まいに戻っていた。
「ごめんね。てか、そのTシャツどしたの?」
「あ、いや、ここに来る途中に見つけて・・・」
彼女は頬を赤らめてアタフタとしていた。
「わざわざ買ってきたの?」
「だって・・・岬先輩、こういうの好きだから・・・」
麻衣が着ていた肌に密着したチビTは、大きな胸が窮屈に押し込まれてノーブラの乳首がくっきりと目立ち、お臍が見えるほどの丈しか無かった。
岬はニヤつきながら歩み寄ると、しゃがみこんで麻衣の耳元で囁いた。
「お前、マジで可愛い女だな」
真っ赤に俯く彼女の手を握る。
「あんだけイキまくってたのに、まだ足りないのか?」
黙ったまま、岬の手をギュッと握り返してきた。
「まだ壊れてないもんな・・・壊されたいんだろ?」
「だって・・・だって」
泣きそうになりながら岬を見つめる麻衣にキスをした。
ねっとりと舌を絡ませながら、右手を彼女のうなじから長い髪の中に優しく滑り込ませた。
麻衣は右手を恋人繋ぎにして、左手の中指で岬の肛門から睾丸、ペニスの先までをなぞると、完全勃起状態のそれを扱き始めた。
岬は彼女にソファに手をつかせて四つん這いにさせると、真っ白に泡立って潤む彼女の股間に人差し指と親指を突き立てる。人差し指は膣の中に、親指は彼女のアナルに。
親指が全部埋もれても、彼女は何も言わない。恐らく耐えているのだろう。
岬は左手で彼女の丸いお腹を撫で回し、人差し指を臍にねじ込むと、亀頭をアナルにゆっくりと押し当てていった。
涙目で振り向く麻衣に岬は言った。
「始めてだろ、ここ。俺がお前を壊してやるからさ」
ゆっくりと、しかし強く亀頭を肛門に挿し込んでいった。
夕方4時、瞳から岬に連絡が入った。
「これから行きますから」
「分かったよ。鍵開けとくね」
岬からのリメールは早かった。だけど、勝手に中に入って来い、みたいなその内容が不快だった。
瞳にはそんなつもりは毛頭なく、玄関先でバッグを受け取ったら一言伝えて早々に退散するつもりだったから。
玄関のドアの前に立つ。
昨日この部屋の中で、と考えると、また涙が出そうになる。
瞳は首をブンブンと振り、気を取り直してから呼び鈴を押した。
一回、二回、と押しても中から出てくる気配はない。
自分からドアを開ける気など無かった瞳が三回目の呼び鈴を鳴らそうとした時、携帯が鳴った。中にいる岬からだった。
「・・・・・はい」
「外にいるの、瞳ちゃんだよね?悪いけど中に入ってきてよ」
「嫌です」
岬が言い終わらない内に答える瞳。
「あ、いや、あの、俺、出られないんだよ・・・・・動けないんだ」
弱々しい声に少し躊躇してしまう。さっきまでの固い決意がほんの少しだけ、ぐらついてしまう。
「どうしたんですか・・・」
「ごめん、体調最悪・・・ははは・・・」
瞳は溜息をつきながらドアを開ける。
すぐに無造作に脱ぎ捨てられた大きなスニーカーが目についた。
背の高い岬は足のサイズも相応で、これまで和希の25センチ程の靴しか見た事がなかった瞳は少し違和感を感じた。
当たりを見回してもバッグは見当たらない。
すると奥から微かに岬の声が聞こえた。
「瞳ちゃん、上がって」
ここまで来て手ぶらで帰るわけにもいかない。現実問題としてバッグが中にあるのだから。ドアを自分で開けた時点である程度の覚悟は出来ていたし、こんな事でたじろぐ程子供でもない。
瞳は自分に言い聞かせるようにしてドアを閉めた。
岬のスニーカーの隣に自分の脱いだ靴を揃えると、恐る恐る中へ入っていった。
綺麗に片付けられたリビング。エアコンに加え、少しだけ開いた窓からは爽やかな空気が入り込み、とても具合の悪い人間がいるような部屋には思えなかった。
つい一時間前まで、アナルセックスする程に乱れた男女の交わりを連想させるものなど、何一つなかったのである。
リビングと部屋続きになっている六畳の寝室のベッドの中に、上半身を起こした岬がいた。
普通の関係の二人なら、気の利いた言葉の一つでもかける場面だが、この二人の間にそんな信頼関係は成り立っていない。
「バッグどこですか?」
「あ、ごめん、今出すから・・・・あ、ううっ・・・」
ベッドから出ようとしてふらつく岬を見て、思わず声を掛けてしまった。
「大丈夫、ですか?」
「はははは、あんま、大丈夫くない、かな」
「どこか具合悪いんですか?」
「いや、単なる過労だと思うよ・・・・心配してくれてるの?」
弱々しく笑う岬を見ていると、何故だか身につまされる。関係ないのに。
岬は俯きながら呟いた。
「俺最悪・・・・・せっかく瞳ちゃんが来てくれるってのに、なんでこうなるかな」
不健康に顔を歪ませ、若干猫背になって弱々しく作り笑いをする岬。背筋を伸ばし、堂々を街を歩く普段の彼の姿はそこにはなかった。
「ただ単に忘れ物取りに来ただけですから」
そう返す瞳の表情もどこか後ろめたそう。
てか俺の三文芝居、瞳ちゃん信じてくれてるみたいだな・・・なんか罪悪感感じてくれちゃってない?本当にいい子だな
まあ、確かに俺も体調は万全ではない。確かに過労気味だよ。
でも過労なのは、言葉変えると「やりすぎ」なだけなんだけどね
麻衣のアナルに結局2回も出しちゃったしな・・・あいつ、超痛いはずなのに何も言わねえから、つい調子に乗っちゃった
あいつのアナル、真っ赤に晴れ上がってちょっと可哀想な気もしたけど
その内気持ちよくしてやるけどな・・・
・・・あれ、瞳ちゃん、どこ行くの?バッグ、いいの?え?コンビニ?すぐそこにあるけど?
瞳は近所のコンビニからインスタントのお粥と簡単な惣菜を買ってきた。
「あ、瞳ちゃん、それ俺に?」
「まあ、はい。食べてないんですよね?」
「うん・・・マジ嬉しいわ」
「ただのインスタントだし」
慌てて視線を外し、台所に向かった。
「電子レンジ借りますよ。お茶碗は?」
お粥を食べている間、瞳は明後日の方向に視線を向けながら床に座って待っていた。荷物を貰ってすぐ帰っても良かったのだが、一言岬に言わなければいけない事があったから。
「ごちそうさま。実はお腹減ってたんだ」
顔を綻ばす岬から思わず目を逸らしてしまった。
イケメンの男のこんな何気ない表情が、男慣れしていない女の心に簡単に足跡を残そうとする。
私、この人に抱かれたんだよね・・・・
いやいや、本当にそんな事、どうでもいいから。と言うか、私そもそも記憶にないし。
「岬さん、食べたばかりでアレなんですけど・・・」
「ん?何?」
だから、いちいちそういう表情しないでよ。貴方のその目、妙に表情豊かっていうか、なんか癪に障る・・・男のくせに大きな目をしてさ・・・
「あの、昨日の事なんだけど・・・」
「うん」
「全部忘れてくれませんか?無かった事にしてほしいんですけど」
「え?・・・・・」
一瞬で岬の顔が曇る。病人だけど、言わなきゃいけないことは言わなきゃ、だし。
・・・またそんな表情をする・・・いや、私、何言ってんだろ・・・笑ってもダメ、悲しい顔もダメ、って、だったらどんな顔していいか分かんないかな・・・
て、私が心配することじゃないか・・・
そうだ、岬さんの目を見なけりゃいいんだ。微妙に視線を逸らしてればいいんだ
「瞳ちゃん・・・」
「なんですか?」
「どうしてそんな冷たい事言うの?」
岬は悲しみにまみれた表情で、少し睨むように瞳を見つめた。でも瞳は視線をやや下に落としたまま。
「私、あんな風に言われても全然覚えていないし・・・私には命よりも大切な人がいる。貴方とお付き合いとか、そんな事考えたこともないし、考えられない」
「でも思ってもいないことは口から出ないでしょ、普通」
「実際思ってません、何も。酔っていたとは言え、自分でもどうしてそんな事を言ったのか分からないけど」
「・・・・・」
「・・・・・」
沈黙が流れた。
その間ずっと岬の胸元を見つめていた瞳には、このほんの数分間がやたらと長く感じた。
先に口を開いた岬は、低く、落ち着いた声ではっきりと言った。
「君は酔ってて分からないから、で済まそうとするけど、俺の気持ちはどうなるんだ?大好きな女の子に告って、抱きしめて、彼氏になるチャンスがあるとか言われて・・・・・
俺がそんなに悪いことをしたのか?」
瞳は耐えた。自分が悪いのは分かっている。結果的に二人の男を弄んだ事になるのかもしれない。
だからといって、今この現状を良しとしていいはずがない。
瞳は何も喋らず、ただ只管耐えた。
すると、涙が一粒落ちてくるのが見えた。
驚いて彼の顔を見てしまった。
彼は泣いていた。
声も出さず、表情も変えずに、ただ涙を溢れさせていた。
瞳は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
私、本当にひどい事をしている・・・岬さんの言っていること、間違っていない
だけど・・・だからと言って・・・
私・・・
岬が何気なく呟いた言葉、それを瞳は聞いてしまった。
「瞳ちゃんまで俺を一人にするのか・・・」
彼女の思考を停止させ、ありとあらゆる感情が彼女の頭と心を支配した瞬間だった。
先生と同じだ・・・
岬と初めて会った時に感じた和希の面影、当時は漠然としていた彼の印象が、今この瞬間やっと理解できたような気がした。
両親を亡くしている和希。唯一無二の肉親を亡くした直後、彼が戦っていた相手は絶望的な孤独。常に彼の傍から離れず心の支えになっていた瞳が彼を悲しみと絶望のどん底から救い出したのである。
岬の背景や生い立ちは知らない。だけど、華やかな外見の裏で常に感じていた寂寞の正体が何なのか、この時分かった気がした。
「ごめんさない・・・」
それが瞳が口にできた精一杯の答え。
岬は暫く黙っていたが、涙を拭うとしっかりと瞳を見据え、強い意思のある声で語りかけた。
「謝らなくていい。その代わり、どうしても約束は守ってほしい」
瞳はもう岬から視線を逸らすことは出来なかった。
「一ヶ月だけでいい。チャンスがほしい」
「一ヶ月・・・?」
「君が彼氏を思う気持ちが強いのはよく分かった。だけど、彼氏に勝てないと分かっていてもどうしても諦めきれない。だから、一ヶ月だけでいいから俺にチャンスをください」
「でも・・・チャンス?・・・」
何が何でも岬を排除しようとする当初の気持ちは、この時はもう無くなっていた。
「二時間でいい、いや、一時間でもいい。毎日二人だけの時間がほしい」
「二人だけって・・・」
「外で会うのが嫌なら、この部屋でもいい。勿論、君に指一本触れない。約束する。ただ、俺という人間を知って欲しいだけだ」
「・・・・・」
「一ヶ月一緒に過ごす時間を俺にくれたなら、後はもうスッパリ君のことは諦める。だからお願いだ、この通りだ」
そう言ってベッドから降りると正座をして頭を下げる岬。
その姿を見て凄まじいまでの罪悪感に苛まれた瞳は、慌てて岬の頭を上げさせ、その提案を受け入れた。
帰りの電車でつり革に掴まりながら頭を項垂れる瞳。勢いとはいえ、岬の提案を即受け入れてしまった事で、今度は和希に対する罪悪感で気分が落ち込んでいた。
私って、なんなんだろう・・・行ったり来たり?・・・
いや、私の気持ちはどんなことがあろうとも揺るがない。けど・・・・・
大丈夫、お話するだけ。同じ大学なんだから、いくら岬さんでも変なことはできないよ
一ヶ月・・・一ヶ月我慢して、それで全てをリセットできるなら・・・
翌日から、主に夕方の1時間から2時間、岬の部屋で過ごす事が日課になった。
大学での話、バイト先での話、芸能人の話・・・なんの他愛のない話を岬は喋り続けた。時々瞳にも話を振ったりしたが、特にプライバシーに関することには一切触れず、彼女がストレスなく会話できるように、細やかは配慮も忘れない。
この人のこういう雰囲気作り、やっぱり女の子の扱いに慣れてるっていうのかな・・・全然嫌な気にならない。正直、楽しいって思ってしまう事もある・・・まだ3日しか経っていないのに
それに、指一本どころか、私の半径1メートル以内にすら入ってこない
色々と気を使ってくれている事で、私にじゃなくて先生に対しての尊敬の念みたいなものも感じる。それが本当に嬉しい・・・・・麻衣が好きになった理由も、今なら何となく分かるかな・・・
こうして一週間が過ぎていった。
この一週間、変わった事と言えば、高梨から麻衣の浮気を疑う相談が一度あっただけ。以前岬に思いを馳せていた麻衣には、何となく今の状況では突っ込んだ話がしにくかったので、この件については高梨にはアドバイスらしいことは何も出来ないでいた。勿論、麻衣が浮気をするような人間ではないという確信もあったが。
それと、良くも悪くも瞳の和希に対する振る舞いも、以前と何ら変わらずにいた。結局、あの事は和希には告白できないでいたのだ。
一ヶ月経って岬との関係が精算された時、全てを話そう・・・そう考えていたのだが、岬からの降って湧いた提案にこじつけて自分に言い訳しているような気がして、心中穏やかではなかったのも事実。しかし、今の複雑な状況の中では瞳は他に選択肢を見つける事が出来なかった。
ただ、和希に対する瞳の想いは、以前にも増して一層強いものになっていった。朝は和希が目覚める前から、夜は和希が眠りに落ちるのを確認するまで、ずっと彼の傍を離れないでいた。
「今までで最高かな。こんなに先生のことを四六時中考えてるなんて」
でもそんな自分が大好きだったりもした。
岬との関係は、和希への想いをより強くする方向に作用していた。
そんなある日の昼過ぎの事、麻衣を部屋から送り出すと、気怠い身体でシャワーを浴びる岬。このところ、毎日午前中から女を抱いていた。毎日、だ。
明日は誰を呼ぼうかな・・・・・
やっぱどうしても麻衣中心になっちゃうよな。学生の麻衣だったら授業だろうが何だろうが、俺が呼べばいつでもすぐ来てくれるし。ピルも飲み始めたみたいだし・・・
瞳ちゃんに会う前に一回は抜いとかないと、マジで襲いそうになるからな。自分で決めた事とはいえ、あんな女の子目の前にして指一本触れないって、どんな罰ゲームだよ
それにしても、こないだつい余計な一言を言っちまったけど、結果的にはあれが効いたみたいだから良かったよ。俺の身の上話なんて、絶対に誰にも知られたくない。芝居が過ぎて思わず出ちまったけど、瞳ちゃんの心にグッサリ刺さったみたいで良かったわ・・・
あれから一週間過ぎたし、そろそろ本気出さないとな・・・・結構ハードル高い相手だけど、何とかなるだろう・・・
あの身体、早く抱きてえ!
つい先ほど麻衣の膣内に射精したばかりなのに、シャワーを浴びる岬のペニスは再び勃起し始めていた。
「先生、今度の日曜日は仕事?」
「いや、違うよ」
「じゃあさ、映画行こうよ」
「あ〜ごめん、模擬試験あるんだわ、その日。そろそろ試験の追い込み本気でしないといけないからさ」
「そうなんだ・・・」
和希に腕枕されながら、一糸まとわぬ姿でベッドに横たわる瞳。彼女の両足は悩ましく和希の足に絡みついていた。
最近は週に3度は抱き合うようになっていた。益々魅力的になる瞳の身体、益々強くなる和希への想い。そんな二人が頻繁に肌を合わせるのは極当たり前の話だった。
「今度の試験絶対に受かるから、俺」
「うん」
「早く一人前になるからさ」
「うん!」
その先の話は何も言わなくても二人には分かっていた。
二人は視線が絡ませながら、その日最後のキスをした。
そして、日曜日がやってきた。
瞳にとっては生涯忘れる事の出来ない日曜日が・・・
太陽が真南から西に下り始めた昼下がり、瞳は代官山で買い物をしていた。お気に入りのお店で主に下着類を買い込む瞳は当然一人。こういった類のものは、できれば一人の時に買いたかったから、彼女にとっても丁度良かったのである。
一人でこういう所ぶらつくの、久しぶりだな・・・・・隣に先生がいないのがちょっと寂しいけれど、これはこれでたまにはいいかも
えっと、どこだっけ?麻衣が言ってたカフェって・・・
大学傍の行き慣れたカフェと違って、始めてのお店は探している時からワクワク感で気分が高揚し、自然と表情は緩んでしまう。18歳の綺麗な女の子は、その外見とは裏腹に中身はまだ成熟しきらないあどけなさを残していた。
あった!あそこだ。
緑に囲まれて、あ〜いい感じ!確かにカップル向けかな、あの外観は。
・・・・え、あれ?
店先まであと10メートルのところで歩を止める瞳。いや、正確には足が竦んで動かなくなってしまった。
人は想定外の事態に遭遇すると、予想出来ない行動を取る事があるらしいが、瞳の場合はただそこに立ち尽くすだけ。視界は対象の二人以外は見えなくなり、耳も聞こえなくなる。地面に足が付いていないような、所在のはっきりしないボーッとした状態になってしまっていた。
どうして先生が?こんなところに?・・・今日模擬試験じゃなかったの?
え?隣、女の人?・・・麻衣?・・・麻衣、なの?
彼女の視線の先にはカフェから出てきたカップルの姿。肩が軽く接触する距離で並び、楽しそうに笑いながら向こうへ歩いていく後ろ姿を、瞳はただ見送る事しか出来なかった。
通りを歩く一組のカップルに声をかけられて、やっと自分を取り戻す事ができた頃には、既に二人の姿はなかった。
地に足が付かないというか、膝が笑うような妙な感覚のまま、瞳は電車に飛び乗った。
さっきの光景は見間違えなんかではなく、確実に和希と麻衣の二人。模擬試験は丸一日かかるはずだから、和希が瞳に嘘をついて麻衣と会っていた事は、どう逆立ちしたって覆すことが出来ない事実と認めるしかなかった。
悲しい、と感じる事すら出来ない。
初めての感覚に、瞳の精神が追いついていなかったのである。
「あ、そうだ。岬さんの部屋に行かなきゃ」
抑揚なく呟くと、瞳は最寄駅で電車を降りてアパートまでの道をおぼつかない足取りで歩き出した。
頭の中は空っぽ。
ただ単に、もう日課となっていた岬のアパートへの訪問スケジュールを、コンピュータさながらインプットされた機械のように瞳はただ遂行するのみ。
玄関の前で呼び鈴を押すが、岬は外出中のよう。思えば、いつもよりかなり時間も早い。
だけど、瞳はそのまま玄関の前から動くことが出来なかった。
古びた傷だらけのドア、手書きで「岬」と書かれた紙を貼っただけの表札。改めて見つめたそれらの一つ一つが、非日常の中の日常を呼び起こし、意識しないのに涙が溢れ出す。
私が悪いんだ・・・・
私が全部悪いんだ・・・・
でも、どうして麻衣が・・・・
荷物を持ったまま、ドアの前で微動だにせずに涙を流し続ける瞳。
同じ階の住人が奇異な目で瞳を見て通り過ぎていったが、そんな事にも全く気が付いていなかった。
「あれ?瞳ちゃん?」
聞きなれた声。優しく包まれるようなその声に、やっと自分を取り戻す事ができた。
振り向くと、前を開けた半袖のシャツにジーンズ、サンダルを履いてコンビニのビニール袋を下げた岬が立っていた。
背の高い岬が心配そうに身をかがめて瞳の顔を覗き込んできた。
「泣いてるの?瞳ちゃん・・・どうしたの?」
彼は急いで鍵を開けて部屋に入れてくれた。
コンビニの袋にはアイスクリームが二つ。後で私が来た時に一緒に食べようと思って買ってきたらしい・・・そんな何の変哲もない彼の優しさが、今の私には・・・
彼は冷たいお茶をテーブルに出してくれると、私の涙の理由を聞かずに、またいつものようにバイトの話を始めた。面白おかしく話す彼の話術のおかげで、私は少し気が楽になった。
そして一時間が経とうとする頃に、私は聞いた。
「どうして何も聞かないんですか?」
彼は少し考え込んだ後、にっこり笑って言ってくれた。
「泣いてる瞳ちゃん、見たくなかったんだよ。まずは笑顔になってもらおうと思ったから。俺が理由を聞いたら瞳ちゃん、もっと泣いちゃうんじゃないかと思って。言いたくなけりゃ言わなくてもいい。俺は君のことを笑顔にする事に全力を尽くすだけだよ」
これを聞いて、私は今日あった事を全てこの人に話そうと思った。この人は、自分の興味よりも相手の気持ちを優先してくれる人だと思ったから。今日はこの人の優しさに甘えてしまおうと思った。
あくまで「人生の先輩」として・・・・
全てを話した。私のハンカチは涙でびしょびしょになるほど濡れていた。
岬さんはどんな反応をするのだろう・・・少なくとも、私は全てを打ち明けた事で少しだけ救われたような気がした。それだけでも良かったと思っていた。
彼は自分の新しいハンカチを私の目の前に置くと、再び1メートルの距離に下がって言った。
「何かの間違いだよ、それ。瞳ちゃんの彼氏に限ってそんな事はしないと思う」
「え?間違い?」
「だって、瞳ちゃんが子供の頃から信頼している彼氏なんだろ?君が選んだ彼氏がそんな事をするはずがないよ。うん、絶対に何かの間違いだ」
彼は真剣な眼差しでそう言ってくれた。
・・・・やっぱりこの人に言って良かった。
この人は、私と先生の事を真剣に考えてくれている。
私の事を好きでいてくれる相手に相談すべき内容じゃなかったのに・・・普通なら彼氏に対して罵詈雑言くらいは当たり前の話だと思うのに。
本当にこの人に相談して良かった。
・・・でも、・・・でも、なんだろう、この胸のモヤモヤは・・・
瞳は礼を言って岬の部屋を後にした。
足取りは軽く、とまではいかないが、心の重りはだいぶ取れたような気がした。
そうだ、何かの間違いだよきっと。サプライズ?私に内緒で二人で相談してプレゼントでも買ってくれるのかもしれないし。
うん、絶対に間違い。岬さんの言うとおりだよ
岬に言われたことを思い出し、何度も頭の中で反復する。すると不思議なもので、本当に二人の間には何もなかったと確信出来る程にまで自分を納得させる事が出来たような気がした。一種の自己暗示だった。
しかし、心の片隅で芽生え始めたある感情を押し潰す為の自己暗示「作業」とも言えた。
落胆にも似たその感情を認識する度に彼女は戸惑い、どん底へ叩き落とされるような暗い気持ちになっていった。
その夜は、流石に平常通りに過ごすことは出来なかったが、極力和希と二人きりになる事を避けた為、宮條家は表面上はいつものように時間が流れていった
「明日になればきっと大丈夫、きっと・・・」
そう呟きながらベッドに潜る瞳。
翌日、午後の授業が一段落した構内。
教科書をバッグにしまいながら、この後行く予定の岬の事を考えていた。
少し前までは憎しみすら覚えていた相手、一切の妥協を許さずに拒絶していた相手の事を、今では「友人として」受け入れる事が出来る。
二週間程度しか経っていないのに、あまりにも多くの事があり過ぎた。そしてその事で皮肉にも岬の男としての度量、魅力を嫌でも認識させられる事となり、今では感謝する気持ちすら持ち合わせる程の相手になっていた。
あと2週間でそんな相手との関係も終わり、和希一人の事を考えればよくなる。そう思うと、寂しさに似た感情が湧き上がる事もあったが、当然そんな気持ちを容認することはなく、瞳は自らの心を律する事でそれを回避していた。
教室を出たところで携帯が鳴った。高梨からだった。
「どうしたの?」
「瞳ちゃんには言っておこうと思ってさ」
「なに?」
「麻衣ちゃん、やっぱ浮気してたよ。少し問い詰めたら白状した」
「・・・・・」
言葉が出なかった。またもや頭の整理が追いつかない。それでも高梨は続けた。
「でも俺、麻衣ちゃんのこと本気で好きだから、へこたれないよ。彼女の心、取り返してみせる」
「ま、麻衣は?」
「もう絶対に浮気しないって誓ってくれた。泣きながら謝ってくれたよ」
「相手は?」
「分からない。そんな事はどうでもいいんだ、俺。彼女さえ戻ってきてくれれば」
「どうして分かったの?」
「麻衣ちゃんが男の人と歩いているの見た人がいて。それで問い詰めたら、って感じ」
瞳は勇気を振り絞って聞いた。これを聞いたら全てが終わるかもしれないという恐怖に駆られながら。
「男の人と一緒に居たのって、いつの話?」
「昨日」
その後の記憶がない。
私という人間は、自分に都合の悪い事はすぐに忘れるよう上手く出来ているらしい
記憶がない中で、自動的に足が向いた場所はここだった
もう自分を律するのは面倒だ。本能につき動かされた結果がこれならば、今は素直に従おう
ほら、見慣れたドアの前で呼び鈴を鳴らすと、あの人がすぐに出てきてくれた。彼の笑顔、彼の優しい声・・・・今の私が求めているのは、こういう事なんだろう・・・
・・・・凄いな・・・・
本当に大きい身体だね・・・
でも私、知っているはずなんだよね、この感触
あの時は貴方のこと、拒否していたから、きっと私の記憶回路が上手く消去してくれたんだよね・・・
でも、今は多分忘れないと思う。だって、酔っ払っていないし、本能でここまできたんだから
その代わり、現実を忘れたいかな・・・・逃げてもいい?いろんな事から・・・
て言うか、逃がしてよ、今は・・・・今だけは・・・・
涙が頬をつたうのを感じながら、瞳は精一杯背伸びをして彼の口づけを受けた
瞳の大いなる錯誤により、間違った方向に回りだした運命は、もう誰にも止められなかった
Comments
そういう間違ったエロ漫画的表現を小説で描写されると現実に引き戻される。
※二回抜いたあとの賢者モードにて
小説もフィクションなんだから受け入れれば良いのにマジ困った性分だわー
「自宅に来られると私が困るんです。岬さんこそ、分かってください」
強い意思が感じられる麻衣の態度に次の言葉を考える岬。
ここは麻衣じゃなくて瞳だよな?
子宮口の話、昔交友の少しあったおじさんから聞きました。一緒に温泉入ると、座った時にリアル三本足みたいなご立派な持ち物のおじさん(笑)。相手が経産婦かどうかは聞いてませんでした。
普チンの私には一生縁の無い話だと思うとやたら興奮したのを覚えています。
まあ、走り出してる事なんで、このまま行かせて貰いますね。
「二通目のメール」
それにしても、自宅を知られたのは正直良い気がしなかった。
そして次の一文に麻衣は釘付けになった。
釘付けになったのは麻衣じゃなくて瞳だよね?
完全に鬼椿のパクリじゃんこれ。
もっとはっきり区別できる特徴ある名前にしとけば良かったです
鬼椿ですが、最初にも言われたような・・・
こればかりは「たまたま」としか言いようがありません
それだけ鬼椿の支持者が多いという事でもあるかと思います。
それに比べて私は文才の無いただの男ですが、エロだけは自信があります(笑)最後までお付き合いいただければと思います。きっと、スッキリする後味の良い話になるはずですから・・・(多分)
完結が楽しみで仕方がない
続き期待してます。
いいんだよテンプレ通りでも。そのテンプレが好きなんだから。